運が悪かっただけだ
「なかなか来ないな。作戦失敗か?」
もしそうだとしたら、セフィリアに会わす顔がない。
「貴様、何者だ!」
このセリフを聞くのは今日で二度目だった。だが一度目と違い、言ったのは筋肉質の俺だ。
男の持つ槍は忙しなく震えている。こいつが戸惑い、動揺し、そして恐れているのは一目瞭然だった。
周りがただ息を呑んで見ている中、それでも俺に声をかけてきたことを、俺は勇気ある行動として評価する。
「だからせめて、苦しまずに逝せてやる」
俺は先ほど敵から奪い取った剣を一振りし、男の首を狙った。
が、直前に男が恐怖からか足を滑らせ、狙いが狂い顔面を切り裂いてしまった。
痛々しい叫び声が、戦場とは思えないほど静寂な周囲に鳴り響いた。その声はより一層兵たちの恐怖を煽り、警戒させた。
俺は自らの正当性を主張する。
「待ってくれ。今のはこいつが動いたせいだ。決して狙ったわけではない」
そう言ってみたものの、効果は薄かった。
俺は肩をすくめ、言った。
「まぁいい。どうせ分かってくれようがくれまいが、お前ら全員死ぬんだからな」
言い終えると、切り裂かれた顔を抑え蹲る男の首に剣を突き刺した。
それを契機に、兵士たちが一斉に俺めがけて走り出す。
多方向からの攻撃だと予測した俺は握っている剣を一人目掛けて投擲し、首が撥ねた。突き出される七本の槍を、俺は空いた一人分の穴に滑り込んで避ける。
転がる俺を追う刃先は地面へと突き刺さり、俺はその中の一本を奪い取った。武器を奪われ慌てる兵の頭を石突で殴り、追撃してくる槍を槍で払いのける。
敵がいくらいても、同時に戦える人数は限られている。密集すれば武器を満足に振ることができないためスペースの確保をしなければならないし、警戒するのは自分を囲んでいる大群の、前から数列だけでいい。
他の奴にできるかは分からないがな。
「ぬぅっ!!」
前方から縦に振られた剣を半身で躱し、石突で下からそいつの顎を砕く。背後に向いた刃先をそのまま突き出し、後ろから迫ってきていた一人の胴を貫いた。
槍を抜こうとしたら強い抵抗があったので槍を手放し、代わりに顎を砕かれてのたうちまわっている男の剣を奪う。
視界の端に、胴を貫く槍の柄を懸命に掴んでいる兵がいるのを捉えた。
相手が必死なのだと改めて実感し、同時に可哀想に思える。
「運が悪かっただけだよ、お前らは」
咄嗟に屈むと、頭の上を剣が通過する。屈んだまま右足を後ろに蹴り上げ、その剣を握った兵の指を踵で粉砕した。
「うっ・・・!」
ひしゃげた指からこぼれ落ちる剣の柄を、何も持っていない左手で掴んだ。そして、一斉に切りかかって来る三人の攻撃を剣で防御し、躱す。
三人が血を噴いて倒れた。回避しながら攻撃を加えていたことに、彼らは気付いただろうか。
すると、唐突に追撃の手が止んだ。見回すと、まだまだ兵は残っているが、皆五メートルは距離をとっている。そして四方には、こちらに掌を向ける異装の男たちがいる。
その意図を、俺は瞬時に悟った。
「焔祓!」
四つの声が同時に鳴り響き、爆炎が俺を襲った。