第八十二話
「…シオンさん。…そういえば、ここってどんな国なんですか?」
「うーん…。なんだろうな…。まぁ…キノコの国だな。一言でいえばだけど…」
「…キノコ?」
「ああ…。この国には魔力を持った不思議なキノコが生える。例えばポーションの原料にも使われていたり、毒としても使われていたりする。まあ、資源の豊富な国だな…」
「なるほど…。…そこら中に生えてるの?」
「ああ…。ただ、もしキノコが生えていても勝手に食べない方がいい。私が聞いた話によると毒キノコの中には全身からキノコが生えてしまったり、体が大きくなったりするものもあるらしい…」
「かっ、体が大きくなる…」
…だとっ!? なんだ、そのゲーマー心をくすぐるキノコは…。…というかちょっと食べたい。
「…でも、体が大きくなるのは毒キノコなの?」
「まあ、毒というよりは…体が大きくなった時に衣服が裂けて、裸になるから一応毒キノコとしているらしい」
「へぇー…」
…知らなかったら完全にやるとこだった。強化した装備でそんな事したら…食べた瞬間にアウトじゃないか…。……聞いといてよかった…。…でも……。
「…じゃあ、あれはどういうことなの?」
「あれはだな…」
「それは…あれよ、あれ!」
本当にこの世界は僕が住んでいた世界と明らかに違う。確かに僕の世界にも危険なキノコもあるが危険の意味が違う。この世界の住人にとっては当たり前に近い事も僕にとっては当たり前じゃない。本当にこの世界の当たり前の情報というのは大事だと会話をしていく中で僕は実感した。
僕は他にもこの世界の当たり前の事をシオンさんやアリスに質問していると、山々に囲まれた王都…ニダヴェリールの城にあっという間についてしまった。
「…シオンさん、もしかしてあれですか?」
「ああ…間違いない…」
「ワクワクするわね…」
僕達は上空から頑丈そうな城門の前にゆっくりと下降し着地した。まあ、ギルドの門番と同じく急に空から現れたのでびっくりしていたが、アリスのつけていた王家のペンダントを見せるとすぐに門を開けて入れてくれた。
「……なんかあっさり入れたな。……例のやつやりたかったのに…」
「……バカな事いってないで、さっさといくわよ」
「…とか、いいながら…あの時はノリノリだったじゃないか。…ん? …変な音が聞こえないか?」
「そんなことないわよ…。…って、確かに…なにかしら……。叫び声みたいな…。…シオンさん…急に立ち止まって、どうしたんですか?」
「あっ、あの声は…」
「…シオンさまぁあああー!!!」
突然、大きな声をあげながら、城の中から栗色の髪の小学生みたいな小さな女の子が全力疾走で出てきてシオンさんに抱きついた。女の子の格好から察するにこの国のお姫様だろう。
「シャ…シャルティーニュ姫…」
シオンさんの方を見ると顔が引きつっていた。例えるなら…なんというか犬が苦手な人に可愛い小犬が、かまってくれとお願いしているような光景だった。
「シオンさまぁあああー! やっぱり助けにきてくれたんですね!! わたし、嬉しいですぅー」
「いや、まあ私も助けにきたんだが…。こっ、こちらの二人も助けにきてくれたんだ…」
シオンさんが僕達の事を紹介すると、女の子は僕とアリスをじっと見た後にアリスの方へテクテクと歩いて目の前に立った。
「はっ、初めまして! シャルティーニュ姫、お会いできて光栄です。わっ、私は、エルフ王国のアリスと申します…」
ぎこちない動きでお辞儀していたので、つい笑いそうになってしまったが、人のことを笑ってる場合じゃないとふと思い、僕も慌ててアリスに負けず劣らずぎこちないお辞儀をした。目の前の彼女は、ジッーとこちらを見ていたかと思うと、急にグルグルと僕達の周りを品定めするように回りはじめ、アリスの目の前に立ち止まった。
「……ふーん…。あなたがアリス姫ね…。三十点ってとこかしら?」
「…はっ、はい?」
「……だからね、三十点…。なにその子供みたいな格好…。…ちょっと、その…センスないわね……」
僕はヤバいと瞬時に思ったが、止める間もなく、その許されざる発言をアリスは聞くと、震えながらとんでもないことをいいだした。
「…なっ、なんですって、このチビー!! わっ、わたしのお気に入り服に…。あっ、あんたの方がよっぽど子供じゃない!!!」
アッ、アリス…。おっ、お前…外交問題はどこにいったんだ…。まあ、相手が挑発してきたのが悪いんだけど…。
「あっ、あなたっ…。わっ、わたしが…気にしてることを…。うわーん…。シオンさまあああー…。この耳長女がいじめるぅ!」
シャルティーニュ姫はシオンさんの方に走っていき抱きついた。シオンさんの目の光はすでに失われていた。
「シャッ、シャルティーニュ姫…。今のは姫が悪いですよ。さて…寒いですし、お城に入りましょう。……二人は、少し後からきてくれ」
「…わかりました」
僕が返事をするとシオンさんとシャルティーニュ姫は城の中に入っていった。僕はなにか言葉をかけようと思ったが、いい言葉が浮かばない。アリスも僕がいわなくても、重々わかっているとは思う。だって、時間が経つに連れて、どんどん真っ赤な顔が青ざめていったから…。




