第八十一話
…今、思いだすとひどい神様だ。
「…ったく……」
さて…どうしようかな…。つくまで時間もあるし、何個か魔法を試してみるか…。
僕は神様との悲惨な修行の数々を思いだしながら、魔法の練習をする事にした。一通り試してみたが、あのひどい魔法が嘘のように普通に使うことができた。
「よしっ…。風魔法も問題ないか…。まっ、問題はここからだ…」
次はもう少し難しい魔法を使おう。そう…エンチャントだ…。
「なにか…いいものは…。…あった!」
僕は近くにあったタルの上に座り、横に置いてあった木の板を手に持った。僕は木の板を床に置いて風魔法を発動した。イメージは…空を飛ぶスケートボードのように…。
「いい感じだ…。…よっと!」
僕は木の板に乗って自由自在に飛び回り、見張り台に着地した。船の行く先には緑色の木々に囲まれた大陸が見えた。よく見ると、港のようなものが見える。どうやら目的地まで、もうすぐみたいだ。
「下に降りるか…」
僕はもう一度、板の上にのり空中を飛んでデッキの上に着地した。これで一つわかったことがある。風魔法は自分だけでなく物を浮かせる事もできる性質を持っているってことだ。
「さて…もうちょっとだけ修行したら、みんなを起こすか…」
僕はその後に二人を起こして、皆と朝食をとった。シオンさんは相変わらず朝からとんでもない量を食べ、船員さんを驚かせていた。色々な意味で…。
「…お腹いっぱいだ。…ん?」
…船がとまった。…どうやら港についたようだな。
「…よしっ! いこうか!」
「そうねっ! アル、シオンさん、早くいこうっ!」
「そっ、そうだな…」
うーん…。やっぱり、シオンさんの元気がない気がするな…。ちょっと、聞いてみるか…。
「シオンさん、どうかしたんですか? 元気がない気がしますけど…」
「…ん? ああ、気付かれてたか…。…いや、まあ少し考え事があってな。そのせいで、ご飯もあまり食べれなかったよ…」
「あっ、あれでですか!?」
「あっ、あれって…。普通だろ…。そういう君達も食べてなかったけど…なにかあったのか?」
「あっ、あれが、普通ぐらいですよ…。…あんまり食べると船の食料つきちゃいますよ?」
「はははっ、面白い冗談をいうなぁ…。さて、さっきの件はどうせすぐにわかるけど…。まあ、歩きながら説明するよ。さぁ、いこう」
シオンさんは笑いながら扉を開けて一人で先にでていった。僕はアリスと目を見合わせて、外にいるシオンさんに聞こえないように小さな声で話しかけた。
「…なぁ、アリス?」
「…なに?」
「…さっき…船員さん…いってたよな?」
「…うん」
「……」
「……」
「……帰りの食料は…大量に買っておこうな…」
「そっ、そうね…」
僕とアリスは席から立ち上がり、駆け足でシオンさんに追いつき、さっきの話の続きを聞いた。
「ところで、さっきの話って…」
「ああ…実は…」
僕達はシオンさんの驚くべき話を聞きながら、揺れる船から落ちないように慎重に降りた。まさか…そんなことになっているなんて…思いもしなかった。
辺りを見渡すとエルフ王国の港街に似ていたが、違う点も一つあった。そう…。全体的に小さかったのである。半分程度の大きさだ。
「ほんと小さいな…。…いてっ!」
僕がボソッと独り言をいうとアリスに小突かれた。僕は脇腹を擦っていると、アリスは左右を見た後、コソコソと話しかけてきた。
「それ禁句だからね…。建物とかは、まだいいけど…。本人達にいったら、外交問題になるから気をつけてよ」
「りょっ、了解…。…シオンさんはどうします? ここで待っときます?」
「…いや、いこう。いつかは断らないといけない話だ…」
「でも、まさかびっくりよねー。シオンさんがお姫様に求婚されてるなんて…」
「…はあ〜……」
「…げっ、元気だしてください」
シオンさんはどんよりとした空気を出して、深い溜め息をついた。僕達はシオンさんを励ました後、空を飛んで王都を目指した。




