第八十五話
「なにか御用がありましたら、お呼びください」
「…ああ、ありがとう」
部屋の中には貴賓室と同じく僕のサイズにちょうどいいベッドやソファーが設置してあった。メイドが帰ったのを確認して、僕は部屋の鍵を閉めた後にベッドに寝ころんだ。
「なかなかいい感じのベッドだ…」
…さて…まずはキノコの中から、本体っぽいやつを倒そう。
なぜ、黒い魔物を先に倒さないのかというと、かつてやったゲームにこんなのがある。本来ならBという敵を倒した後にAを倒さないといけないのに先にBを倒してしまった事でAが凶暴化してしまい、パーティーが全滅してしまったのだ。
今回、暴走して困るのは複数いるキノコの方だろう。まあ、Aを倒してもBを倒さなければ何度でも復活するというゲームもあったけど…。
「まあ、幽霊化する前に一応確認しとくか…」
僕はステータス画面を開きマリシアウルネクストを確認した。マリシアウルネクストはゆっくりと点滅していた。まだ、そこまでの悪意は迫ってないのかも知れない。
「さて、確認も終わったし…プレイデッドを発動っと…」
僕はプレイデッドを発動した。幽霊化した僕はゆっくりと起き上がり、まず周りを見渡した。どうやら僕以外はいないようなのでとりあえず一安心した。
一応、プレイデッドのタイマーは次回解除までにしてある。ただ、一つ疑問なのがそもそもタイマーの意味があるのかということだ。
「…まあ、いいか……。…ん? なんだこれ?」
僕は城の壁から抜けだして周りを見ると、目の前に長くて白い紐状のものが急に落ちてきた。僕は上を見上げると、それは三階の窓の奥から垂れていた。どうやらカーテンをつなげているようだ。
「こういうシーンってゲームだと大抵脱出とかなんだよな…。脱出…三階…」
なんとなくだがゲームでは、上の階に王家の人間が住んでるイメージがある。僕は超嫌な予感がしていた。
「まさかな…」
そう…そのまさかだった…。上の階からあのお姫様が紐を伝って降りてきた。スルスルと降りていき、護衛もつけずに森の中に入ろうとしている。
まあ、普通に考えれば護衛も付けずに冒険にいくのはかなりまずいことだろう。なにしろ前例がある。
「全く、アリスみたいなやつだな。おい、危ないぞ! …って、ぶっふ! いったっー…」
聞こえるはずもないのに反射的に降りて止めようとしたが、見えない壁みたいなものにぶつかった。目の前を見ると、ステータス画面が自動的に開かれていた。
「…なになに…活動限界距離です。…なんだこれ? 活動限界距離を広げるにはタイマーをセットして下さいだと…。そんなこと書いてな…」
いや…書いてあったかも知れない。ステータスを強化してから、プレイデットは効果がわかっているあまり使いたくないスキルだったので、さらっと説明を見てしまった。なるほど、探索距離を伸そうと思えばタイマーを短くしなくてはならないみたいだ。なんとなくだが命を守る為のセーフティー機能のような気がする。
「まあ、いいか…。解除っと…」
今はそんなことどうでもいい。僕はパッと起き上がり窓を開けて飛びだした。
「確かあの辺だったよな…」
僕は空を飛びながら、お姫様が森の中に入った辺りに降りた。森の方を見ると永遠に続く木々は知らないものを寄せ付けない恐ろしさを感じた。僕は木の葉の絨毯を歩きながら森の中に入った。
「…ん? みつけたぞ!」
声をかけるとお姫様は僕に気付き、更に森の奥に進んでしまった。声をかけるんじゃなかった。
「おいっ! にっ、逃げられた…」
…しまった。これはステルスゲームだ…。お姫様に気付かれてはいけない。そっとゆっくりと忍び寄りお姫様を捕まえる。なんか悪者みたいだな…。
「さて…蛇のように追ってみるか!」
まあ、あんまりアクションゲームは得意じゃないんだけど…。
僕はふわふわと浮き、大きな木の影に隠れながら進んだ。こうすることで足音もしないし、普通は上から追ってくるなんて思いもしないだろう。ただ、お姫様の方も警戒しながら進んでいるから、なかなか近づき辛いけど…。
「……あの手でいくか…」
こういう時の対処方はあえて追うのではなく先回りをするというのも一つの手だろう。お姫様の行動パターンは大体読めた。
「あそこの茂みに隠れるか…」
僕は木の陰に隠れながら、さっと前にでて素早く地面に降りて茂みに隠れた。恐らくこの広い場所にくるだろう。
…よし、誰かきたみたいだ。足音がする。…今だ!
「おい!」
「きゃあーーー!」
そんなに驚くことないだろ…。ちょっと傷ついた…。…ん?
お姫様の方を見ると、不思議なことに僕の方を見ていなかった。よく見ると、お姫様の目線の先には紫や黄色の傘を持った一メートルぐらいあるキノコのモンスターが数匹立っていて、今にもお姫様を襲おうとしていた。僕は急いで前にでてお姫様の身体を掴んで空を飛んだ。
「はっ、はなせー! このキノコがー」
お姫様は目をつむって暴れていた。僕はお姫様に殴られたり蹴られたりしながら、必死に話しかけた。
「おっ、おい、俺はキノコじゃない! あっ、暴れるな…。落ちるぞ!」
「あなたはシオンさまの…」
「ああ…そうだよ」
「さっきのキノコ達はどこにいっ…。……って、きゃぁあああー! 落ちるぅううー!」




