第八十七話
シャルはまだ少し泣いていたが、涙を拭いて僕の方を見つめてきた。僕はとりあえず、涙目のシャルを安心させる事にした。
「よし、シャル…。俺は確かにステータスは低いけど、攻撃力や防御力には自信ある」
「…そうなの? …勘違いじゃなくて?」
「かっ、勘違いじゃないさ…。多分…。まあ、いざって時は、裏技もあるからさ。それにシオンさんのパーティーなんだから本当に弱いやつを連れてくる訳ないだろ?」
「確かに…。ひっぐっ…。…私…頑張る!」
やっと、泣き止んでくれた…。シオンさんのお陰で助かった。ここにいなくても名前だけで十分相手を納得させることができる。
「よし、作戦はこうだ。今から君を乗せて本体がいそうな怪しそうな場所にいく。…で、君のスキルで全部の敵のステータスを見てほしい」
「ぜっ、全部!?」
「ああ…。訳があって俺は効果が悪いスキル持ちのモンスターは倒したくない。あと見てほしいのは、飛び抜けたステータスを持ったキノコだ。そいつが本体の可能性が高い…。いいね?」
「…うん、わかった」
「…よし、作戦開始だ」
僕はシャルを背に乗せて敵に見つからないように大きく上空へ移動し、マリシアウルネクストを発動しながら数百メートルの大きな円を書くように飛びまわった。これで簡易レーダーの完成だ。
「…こっちの方が反応強いな」
「…なにしてるの?」
「これはレーダーだよ。悪い事してる奴がわかるんだ。ただ、なにがくるかはわかんないけど、近い方から探ってけば、キノコの本体に当たる可能性が高い」
「すごい…。…シオンさんのパーティーだけあるのね」
「そりゃ、どうも…。そういえば、君が使える魔法を知っときたいんだけど…。教えてくれないかな?」
「私は土属性の魔法が使えて、ゴーレムを作って戦わせたり、土の槍を作ったり…。そんな事ができるの…。あとは大きくなったり…」
「なるほど…土魔法か…」
僕は空を飛びながら神様との土魔法の修行を思いだしていた。結局、あの神様との修行ってなんだったんだろうか。完全に笑われただけだ。今思い出しても腹が立つ。まぁ、ダイヤウォール!…って勢いよく叫びながら、大量のシャーペンの芯の山が急にでてきたら笑っても仕方ない……のか……?。
「…どうしたの?」
「ごっ、ごめん。なんでもない。前向いてて…」
「うん…」
そういえば、物理攻撃を防ぐなら土魔法を練習しとかないといけなかったな…。飛びながらダイヤを作る練習するでもするか…。同時に魔法を発動する練習にもなるし…。失敗して巨大な岩が出てきても船の上じゃないから、ここなら怒られないだろ…。
「……こんな感じかな…」
僕は飛びながら小さなダイヤをいろんな形に変えていくつも作っていった。とりあえず、シャープペンシルの芯が出てこなかったので一安心といったところだ。
「…さっきのキラキラ光るものは?」
「…ちっちゃいダイヤだよ」
「…それは見たらわかるよ。私がききたいのは、なんであんな高価なもの捨ててるのかってことだよ」
まぁ…まぁ…硬さはイメージできたし、あとはノリでいけるだろう…。…ん?
「高価なもの…?」
「…うん。そうじゃないの…?」
「…なにいってるんだ。俺が適当に魔法で作ったダイヤだぞ? そんなの価値があるわけ…」
「そっ、そんなことできるの!? …でも、鑑定眼で見る限り…すごい値段だったけど…。…見間違いかな…」
「…ちなみに合計は?」
「えーと…合計は……。一…十…百…三千万ギ…きゃあぁあー!」
「…ごっ、ごめん。……動揺した」
「きっ、気を付けてよ」
「……」
まさか…そんな価値があるなんて…。あとで…めちゃくちゃ大きいダイヤを作ればとんでもない値段で……。…ん? そういえば…この子さっき、気になる事をいってたな…。
「…ねぇ…大きくなるって…どういう意味?」
「う〜ん…。あなたぐらいの大きさにはなれて、単純な攻撃力や防御力も上がるの…。だから、伸縮性のあるこの服を着てるのよ。お城の兵士もブカブカの鎧を着てたでしょ」
「なるほど…」
そういえばそうだったな。あれには、そういう意味があったのか…。
僕はそんな事を思いながら円の中心点を再度ずらした。だんだんと点滅が速くなってきている。どうやらこの辺みたいだ。端っこに降りよう。
僕達は警戒しながら、ゆっくりと木陰に降りた。周囲を確認したが、どうやら敵の姿はないようだが、不気味なくらい静かだ。
「…ここなの?」
「もう少し進んだ所になにかがいる…」
「了解…。警戒して進みましょう…」
「ちょっと待ってくれ。進む前にさっきのゴレームってやつを作ってくれないか?」
「まあ、いいけど…」
彼女は近くにあった大きな岩の所まで歩いていき、両手で岩に触り魔法を唱えた。そうすると、岩の一部がはがれ落ちて、シャルと同じ大きさぐらいのロボットのようなゴーレムができあがった。
「……凄いな…」
「まあ、こんなところだよ…。ただ、動かすにはMPを使うし、ずっと使いっぱなしにするには向いてないわね…」
シャルがそういったあと、人形は崩れ落ちてただの岩の塊に戻った。僕は岩の塊をみながら少し考えた。
「例えばさ…。…自動操縦のゴーレムを何万体と作って相手を倒すって作戦は?」
「それは無理ね…。MPが持たないし、そもそもオートタイプは作るのが…。いえ、望み通りの動きをさせるのが凄く難しいの…」
「…どういうこと?」
「例えば普通にキノコのモンスターだけを倒せって命令しただけじゃだめなの。本当に精密にエンチャントしないと、モンスターじゃなくて植物のキノコを倒すかもしれない。まあ、いきなり実践は無理ね」
「なるほど…。プログラミングみたいだな…」




