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興奮の源

掲載日:2025/12/21



彼を見た瞬間、

ほしいと思った。



頭ではなく、

身体のどこかが先に疼いた。


それは好意よりもずっと下品で、嫌悪よりもずっと正直だった。


視線が合っただけで、

距離が測られる。


声を聞いただけで、

喉の奥が反応する。


触れてもいないのに、

身体はもう覚えてしまっている。


この感情を[恋]と呼んでしまえば、少し楽になれる。


でも同時に、それは嘘になる気もしていた。


私はもう、理由のない衝動に名前を与えられるほど、若くはない。


だから私は、過去の話から始めることにした。


「若い頃はさ、今思うと笑っちゃうような遊び方してたわ」


自嘲気味に言う。



懺悔でも告白でもない、

軽い昔話。


だから私は、いきなり現在の話はしなかった。

大人はそうしない。

過去を差し出して、相手の反応を見る。


これは正直さじゃない。値踏みだ。


もし彼が、

「へえ、そうなんだ」とだけ返したら――

この人は安全で、つまらない。

踏み込む勇気も、踏み込まれる覚悟もない。


もし彼が、

「どんな遊び?」と興味本位で聞いてきたら――

欲はあるけれど、私を“今”ではなく“ネタ”として見ている。

悪くないけれど、深くはならない。


「今のほうが、よっぽど慎重なのにね」

過去の話をしているふりをして、

現在形を混ぜる。

それが、大人の踏み込み方だ。




彼は、少し間を置いてから言った。

「今はもう、しないんでしょ?」

その一言で、空気が変わった。


過去と現在を分けて見ている。


私を“器用に遊べる女”として処理しようとしていない。


めんどくさい。

でも、嫌いじゃない。



「しないわね。あの頃は……楽だったけど」


幸せだった、とは言わない。

満たされていた、とも言わない。


“楽だった”は、浅さの証明だ。

これ以上、彼に背負わせないための言葉。


もし彼が、

「楽ならよかったじゃない」と軽くまとめたら――

ここで終わり。


もし彼が、

「寂しくならなかった?」と同情したら――

その瞬間、興味は冷める。



彼は笑わずに、こう言った。

「楽って言えるの、ちゃんと終わってる証拠だと思う」


責めない。

同情しない。

でも、理解は示す。

ああ、この人も同じことをしている。


私を値踏みしながら、

自分がどこまで近づいていい男か、測っている。


若い頃なら、こんな読み合いはしなかった。


欲しいと思ったら、確かめる前に触れていた。


身体が先で、言葉は後回しだった。



でも今は違う。

この会話の一言一言が、

キスよりも、肌よりも、ずっと神経を撫でてくる。

彼がどう返すかで、

自分がどう動くかを想像しているこの時間。


相手の言葉を待ちながら、

自分の中の臆病さと計算高さを愛おしく感じている。


私は知っている。

これは恋かどうかを確かめる会話じゃない。


私はこの感情を、恋と呼びたい人間なのかどうか――

それを試しているだけだ。


そして今の私は、

若い頃ならしなかったこの読み合いを、渇望している……


言葉の裏を読む。

沈黙の意味を測る。

一線を越えないことで、相手の本気度を確かめる




身体では味わえない興奮が、ここにはあるからだ。




この瞬間……私は


頭と子宮で恋をした。




エッセイか悩みましたが、赤裸々な駄文を読んでくれた方ありがとう。

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