第八十三話
「……」
「……」
「……ねえ、アル…。私…結構まずいこといっちゃったのかな?」
「まあ…普通に考えたら、外交問題に発展するよな…」
「そっ、そうよね…。私の旅もこれで終わりか…。アル…今までありがとう…」
「……」
「…って、いやぁああああー!! お父様になんて顔すればいいのよぉおおー!」
アリスは心の声を恥ずかしげもなく叫んで、僕の体をガンガン揺らした。僕の頭はグワングワンと揺れ、時折写るアリスの顔が歪んで見えた。
「ちょっ、ちょっと揺らすなって…。…まあ、今回はあっちが悪いんだし、シオンさんがうまくやってくれてるだろ」
「…そっ、そうよね。でも、入りづらいな…」
「…じゃあ、先にいってるからな」
「まだ、心の準備が…。…って私もいくから、ちょっと待ってよー」
「…ここがコビットの城か……」
「…ええ…」
僕は城の中に入って辺りを見渡すと、なんというか…小学生達がやっている劇の中の世界みたいな場所だった。周りにいるのは小さなメイドや兵士達…。そして、階段や柱も小さく本当にそんな感じがした。…といっても、僕の1LDKの部屋よりは十分に大きいが……。
「…ん?」
ただ、僕が周りをみた中で一つ違和感があったのが兵士達の服装だ。兵士達をよく見ると、明らかに鎧のサイズが合ってないような大人のサイズのものを着ていてブカブカだった。…まあ、これはこれで小学生らしいといえばそんな感じもするかもしれない。
「…それで…どこにいけばいいんだ?」
「うーん…。ここで待ってたら誰か案内してくれると思うんだけど…。……誰かに聞いてみよっか?」
「…そうだな。まあ、勝手に城の中を探索する訳にもいかないし…。…ん?」
「あのーシオン様のお世話係の方ですね? お荷物があればこちらに…」
「お世話係? いや、俺達は…」
僕が悩んでいると小さなメイドが声をかけてきたので、アリスのペンダントを見せて要件を伝えると、何故かとても驚いた様子で貴賓室に案内された。心当たりはあの子しかいないが…。
「…流石に椅子やテーブルは大きいんだな」
部屋に入ると、やはり貴賓室というだけあって、ふかふかで座り心地のいい椅子が置いてあった。大きさも僕達が座るのには、ちょうどいい大きさだ。
「…まあ、そうね。私達の国でもお客様がくるときは失礼のないようにその時に応じて模様替えする時もあるからね」
「…まぁ、完全にお姫様にやられたけどな。俺はいいけど、アリスまでいつの間にかお世話係になってるし…。でも、緊張するなー…。…アリスも貴賓室に案内されるの初めて?」
「……」
僕がそんなことを言うと、アリスの表情は固くなった。仕方ない。少し冗談でもいって、肩の力を抜いてあげよう。
「そういえば、メイドさんが帰った時…扉越しに聞こえたんだけどさ…。姫様にやられた!っていってたよ。…はははっ……」
「まあ、別にそんな事はどっちでもいいけど…」
「…えっ?」
「…でも…あの子とは後で二人っきりでジックリと話す必要があるようね…。ふふふふふっ…楽しみだわー…」
緊張で表情が硬くなったんじゃない。笑顔は引きつり、目はバキバキになっている。アリスは完全にキレているようだった。僕はその様子を見て、浮ついた気分が一気に冷めた。
「……」
…いっ、いかん! このままでは本当に外交問題になる!
「ふふっ…。まずは…どうしようかしら…」
「アッ、アリス!? あっ、あとで、おいしいもの食べてから考えよう。俺はアリスの服のデザインは冒険者ぽくって結構好きだぞ…。…なっ!?」
僕はアリスのご機嫌を取ることにした。こんなことでは無理かもしれないと思っていたが、以外にも効果はバツグンだった。
「…そっ、そうよね? カッコいいわよね?」
「間違いなくカッコいい!」
「そうよね! きっとあの子のセンスがないだけなのよ」
「そうそう」
「あとで、ご飯おごってくれるのよね!」
僕はアリスの笑顔を見ながら、小声で返事をした。奢るとはいってなかった気がするが…まあ、いいか…。
「……ああ」
「じっ、実はね! いきたいとこがあって…」
「…どこだ?」
「ええっと…」
僕とアリスがなにげない会話をしながら待っていると、ドアの方からゲッソリしたシオンさんが現れた。
「やあ、二人共…。なんとか終わったよ…」
話を聞くと今まで王様とお姫様二人に説得され続けていたらしい。ただ、丁寧に婚姻の話を断る事を伝えると王様は意外にあっさり受け入れてくれたらしい。まあ、当然、お姫様の方は泣きながら部屋に戻ったらしいが…。




