第八十八話
僕は元の世界で、悪戦苦闘した日々を少し思いだした。黒すぎる記憶は少し忘れておこう。
「プログラ? …まあ、よくわからないけど、どちらかというと、マニュアルタイプの方が使えると思う。見える範囲で指示をだせば、必ずやってくれるから…」
「マニュアルタイプは格ゲーか…。苦手なんだよな…。格ゲーは…」
「…カクゲー?」
「あっ、いやっ、なんでもないよ…。そうか……」
…さて、物は試しだ。戦力になる可能性があるのなら、僕もゴーレムを作ってみよう。でも、外面のイメージはなにがいいかな…。シャルのカチコチのロボットみたいなデザインはマネしてるみたいで面白くないし…。
「…ねぇ、どうしたのよ?」
「ごめん。ちょっと…考え事…」
うーん…。そうだ…。よし、ノームにしよう…。ゲームによくでてくるモグラみたいなデザインで…。僕より半分位の身長で全ての土属性を操る大精霊みたいなゴーレムを作ろう…。まあ、イメージは自由だ…。いくぞ…。
「ねぇ…。まだな…の……」
僕は手を地面についた。すると、黄色の魔法陣が地面に現れ、地面が段々とまるで心臓の様に波打つような鼓動が発生した。シャルの時はこんなエフェクトはなかったような気がするけど……。まぁ…いいか…。
「……いでよ、ノーム!」
…やべっ、呪文を間違えた。いでよ、ゴーレムだった。…ん?
下を見ると土がボコボコと膨れ上がり、気づけばイメージ通りのゴーレムになっていた。完成したゴーレムはまるで生きているように動きだし、ダルそうにあくびをしていた。
「…なにこれ?」
「なにって…ゴーレムだよ」
「いや、違うよ! …こんなの見たことない。本当に生きているみたい」
「…っていってもな。なんなんだろ…こいつ?」
「わからないよ。でも…。きゃあああー」
シャルの驚いた顔を見てすぐさま後ろを見ると、ニ体のキノコのモンスターが襲いかかってきていた。さっと剣を抜き構えて叩き斬ろうとした次の瞬間、キノコ達は鉄の檻に閉じこめられていた。そして、段々と檻が変形していき、十字架に張りつけになっていた。
「…凄いな。…シャルがやったのか?」
「わっ、私じゃない…」
「…じゃあ、誰が?」
「…この子だよ」
シャルは振り向いてのんびり背伸びしているゴーレムをみていた。ゴーレムは相変わらず緊張感のない顔をしている。
「……まあ、いいか。先にトドメを刺そう…」
僕は剣に火の魔法をエンチャントさせて赤々と燃え上がらせた。キノコ達を真っ二つに叩き斬ろうとすると、モグラのようなゴーレムが柔らかな足で僕の腹をドロップキックし、気付けば数メートル吹っ飛んでいた。
「…だっ、大丈夫?」
「だっ、大丈夫だ。…おい、クソモグラ! なにしやがるんだ!」
僕は起き上がりゴーレムの方を見ると、手をバツ印にしていた。…どういう意味だろうか。
「…なにか理由があるのかな?」
正解しているのかわからないが、ゴーレムは鼻をピクピクさせてうなずいた。
「理由ってなにがあるんだよ。増殖を防ぐには火の魔法しかないだろ?」
ゴーレムは手をバツ印にして首を横に振った。どうやら違うようだ。
「…他の魔法を使えって事?」
モグラのようなゴーレムは首を縦に振り手を丸にした。どうやら正解のようだ。
「ほかのって…なにがあるんだよ。…水?」
ゴーレムは首を横に振った。…違うようだ。
「じゃあ、土…」
再度ゴーレムは首を横に振った。…これも違うようだ。
「うーん、雷?」
ゴーレムは首を高速で横に振った。…これも違うのか。
「じゃあ、風?」
ゴーレムは更に高速で横に振った。あとなにが残ってるんだ。
「わかった! 氷か!」
ゴーレムは足を踏みならしながら首を横に振った。他に魔法なんて…。
「もう…他に魔法なんてないよ」
「いや…もう一つ残ってた…」
「…えっ?」
…そうか、わかったぞ! これかっ!
「わかったぜ、ゴーレム…。…つまり、闇の魔法で完璧に塵も残さず消せって事だな?」
そういうと、ゴーレムは急に走ってきて、再び僕にドロップキックをした。僕は宙を舞い空を見上げていた。今日も空はきれいだ。
「だっ、大丈夫? 怪我ない?」
「…っ! このクソモグラが…痛ってえな…」
「…ポーション使う?」
「…大丈夫、怪我はないみたいだ。まあ、少々怪我してもリカバリーすれば…。……まさか…リカバリーなのか?」




