囲まれてるぞ?
全くもってありえない。
異世界に来ることに抵抗がなかったわけではない。が、それを確かに俺は受け入れた。
次の世界でも、いや、次の世界でこそ俺は自由に力を使い、自由に金を使い、自由に戦うのだと。
つい数秒前まではそう意気込んでいた。
空に出現した理由は分からないが、あのアニエスという神があまり役に立たないことは分かった。
まぁいいさ。神になんか頼らなくても、
この俺に不可能はない。
「な、何者だ!?」
目の前にいる騎士が荒々しく叫ぶ。剣の刃先ははっきりと俺に向けられている。
こいつは腹を立てているのではない。
未知に対する恐怖から来る虚勢だ、これは。
「なに、神に捨てられたただの迷子だよ、騎士様」
登場があまりにも不甲斐なかったので、セリフは格好良く決めた。過去の経験からいって、こういうことは結構大事だ。
「ふざけるな。貴様の所属はどこだ!」
ふむ。辺りの様子から見るに戦場か、ここは。戦場の上空に飛ばすとは、神の考えていることは分からん。
「所属はない。フリーの殺し屋だ」
「殺し屋だと?」
騎士が明らかに警戒するのが分かった。剣がさっきよりもしっかり握られている。
先ほど俺が落ちて来るのを察知して回避した騎士だ。本能を優先して体を動かすとはなかなか見所がある。
しかし恐怖は拭えないだろう。
「まぁ落ち着こう。俺も何がなんだかさっぱりなんだ。しかし、よく避けられたな。直撃するかと思ったんだが」
「やはり私の命が狙いか」
キッと刃先を首筋に突きつけられる。俺は降伏のポーズとして両手を顔の横まで上げた。
「待て。落ち着け。俺がアンタの命を狙っているとしたら、「どけ」だなんて言わないだろう?」
剣に込められる力が弱まる。この騎士も気にかかっていたのだろう。
騎士の動揺がはっきり伝わってくる。
「それより・・・いいのか?」
「何がだ?」
再度刃先を首筋に突きつけられる。
しかし、そんな余裕があるのか、こいつは。
「囲まれてるぞ?」
空から人が落ちてきたんだ、目立つのは当然だ。それにお互い身に覚えがないなら、確かめに来るのもまた当然。
舌打ちとともに、突きつけられた剣が離れる。騎士は焦りを露わに、じりじりと近づいて来る兵を見回した。
兵は全部で九人いた。。皆同じ兵装をしている。
雰囲気から察するに、この騎士様の敵なのだろう。
「俺がアンタの敵ではないことを証明してやる」
「何だと?」
騎士が背中越しに聞き返す。
簡単に背中を見せる騎士に半ば呆れたが、俺が敵ではないことに賭けたのだろう。ならば勝たせてやるほかない。
「アンタはそこで馬の看病でもしていろ。三分あれば十分だ」
「馬鹿な、この人数を一人で・・・」
そこまで言うと、騎士は唇をきつく結び馬を守るように剣を構えた。
やはりこの騎士には見所がある。
「さて・・・」
敵九人が武装状態。対する俺は馬一匹と騎士一人を素手で防衛、か。
少々味気ないが、
この世界での俺の初舞台だ。
まぁ、良しとしよう。
「行くぜ」