第八十六話
僕の声でお姫様はゆっくりと目を開けて、大人しくなった。状況を飲み込んでくれたかと思っていたが、そうではなかった。お姫様は下を見ると更にジタバタと暴れだし、僕の頬に何度も何度もパンチがあたった。
「いたっ…! おっ、落ちないから、暴れるなって…! 落ち着けっ…。…このまま城に帰るからな」
「…城に戻るのもいやー! 離せー!」
「おい…いい加減にしろ…。いったっ! …暴れるんじゃない!」
「うるさい! …はなせっー!」
「……わかった。……じゃあ、離そうか?」
僕はイラッとしたので、諦めた声で少しだけ手の力を緩めた。もちろん落とす気なんてないが、効果はバツグンだった。お姫様の顔色はみるみる青ざめていき、ガシッと僕の体を掴んだ。
「……離さないで下さい」
かなり、冷静になったようだった。
「じゃあ、帰るからな…」
お姫様は黙ったまま、コクっとうなずいた。僕は抱き抱えたまま空を飛び城に戻った。ひとまずはミッションクリアといったところだろう。
「…あれ? ここじゃなかったかな…」
「……」
周りの風景は似ているような気はしたが、そこにはとてつもなく大きい真っ赤なキノコが生えていた。道を間違えてしまったのかと思いながら、お姫様の顔をみると、様子がおかしい。
「うそっ…。なに…これ…」
表情は消え、受け入れ難い現実に絶望していくそのさまは、ただ事では無いことがわかった。僕は隠れながら、ゆっくりと茂みに降りた。
「…ここは城があった場所で間違いないんだな?」
「……」
泣きながらお姫様は無言で首を縦に振った。かける言葉もないが、少なくとも事態はまだ最悪じゃない。どうするべきか僕は考えていた。
「…そうか……」
「早く…助けに…」
「……嫌な予感がする…。近づかない方がいい…」
「……」
僕は助けに行こうとするお姫様の手を掴むと、手が震えていた。まあ、無理もないか……。
「……それより僕の上半身を支えててくれ。…中の様子をみてくる」
「……」
彼女は放心状態で全く話を聞いてないようだった。僕はしゃがみこんで、お姫様と視線を合わせた。
「時間がないんだ。協力してくれ。…助けたいんだろ?」
「………ええ……」
「…いいかい? 僕は城の中を確認する為にスキルを使って、しばらく気絶したみたいな状態になる。もし、異変が起きたらなんとか時間を稼いでくれ」
「なんとかって…」
「なんとかだ。話している時間がもったいない。最悪…君の命が危険になったら逃げでもいい。…いいね?」
「うっ、うん」
僕はステータス画面を開きプレイデットを発動した。距離を伸ばすため、発動時間は一分にしたので急いで移動して城の中に入った。
「これは…」
どうやら城の中の人は無事なようだが、周りの話を聞くと城の周りのキノコは魔法で破壊しても、すぐに元の状態に戻ってしまうようだ。
「そろそろ一分か…」
数秒後に僕は本体に戻っていた。お姫様は僕が意識を取り戻した事を確認すると、恐る恐る尋ねてきた。
「…どうだった?」
「中の人は無事だ。ただ、城からでれないみたいだ。あのキノコに見覚えはない?」
「あれは魔力吸いダケみたい…。でも、あんな大きなもの見たことない」
「…魔力吸いダケ?」
「魔石みたいな感じで魔力を貯める事ができるの…。でも、貯めるというよりは、魔力を吸収するって感じで…。このままじゃあ、中にいる皆が危ない…」
「なら、さっさとキノコの本体を倒そう」
「そんなの無理よ!」
「やってみなくちゃわかんないだろ?」
「だって、あなた…レベル5の雑魚じゃない!」
「なっ!? レッ、レベル、みれるのか!?」
僕は素直に驚いていると少し元気になっていた顔が一気に崩れて、再び泣きそうになっていた。
「みれるわよ…。鑑定眼のスキル持ってるんだから…」
「…ちなみに相手のスキルとかもみれるのか?」
「そうよ…。…なに…これ? あなたのスキル…レベルが上がり辛いって…。うわあああん…。もう、だめだよぉおお!」
僕のスキルを見ると、お姫様は完全に崩れ落ちて再び泣きだしてしまった。まあ、確かにこのスキルを初めて見たときはそんな気持ちになったけど…。
「いや…その…。ごめん……」
「うわぁああん!」
ただ、少し希望が見えた。僕と違い相手のHPやMPだけではなく、このお姫様はスキルの詳細まで見れるのだ。もしかすると裏スキルも確認できるのかもしれない。
「…ちなみに裏スキルもみれる?」
「ひっぐっ…。裏スキル…?」
「…その…あんまりよくないスキルっていうか……」
「効果は見えないけど…名前だけならみれる…。うわっ…。でも…凄い悪そうな名前の裏スキルが沢山ついてる…。うわあああん…。やっぱりだめだよぉおお!」
なるほど、名前だけか…。それでも十分だ。
「…まあ、否定はしない。…でも、君が協力してくれれば、皆をすぐに助けられるかも知れない」
「ひっぐっ…。…ほんとに?」
「ああ…。その前に自己紹介しよう。俺の名前はアルだ。お姫様は、なんて呼べばいい?」
「ひっぐっ…。シャルでいい…」




