そうこなくっちゃ
「焔祓!」
四つ声が同時に鳴り響いた。
直後、四人の掌から火炎放射器のように焔が吹き出される。炎は四方から拡がりながら放出され、逃げ道となる隙間もなく迫る。
その場に留まっていたら、俺も直撃していただろう。
だが出で立ちの異なる男たちと、それらが掌を向けるのを見たとき、俺は魔法を予測し、駆け出していた。
一体どのような魔法かは流石に分からないが掌から何かを出すのは明白だし、距離は向かいにいる味方に届かないものか、自在に変更できるものに絞られる。
一種の賭けだった。
いくら考えても推測の域は出ないし、ましてや考える時間もなかったのだ。
勝負に賭けはつきものだ。
そして俺は、最強故に必ず賭けに勝つ。
「くっ・・・!」
俺は目の前にいた一人に狙いをつけると、全速力で駆けた。そして魔法が炎のものであり、掌から円錐のように拡がっていくものだと分かると、人一人分残された地面との隙間に足から滑り込んだ。
少しでも反応が遅れていたら、隙間もなかったことだろう。俺は賭けに勝ったのだ。
肺が焼けないよう呼吸を止め、目を閉じ、滑りながら焼けるような熱を顔面に感じた。だがすぐにその熱を過ぎたのが分かった。目を開けば、二メートル前で狙いをつけた男が唖然と俺を見つめていた。
俺は滑った勢いのまま体を起こし、その距離を二歩で潰すと、まだ炎を放出している男の手首を切り落とした。
悲鳴を上げる男の首筋に剣を添え、俺は周囲に聞こえるように叫んだ。
「大人しくしろ!こいつがどうなってもいいのか!」
すると、思っていたより呆気なく残りの炎は止んだ。魔法を使える奴が貴重なのか、はたまたこいつが上位の階級なのか。どちらでもいいが、これは運が良かった。
男は首に添えられた剣を恐れたのか、悲鳴を必死に堪えている。
俺は男を脅して、円形に囲まれている中央まで歩いた。
さて、どうしたものか。
このまま戦い続けてもいいが、依然としてウッズ将軍とやらが来る気配がない。奴が来なければ俺がここで戦う意味もなくなる。
情報が行き届いていないのか、俺の存在を脅威に思っていないのか。どちらにせよ、大した奴じゃなさそうだ。
「おい。ウッズ将軍とやらはここに来ないのか?自陣のど真ん中でたった一人に百人近く兵を殺されているわけだが」
男はふるふると首を振る。いきなり動くものだから刃が触れそうになる。
「あの人の考えてることは分からない!西陣の制圧を優先するかも・・・」
男の口調に引っかかるものを感じたが、そのことはすぐに考えるのをやめた。
「そうこなくっちゃ」
大きな蹄の音とともに、強者の存在が近づいて来るのを、俺は感じ取った。