先生の異常な愛情~または彼は如何にして平凡であることを止めて熟女を愛するようになったか~
緊張感に包まれた放課後の教室にて。
先生と友人の母が向かい合って座っていた。友人の母にギッと睨みつけられ、先生は困り顔で萎縮していた。張り詰めた空気のなか、まだ若い教師は居心地悪そうに眉を落としている。
「先生」
友人の母の声は怒りに震えていた。
「娘との距離が近すぎやしませんか。あの子は毎日毎日先生とああしたこうしたって何も知らずにお話してますが、私にはおかしいとしか思えないんですよ。あんなまだ小学生の娘に興味を持つ変態だって世の中にはいて、被害に遭う子だっているじゃないですか。だからね、あまりウチの子にベタベタされますと、おかしいなって思うんですよ。というかあからさまに怪しいとしか思えないんですよ。主人にもその話をしたら、ぜひとも先生とお話すべきだって言われて。今日はね、先生の正直な気持ちを聞きに来たんです。先生は教師には向いていない方なんじゃありませんか。そうなんでしょう? はっきりおっしゃってくださいよ。そもそも――」
先生は弱り切った様子だった。何度も何か言いかけ、そのたび遮られているのだから無理もない。
教室の外から、友人が中を覗いていた。彼女に一緒にいてと言われて私はここにいる。友人がただ物怖じしなくて懐っこい女の子なだけだと思うのだが、親の眼鏡には変な色が入っているらしい。
「ただ先生と仲良くしたかっただけなのに。お母さんはどーして怒ってるんだろ」
不思議顔で友人が言う。事態の深刻さが、この少女には欠片も伝わっていないようである。
先生を憐れだとは思うが、私は自分の担任である彼と直接話をしたことがない。だから助ける義理もない。というかそもそも助けられないのだ。
想像してみて欲しい。幼女愛好趣味の疑惑がかけられている先生を庇い、友人と同じく小学生である私が割って入って「先生はわるくないの!」と言ったらどうなるか。どう考えても疑惑が加速する。
そういう訳でこの場で一番の部外者な私は今猛烈に帰りたいのだが、友人に手を握られて逃げられない。
何か言おうとする先生をまた遮って友人の母はまだまだマシンガントークを続けていたが、次の瞬間、とうとう決定的な一言を放った。
「このロリコン!」
その言葉だけが妙に教室に響く。
――ガタン!
次の瞬間、先生がカッと目を見開き、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「失礼な! 私は年上好きです!!」
先生は高らかに告白した。ついに言ってやったと得意顔をしていた友人母だったが、あまりに真剣な先生を前に何故か頬を染め、そんなこと急に言われても。もじもじ。気持ち悪い反応をしだす。
そんな彼女に首を振り、先生はなおも叫ぶ。
「あなたでは若すぎる! あなたではまだ足りない! あなたのお母さんくらいが俺の好みです!!」
時が止まった。
登場人物紹介
先生:25歳の男性教師。ロリコン疑惑をかけられている。
友人の母:29歳。昼ドラが好きな専業主婦。妄想と暴走が多い。デンジャラスな人妻。
友人:7歳。小学生の女児。無邪気な小悪魔。
私:8歳。小学生の女児。うさぎ当番。
友人の母の母:52歳。子育てに失敗した。友人の放置した朝顔を育成中。
友人の母の夫:31歳。最近妻がめんどうくさくなってきた。放置中。