第七十九話
僕は振り返って辺りを探してみると、そこには見慣れた赤い服を着たエルフのお姫様が立っていた。
「…手紙…みた?」
アリスの顔を見ると、王様に負けず劣らず顔色が悪かった。もしかしたら、王様と朝まで話しあったのかもしれない。
「アリス…お前…」
「私さ…アルに言われた事…。あの後、考えてもわからなかった…」
「…うん……」
「でも、一つ思ったの……。やっぱり、やってみなきゃそんな事わかんないって…」
「…ったく、アリス。こっちにこい!」
アリスは叩かれると思ったのだろう。ゆっくり歩いてきて僕の前に立つと目をつむり手を震わせていた。
「……」
確かに…遊びか本気かなんてやってみなきゃわかんないよな…。
「…リカバリー!」
「…あっ、あれ!? なんだか気持ちいい…。疲れがとれてく…」
「はい、おわり!」
「ええっ!? もうちょっとやってよ」
「ダメ! 勝手についてきたバツだ。せっかく、お土産沢山買って帰ろうかと思ったのに…」
「現地でいただきます」
「こっ、こいつは…。そういえば確か…王様の手紙には断ってくれても構わないって書いてあったな…」
「ええっ!? てっ、手紙みせてっ!?」
手紙をヒラヒラと揺らして慌てた様子のアリスにアピールした。僕は少し笑いながらアリスに手紙を渡した後、しばらく青い海を見ていた。
「ほらよ! …書いてあるだろ?」
「えーと…」
まさか、アリスがついてくるなんて思いもしなかったな…。…ん? …ビリビリってなんの音だ。…変な音が聞こえる。
「…って、アリス!? おっ、お前!?」
アリスの方を見ると手紙を破り、ファイアーボールを当て消し炭にして海に捨てていた。こいつ…なんてことをしやがるんだ…。
「アルッ! これは非公式の任務なの。こんなもの持ってちゃダメでしょ」
「…いっ、いやっ!? …まっ、まあ、そうなのか?」
「はははっ…。一本取られたのかな、アル?」
シオンさんはどこかで僕たちの様子を見ていたのだろう。笑いながらこちらに近づいてきた。ふと、アリスの顔を見ると、少し不安げに僕を見つめていた。
「…シオンさんも知ってたの?」
「まっ、まあ、そのなんとなくだがな。…でも、王様の依頼なんだ。君とは違って断れないだろ? …それで、どうする? どうしてもダメなら帰りの船で帰ってもらう方法もあるが…」
「…シオンさん、コビットの国って安全な地域なんだよね?」
「ああ、穏やかな地域だ…。……一応な…」
ここまでついてきたんなら仕方ないか…。全く僕もあまちゃんだな…。なかなか大変な冒険になりそうだっていうのに…。
「まあ、そうだな…。たまには社会見学も悪くないだろ…」
「ってことは…。やったぁー!」
こいつ…。本当にわかりやすい性格してるな…。
「さて、そうと決まれば船室にいこう。みんな、作戦会議だ!」
「うん!」
「ああ!」
それから僕達は船室で作戦会議を行い、その後はお魚いっぱいのご飯を食べ、海の幸に満足して船旅をしばらく楽しんだ。そうこうしていると、あっという間に時間が過ぎ、気付けば日が落ちていた。僕達は船員達に任せて次の日に備えて眠る事にしたが、航海の方はとても順調で目的の大陸まで嵐にもあわず無事にたどり着く事ができたようだった。
僕はこの時…大変だと思いながらも、心のどこかで冒険を楽しんでいた。まるで、買ってきたばかりのゲームを遊ぶ子供のように…。
本当は始まっていたんだ…。
あの黒い魔物を倒したとき…。
いや、この世界にきた時点で…。
運命という名のシナリオが…。
そんな…とんでもないものに巻き込まれているなんて、この時の僕は思いもしなかった…。
…本当に…本当になにも知らなかったんだ……。




