第九十八話
「…という感じなんです。…わっ、わかりづらいですかね?」
僕の説明が終わると、シャルが擬音の多い言葉を使いながら補足していた。
「…って感じで、キノコがドーンとなって、アルがバババッてなってね…。カキッーンとなったあと、バーンとなってヒューと落ちてきたんだよ。それからね…」
…っていうか擬音多過ぎじゃないか? これじゃ、なにがなにやら…。…ん?
そう思いながら周りを見ると、僕の説明より納得しているような表情だった。なんか…釈然としない…。
「アルって…本当にすごいのね…。全然見えないけど…」
「最後のは余計だ。そういえば、アリス…。シオンさんは?」
「今は…そっとしといてあげて…。怪我はないけど…色々、大変だったんだから…」
「まあ、無事ならいいけど…」
その後、シャルの補足が終わり、王様に感謝されると別室に案内された。そして、僕は美味しい料理を食べてお風呂に入った後、豪華な部屋に戻っていた。
「いい湯だった…。…ん?」
ふと前を見るとアリスの部屋の前にシャルが立っていた。どうやら、例のプレゼントを渡しているようだ。僕はアリスの部屋の前をさっと静かに通り過ぎて、自分の部屋に入った。まあ、チラッとだけ見えたアリスの顔は御満悦のようだったが…。
「俺の分はまた今度作ってもらうか…。今日は疲れたから…寝よ…」
僕は電気を消してベッドに入ると、誰かがドアをノックした。僕は起き上がろうとしたが、力が入らなかった。
…ん? …誰だ? 部屋をノックして…。まぁ、アリスのやつが自慢しにきたんだろうな…。大人バージョンのアリスか…。
「みたいけど…。ダメだ…。まぶたが…。眠い…。ぐぅー…」
僕はそのまま深く深く海の底に沈むように眠ってしまった。
「…誰か…いる?」
白いローブをまとった人影らしきものが視界に入った。ただ、ここは死の砂漠だ。なにもない。あるのは大量の砂と猛烈な暑さだけだ。ああ…そうか…。きっと、幻でも見ているのだろう。そんなことを思いながら、靡く白いローブに近づいていた。
「…生きてるのか?」
まさかと思ったが、白いローブの中には人間が入っていた。死体のように一言も喋らなかったが、白いローブをまとった少女は踞り、ジッとこちらを見てきた。生きているヒトの目だ。何年ぶりに見ただろう。いや、そんなことよりも…。
「…みっ、水!?」
あまりの驚きに今の今まで動き出せずにいたが、彼女はボトルに入っていた水をスッと隠した。すると、僕の中に黒い感情が沸き上がり、一歩一歩前に進んでいった。
こいつを…やれば……水が飲める。それとも脅して…水のありかを………。
「……くそっ!」
……今更生きて…どうなる…。…まだ生きたいのか…俺は?
僕は自身の頭を吹き飛ばすような勢いで殴った。久しぶりに見た赤黒い血がポタポタと砂に吸い込まれていった。それを見て冷静さを少し取り戻していると、彼女は急に水の入ったボトルを押し付けてきた。僕は断ろうとしたが、あまりにも強引に押し付けてくるので、ほんの一口だけもらうことにした。
「…ん? ……くれるのか? でも…君の分が……。…わかった……。…少し飲ませて貰うよ……。……ありがとう」
ありがとう…なんていつぶりにいっただろう…。
「…あれ? …減ってない。……まさか…魔法? …そっ、そんなバカな!? …うぉっ!?」
青白く輝く水はキラキラと光を放ちながら、ボトルから溢れ出てきた。僕はこぼれそうな水を無我夢中に飲み込んだ。
「…ごめん。こんなに飲むつもりじゃなかったんだけど…。ごめん…。…償えることあるかな? そうだ…代わりに食べ物は…ないしな…」
やっと溢れ出た水はとまると、ボトルは半分になっていた。なんだか申し訳ない気分になっていた。
「…理性のない獣であればそのまま殺していました」
「…えっ?」
「…ですが…わずかながら理がありました。…故に問います。…貴方はなにを望みますか?」
「なっ、なにをいって…?」
正気を失っている感じでもない。彼女には近づきがたいくらいの確固たる強い意志を感じる。初めてだ。初めて会ったはずなのに…僕は彼女を知っている。
「かつて…彼に望んだはずです。…世界を灼き尽くし…夢幻の如く全て飲み込んだ…。全て…。…これで…よかったのですか? ……これがあなたの願った世界ですか…?」
「……やめろよ!! やめろ…よ……。俺が…俺が…悪いってことくらいわかってるよ!! やめろ…よぉおお…」
「……そんなに悪い事でもありません。…形あるもの…いつかは滅びるものです。…貴方のおかげて、幸せな世界で、永遠に生きていけるのです……」
「それのどこが幸せなんだよ! …お前は一体…何者だ……!? なんで…お前…そんなことを知っているんだ……!! …まさか………」
「……教えてください。あなたを救いたいのです…。…あなたの願いはなんですか?」
俺の願い…それは……。




