第七十七話
僕はシオンさんに気づかせる為、アリスの背後に回り、目を見開いてワザと大げさにいった。シオンさんは、わざとらしくお腹を擦りだした。
「ごっほん! シッ、シオンさん! いっ、いいんじゃないかな!? アリスがいいっていってるんだからっ!」
「そっ、そうだにゃ! ごっ、ごっほん! そっ、そうだな…。お腹も減ったことだし…おっ、お言葉に甘えていただこう!」
「私じゃなくって…。…どういうこと?」
「あっ、あれはだな…。ごっ、ごっほん! うーん…。なんというか…」
なんとか誤魔化そうとしていたが、なかなか苦しそうな表情をしていた。僕は出方を伺っていたが、どうやらアドリブには弱いようだ。助け船をだすか…。
「…シオンさんのいいたいことわかるよ。みんなの力で倒したんだって、いいたいんだよね!」
「あ…ああっ! そう、そうだな! そういう事だ」
「ふーん。…そういう事ね。シオンさんって、慎ましいのね。…さて、お城の中に入りましょう」
僕達は貴賓室に案内されて椅子に座って待っていると、次々に美味しそうな夕食が運ばれてきた。夕食を一通り平らげると、僕を捕まえた大臣がなんともいえないような表情を浮かべ、例の件を報告しにきてくれた。僕の予想通りそれらしい物があったようだ。ただ、それとは別に厄介な話もあったようで…。
「…ということなんじゃ」
「…つまり、あの黒い奴がその国で暴れているから倒して欲しいって事ですね。それが渡す条件だと…」
…ちょうどいい。…一石二鳥だ。
「本当に申し訳ない。我が国の外交に巻き込んでしまって…」
「いえ、気にしないで下さい。そもそも、エルフの王国の後ろ盾がなければそんな話にすらなっていなかったでしょう。…それで場所はどこなんですか?」
「鍵はコビットの国に…。道標は猫の国にあるそうで…。まずはコビットの国にいって下され。北の港町に船を停めております」
「…船旅か……」
…ん?
「コビットの国か…」
ふと、シオンさんの顔を見ると少し不安そうな顔をしていた。なにか気がかりでもあるのだろうか?
「どうしたの? シオンさん?」
「いっ、いや、なにゅ…。…なんでもない。明日の朝から出発しよう…」
「はい…」
なにかありそうけど、今は教えてくれなさそうだな。…って、あれ? アリスがいない…。さっきまでいたのに…。
「あの…アリスは?」
「姫様はお疲れとの事で先に部屋にお戻りになられました」
「そうですか…」
…まあ、結構歩いたから疲れたんだろうな。
「なにか用事でも?」
「いっ、いえ…特には…。あの…さっきの話の続きなんですけど…」
結局、その後は大臣とシオンさんと明日の出発について詳しい話をした後、シオンさんも旅立つ準備があるという事で帰っていった。
「長かったな…」
「…なにが?」
「そりゃあ…。…って、アリス!? なんでベッドの中に!? …あっ、あれ? …へっ、部屋、間違えた!?」
部屋に戻った後、灯りを消して月明かりを頼りにベッドに入った。ふかふかのベッドで気が付かなかったが、アリスはパジャマで横になっていたようだ。確かに部屋の位置はここだったと思うが…。
「あってるわよ…」
「…おっ、おまっ、自分の部屋に戻れって!」
「…少し話したら戻るわよ。…ねぇ…アル?」
「…なっ、なんだ?」
「………私もいっちゃだめかな?」
…ったく、こいつ。答えるのに困るようなこと聞いてきやがって…。はぁ…。
「まぁ、正直いうときてほしい…」
「…えっ、!?」
「…でも、アリスにはアリスの役目があるだろ?」
「……やっ、役目なんていわないでよ!」
「……」
僕がやんわりと断ろうとすると、アリスは予想以上に怒って枕を投げてきた。そんなにひどくいったつもりはなかったのだが…。
「……確かにやらないといけない事はあるわ…。でも、好きでやってるわけじゃないの! …じゃあ、逆に聞くけどあなたの役目ってなに!? 教えてよ!」
……僕の役目? 考えたこともなかったな。会社で働くこと? いや、これは違うか…。…日々生きていくこと? これも違うか…。…この世界を救うこと? これも…違う…。
「……」
「ごっ、ごめんなさい。こんなこという為にきたんじゃないのに…。部屋に帰るね…」
僕は帰ろうとするアリスの手を強く握って引き止めた。本当に僕らしくはないけど、大人なりに答えはださないといけないとつい思ってしまった。
「ちょっと待ってくれ…」
「…どうしたの?」
「なにか…上手く説明できないけどさ…。本当にアリスがきたいんならきてもいい……。…でも、ただ遊びできたいんなら、連れてくことはできない。…アリスはどっちなの?」
「私は…」
「確かにアリスの言う通り、役目なんて誰かが決めただけなのかも知れない…。誰かに押し付けてるだけなのかも知れない…」
「……」
「でも、アリスが本当にしたい…誰かがやらなければいけない事をやる為にきたい…っていうんならくればいい…。…アリスはどっちなの? …遊びなの? …本気なの?」
「……私は…」
少し大人げなさすぎたか…。なんかアリスが自分と少し重なってしまった…。こんな説教できる立場じゃないのにな…。自分でさえわかっていないのに…。本当…大人ってずるいよな…。
「…ん? …アリス?」
何故かアリスはプルプルと震えていた。急にどうしたのかと思い、心配してアリスの顔を覗き込むと、次の瞬間、強烈なパンチがとんできた。
「ばっ、ばかー!」
「……ぐはっ…!」
僕はしばらくベッドから天井を眺めたあと、痛みのない痛みが引いたタイミングで起き上がった。アリスはすでに自分の部屋に帰ってしまったようだ。
「……」
子供ってずるいよな…。本当に…。
「俺も寝よう…。…ん?」
僕はベッドに潜り込むと、シーツが少し濡れていることに気付いた。僕は濡れたシーツに触れて、優しくつかんだ。
「……」
きてほしいけど…危ないからだめだよ…くらいがよかったのかな…。
そんな事を思いながら、僕は眠りについた。




