第八話
「……」
今…着なくても…。せっかく買ったのに…もう汚れてる……。
「ご忠告どうもありがとうございました…! これで文句はないですか!?」
「あっ、あのさ…。勘違いしてほしくないんだけど…確かにエンカウント率を下げる為なら君の言う通り、迷彩色のフードを着ていた方が正解だよ…。町中じゃ…逆効果になるだけだよって話で……」
「…ふんっ、わかってるならいいわよ……。………とっ、ところでエンカウント率ってなにかしら?」
「あぁ…ごめん…。つい…癖で…。エンカウント率ってのはモンスターとの遭遇する確率って意味で…」
「うん…」
「下げるっていうのは敵と遭遇しにくくするって意味だよ…。まぁ…敵と遭遇したくなければ事前に戦場の場所や状況に合わせて何度も着替えるんだ…」
「へぇ…」
僕は昔やったとあるゲームの事を思い出しながら歩いていると足に鈍い衝撃が走った。下を見ると白猫が丸くなって寝ている看板が倒れていた。
「…っ!」
僕は足を押さえるのを我慢し、看板を立て直してやせ我慢しながら彼女の方を向いた。
「…やっ、宿はここでいいかい?」
「ふふっ…。…前ぐらいは見たほうがいいんじゃない? …周りだけじゃなくて?」
「…ぐっ…! ご忠告ありがとう…。…肝に銘じておくよ。…それで…どうする?」
「…ここ?」
待てよ…。多分宿屋だと思うけど…この看板…実はペットの宿屋とかじゃないよな…。
「…どっ、どうかな?」
「ちょっとボロいけど…。まあここでいいわ…」
彼女がオッケーをだしたということは、一応宿屋なのだろう。一安心して中に入り部屋の様子をみると、安っぽい木で建築してある西部劇のバーみたいな雰囲気だった。
「…こんにちは〜……」
宿に入って受付を覗くと、そこには誰もいなかった。その代わり、看板と同じような格好をして、猫みたいな可愛いモンスターが椅子の上に置いた丸型の座布団の上に丸くなり寝っころがっていた。
「…いないの?」
「みたい…。…少し待ってみよう」
ドアについた鈴の音が聞こえていれば、しばらく待っていれば来るだろうと思っていたが、待っていても来る気配はなかった。前のめりになって下の方を見ても猫しか見えない。どうやら、店主は不在のようだった。
「…それ、鳴らしてみたら?」
「…これ?」
「うん…」
受付用だと思われるカウンターには猫の形の呼び鈴が置かれていた。僕はそれを手に取って少し大きめに鳴らしてみた。
「…いないのかな?」
「…いらっしゃい……」
「……あれ?」
…声が聞こえてきたよな……。…気のせい?
僕がもう一度、呼鈴を鳴らそうとすると、また同じ声が聞こえてきた。
「鳴らさなくてもいるよ…」
「…あの…どこ…ですか?」
僕が周りの様子を伺っていると、カウンターの影に隠れていた白猫が、ピョンっと目の前に現れて目があった。
「お客さん…こっち…」
「…ん?」
聞き間違いじゃないよな……。
「…いらっしゃい……。…それで…泊まるのかい?」
「……ねっ、ねこがしゃべったぁあ!!」
中途半端に現実感があると却ってたちが悪い。僕は心臓をバクバクとさせ、胸を押さえた。
「失礼なお客さんだね…」
「変な事言わないでよ! すいません…」
「いいんだよ…。猫族はここらへんじゃ珍しいしねぇ…。それに…わざわざ…こんなボロい宿に泊まりに来てくれたんだからねぇ…」
「……すいません」
白猫はさっきの僕達の会話を聞いてたんだろう。彼女はバツが悪そうに下を向いて、僕の後ろに下がった。
「あっ、あごの下…ゴロゴロしてもいいですか?」
白猫は尻尾を可愛らしくフリフリと揺らしていた。僕はそんな姿を見ていると口走ってしまい、わき腹を隣のエルフに肘でつつかれた。
「あなた、他の種族と出会うたびにそんなこといってるの!? ごめんなさい…」
「すっ、すいません…」
…でも、でっかい猫だな…。モフモフしたいなぁ…。
白猫はゆっくり背伸びをして、今度は丸いお皿の中で丸くなった。
「まぁ…いいよ…。それで…お客さん…一晩五千ギルだよ。二人別室なら一万ギル…。…どうする?」
「一部屋でいいわ…。はい、五千ギル…」
「……じゃあ、ここに名前書いて……」
…うーん…適当でいいか……。
「……はい…」
「…変わった名前だね……。…おっと…失礼…。…怒んないでくれよ……。…えっと…ニ階の208号室だね……」
僕が名前を書くと、猫型のキーホルダーが付いたカギがふわふわと浮かんできた。
かわいい…。…このキーホルダーほしいな……。
僕はカギを受け取るとギシギシなる階段を上がり部屋に入った。中は想像よりは綺麗で、安そうな木材を隠すようにところどころにシーツと絨毯が敷き詰められていた。