なぜ笑っているんだ?
読んでくれる人がいるっていうのは、思った以上に嬉しいですね。
早々に美女と出逢えたのは幸運だったが、のんびり談笑する暇は無かった。しかし美女の上に落としたのもアニエスの裁量だとしたら、これは感謝するべきなのだろう。
幸い、セフィリアの愛馬の傷は浅かったので一般兵が後陣へと連れて行った。俺たちのいた戦線はセフィリア側が押していたのでその余裕も生まれたらしい。
彼女の表情に喜の色が出たのを俺は見逃さなかった。一瞬とは言え、彼女の性格はなんとなく予想できた。
「悪いがゆっくりしている暇はない。西陣が壊滅寸前なんだ」
「なら急ごう。馬もないしな」
彼女の後に続いて、俺も駆ける。
西陣までどれほどの距離があるのか分からないが、セフィリアの様子を見るにそれほど遠いわけではなさそうだった。
しかし、それよりも心配なのはセフィリアの疲労だ。どれほどの戦争なのか知らないが、彼女は肉体的にも精神的にも疲弊していることが分かる。
しばらくして、前方からは断末魔と叫び声が聞こえてきた。
同時に、鼻をつんざくような肉の焼ける臭いも。
「あそこだ」
俺たちのいるところは小高い丘になっていた。その下で、戦いは繰り広げられていた。
紅い旗を携えている兵と、深緑の旗を携えている兵がいる。
なるほど、俺は納得する。
紅い旗の方が見るからに兵が少なく、疲弊している。士気も下がっているいることが分かった。あちらがセフィリアの国の兵なのだろう。
そして敵陣の中に、ひときわ目立つ男がいた。
男はその巨体にふさわしい大きな馬に乗り、大剣を片手で軽々と振り回し、兵をその鎧ごと断ち切っている。
獰猛さが滲み出た大男だ。
隣でセフィリアが苦々しく呟く。
「ウッズ将軍だ。剣の達人でありながら魔導師級の炎魔法を操ると言われている」
「友好国だったのに、噂程度にしか知らないのか?」
両国の関係や戦争の経緯については、道中大まかに聞いていた。
「彼はあまりそういう場に顔を出さないのだ。武闘派で、我々との関係にも不満があるとは当時から噂になっていた」
それならもっと早く対応するべきだったろうにと呆れるが、詳しい事情を知らない俺が口を挟むことではない。
そこで、俺はあることを聞き流していたことに気付いた。
「炎魔法?」
セフィリアがあまりにも自然に言うものだから気にならなかったが、これは俺にとって、俺がこの世界で生きていくのに非常に重要になるだろう事実だった。
セフィリアは思い出したように答える。
「あぁ。言っていなかったか?」
「いや・・・それにしても魔法か」
確かに初耳だが、とりたてて驚くことではない。
何せ、俺のいた世界では超能力が溢れかえっていたのだから。
炎を操る奴だっていたし、千里先を見通す奴もいた。だから魔法のある世界があってもおかしいことはない、はずだ。
なるほど、これは・・・
「素晴らしい」
その呟きは小さく、セフィリアの耳にははっきりと聞こえたなかったようだ。
セフィリアが、怪訝に俺を見つめる。
「どうかしたか?なぜ・・・笑っているのだ?」
訝しげなセフィリアに対して、俺は釣り上がる頬を抑えず、そのまま微笑んだ。
「なに、これからの楽しい日々を想っていただけだ」