アンタが本当の神なんだろうな
駄文にお付き合いください。
━━━━━━死んだ。
そう確信した。決して気のせいなどではなかった。
だがしばらくして、俺はまだ自身の意識とあらゆる感覚が残っていることに気付いた。
固く瞑っていた目をゆっくり開くと、そこは何も存在しない、果てしない真っ白な空間だった。
いや、空間というより、ここはそういう世界なのかもしれない。人はおろか生き物の気配はまるでない。天上は低いようで、まるでそれが空なのではないかとも思える。
どこかの地下シェルターかと思ったが、俺の直感はある一つのことを告げていた、
ここは地球ではない。
ましてや、俺が死んだはずの場所でもない。
ここはどこだ?
・・・俺はすぐに考えるのをやめた。
こんな何もない場所に手がかりがあるはずもないし、こんな広い場所を歩き回る気もさらさらなかったからだ。
俺はあることを思い出した、右の脇腹をさすった。
服装は死んだときのままだった。
死んだときのまま、白いシャツは血にまみれ、ナイフが刺さった穴がある。
しかし、傷はなくなっていた。 痛みがなかったのだから当たり前だが、やはり戸惑いは拭えない。
まあ、いい。
なぜアイツが俺を刺したのか、何か理由があったんだろう。避けようと思えば余裕で避けられたし、浅い傷で済ますこともできた。
だがアイツの目を見たとき、俺は受け入れようと思ったのだ。
こいつになら殺されてもいい、と。
思わず目を瞑ってしまったのは、やはり内心では死に対する恐怖があったからなのだろう。職業柄死ぬことを覚悟していないわけではなかった。いや、覚悟していたつもりだった。
レーザー光線を意気揚々とぶっ放してくる狂人や、当たり一体を焼き焦土にするようなサイコ野郎と戦ったときも、恐怖というものはなかった。むしろ楽しんですらいた。
ふと、思わず笑みがこぼれた。
少しだけ恐怖を抱いたことが、自分も人間だったのだという証のように思えたのだ。
化け物と呼ばれることには慣れていたし、自分でも自身を化け物だと思っていた。そんな自分に好意を持つ物好きな奴らもいたが、後ろめたい感情はあった。
そのモヤモヤが一気に晴れたような気がして、やはり俺は、嬉しいと感じている。
俺は満足してため息をつくと、口を開いた。
「それで、誰だお前は。途中からこそこそこっちを窺ってるのは分かってるんだ」
声は少しも反響しなかった。天井が低いということはないらしい。
そして、目の前で黄金が煌めいた。
「ようこそ、生と死の狭間へ。進藤カズマくん」
黄金の粒子から現れた、白い外套を羽織っただけの美女は、長い金色の髪を揺らして言った。それだけで癒されるような心地良い声だった。
「・・・・・・」
登場の仕方やら聞きたいことはたくさんあるが、ひとまず落ち着こう。どうやってか美女がふわふわと宙に浮いているが、落ち着こう。
今すぐにでも掴みかかりたい衝動に駆られるが、すんでのところで留まった。
サシで相手が何者か分からず、かつ自分の素性が知られているのは最悪の場面だ。動揺を悟られても、感情も思考も悟られてはならない。
とりあえず、相手の出方を伺う。
「俺の本名を知ってるのは、真島の兄弟たちぐらいなんだがな」
目の前の美女は何も言わない。
絹のような金髪が揺れただけだ。
「あいつらに恋人ができたってのは初耳だ。誠也か?健人か?女っ気のないアイツらに女が出来たのは喜ばしいが、家族を裏切るなんざ、流石に死刑確定だ」
呆れたように、肩をすくめる。
「てなわけで、早く俺をここから帰してくれないか?できれば池袋にあるあいつらの家の
前に送ってくれると助かるんだが」
ふふっ、と金髪の美女は笑った。
まさか反応があるとは思わなかっただけに、少し驚いた。しかしそれすらも隠さなければならない。
「あなたのことをずっと見ていたわ、進藤カズマくん。それともこう言った方がいいかしら、能力者殺しさん」
「・・・その呼び名はやめてくれ。人に言われるのはあまり好きじゃない」
「知っているわ。言ったでしょう?ずっと見ていた、って」
「ならどうして・・・」
「あなたの反応が見たかったの。能力者殺しさん」
そこで、俺は気づいた。もう少しで声を出していたかもしれない。
相手の反応を伺っていたつもりが、まんまと同じ手引っかかっていたのだ。
しかし、いくら俺が心理戦苦手だからと言って、今のは簡単にペースに乗せられすぎだ。
一体どんな魔法を使ったのか、少しばかり美女を睨みつけるが、すぐにやめた。美女と敵対するのは俺の流儀ではない。
「わかった、俺の負けだ。だから説明してくれよ。この場所のこととか、アンタ自身のことも、全部」
「ごめんなさい。心理戦が得意ではないこと気にしていたものね」
そんなことまで知っているのか、驚いたが顔には出さない。せめてもの意地だ。
「でも気にしなくていいわ。私は神だから、人間の心はお見通しなのよ。表情や挙動以前の問題なの」
「神・・・ね」
俺は自分を神と自称する奴をたくさん見てきた。
あまりにも大きな力は自身を見失わせる。それは権力にも財力にも、そして超能力にも言えることだった。
俺はそういう奴らを幾度となく葬ってきた。裏社会を牛耳ろうとしたイタリアマフィアのボス。財界に混乱を招こうとした超一流企業の社長。嵐を巻き起こしてニューヨークを壊滅寸前に追い込んだ薬物中毒の超能力者。
野心のある奴もいたし、ただ単に頭のイカれた野郎もいた。だから神を名乗る奴は見慣れている。だからこそ分かる。
「アンタはきっと、本当の神様なんだろうな」
「ええ。そして不思議なことに、その神を名乗る人々を葬ってきたあなたは、自身を神と名乗ることはありませんでしたね」
「代わりに化け物呼ばわりされたよ。まぁ、そんなことを気にする俺でもないがな」
その言葉に、神を名乗る美女は眉をひそめた。それが何を意味する反応かさえ、分からない。
彼女からは、およそ感情というものが伝わって来なかった。
「説明しましょう」
美女は、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
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