第九十五話
「おっ、おい…。まっ、まって…。少し…苦しい…。ダメだ…。これ以上は…。うっ…! とっ、とりあえず…離れて…」
死にそうな声をだすと、その子は焦って離した。僕はもう一度、その子の顔をじっと見ると、確かにシャルの面影を感じた。
「…ごめん」
「いいって…。…でも、本当にシャルなのか?」
「ひっぐ…。お薬…飲んだんだよ…。ひっぐ…早くここに…ひっぐ…くるために…。ひっぐ…強化したんだよ…」
なるほど…。確かに…色々と強化してある。なかなかの攻撃力だ…。
僕はシャルの姿を少し確認すると、目線を上げた。今はふざけてる場合じゃない。
「そうだ…。シャル…。今までの戦いがよく思いだせないんだ…。…一体、どうなったんだ?」
「私もよくわからないよ…。ただ、逃げてる時に…死んだはずの貴方が空にあがっていくのが見えたの…。それで戻ろうとしたんだけど…」
「…戻ろうとしたんだけど?」
「ノームが許してくれなかったの…」
…ノーム? …そういえば、どこにもいないな…。
「…ノームはどこなんだ?」
「わかんない…。私を安全な所に連れてくと急に消えちゃったのよ…。でも、その後でスッゴい爆発があって、アルが空から降ってきたの…。そういえば、どこにいっちゃったのかな?」
……そうか、思いだしてきた。そうだ…。あの時、ノームが急に現れて…。魔物に抱きついて…。その後、爆発して…。まさか…。
「…まさか…俺の身代わりになったのか?」
僕は体を再度確認すると、汚れてはいるが傷一つなかった。いくら神様の装備をつけているとはいえ、普通に考えればありえないことだろう。ノームが僕を守ってくれたのだ。
「…えっ!?」
全くバカなやつだ…。
「…くそぉぉぉおおお! あの…バカ…モグラ…」
頬に冷たいものが流れ、僕は膝をついた。後悔してももう遅い。
「どっ、どういう事なのよ?」
「俺を…爆発から逃がしたんだ…。それで…ノームは死んだんだ…」
「そんな…」
命を惜しまずにもっと早く異空間に魔物を閉じ込めて爆発させていれば…。もしかしたら、なんとか生き残れたかも知れない…。
「ノーム…。なんで、俺なんかの為に…。俺が…俺が…死ねば…」
「そんな事、いわないでよ! 助けてくれたノームに失礼だよ!」
「そう…だな…」
確かにシャルの言う通りだ…。
「でも…ちょっと待ってよ…。…そもそも、ノームって死ぬのかな?」
「…どういう意味だ?」
「だって…元々、体はなかったんだよ。もしかして…もう一度、召喚すれば…」
……そうかも知れない…。いや、きっとそうだ! イメージするんだ…。あのモグラみたいな体型の…。あの、ちょっと憎ったらしい顔を…。…帰ってこい!
「…ノーム!」
地面に触れて叫ぶと、木々達は揺れて地面から鼓動が聞こえ始めた。周りには元の姿に戻った動物達が集まり始め、この大地の主の再臨を待ち望んでいるようだった。
「…アル……」
「……大丈夫…きっと……」
「……」
「……」
「………ギュゥ?」
声を上げながら、ノームは隆起した土の中からヒョコッと顔をだした。僕は地面からでてきたノームをすぐに抱え上げて抱きしめた。
「ノーム! いっ、生きてたんだな!」
「よかったよー!」
ノームは恥ずかしがって少し嫌な顔をしていたが、そんな事はお構いなしだ。だって体が勝手に動いたんだから仕方ないじゃないか。
「…よかった。ノーム…本当にありがとな…」
「ノーム…ありがとー」
「…ギュゥ!」
ノームは照れくさそうに両手を広げて大きな丸にした。どういたしましてって意味だろう。
「…よし。そろそろ、城に戻ろう…。みんなもケガしてるかもしれない…。ノーム…俺の肩に乗るんだ。シャルも僕の手を握って…!」
「…そうだね。早く皆の様子を見にいこう。心配だよ…」
「…ギュギュゥ!」
僕達は空へ飛び立ち、急いで城に向かった。ここに来たときとは違い、鳥達は優雅に飛び回っている。まるでどこかでやったゲームのように僕達を祝福しているようだった。




