第七十四話
「やっとついた。ここよ、ここ!」
「…なかなかいいとこだな……」
「でしょ!」
お城から少し遠かったが、そこは広場の噴水がよく見えるお洒落なお店で、お昼過ぎだというのに店内は満席だった。近くの店員さんに尋ねると外の白い丸テーブルの席だけ空いているらしく、なんとか座ることができた。お昼は青魚のムニエルとパンにコンポタージュのような味のスープだった。
「…って、ちょっと待てよ。アリスを連れてきたら、お城に連れて帰らないといけないじゃないか!」
「大丈夫よ! ついていくからっ!」
「じゃあ、誰が調べるんだよ」
「大臣がお詫びに調べるって…」
「アリス、お前…最初からくる気だったな?」
「へへっ、バレた?」
「…まあ、いいか。調べてくれるんだし…。さて、そろそろ行くか…」
僕達は一息ついた後、そこからシルフィーのいる教会に向かった。教会につくとシスターと子供達がちょうどどこかにいこうとしていた。
「あの…。教会入れないんですか?」
「ああ…。シオン様の知りあいね。えーと…名前は…」
「アルです。こっちはアリス…」
「こんにちは…」
「こんにちは…。アルさんと…アリスさんね…。…あら、あなた…お姫様と同じ名前なのね…?」
「はっ、はい…」
「お姫様と同じなんて…いい名前ね…。…でも、性格は見習っちゃだめよ。本物はおてんば過ぎて、城中を困らせてるみたいなのよ……。行方不明になって、何度も説教部屋に閉じ込められたなんて…噂もあるぐらい…。…そろそろいい歳なんだし…落ち着いてくれるといいわね……」
アリスの方を見ると苦笑いしていた。まさかこんなところで自分の噂を耳にするなんて思いもしなかっただろう。しかも、説教までされて…。
「そっ、そうですねー…。そっ、そろそろ落ち着くと思いますよ…」
「…ですよね。あら、子供達が変な所にちょっと待っててね。連れ戻してくるから…。こらー…そんなことしてると、お姫様みたいになっちゃうわよ!」
シスターは細い路地に入り迷子になりそうになっている子供を連れ戻しにいった。僕は我慢していたのにシスターの最後の一言で笑いを吹き出した。
「くっ、ぷっ、はははは…。そっ、そろそろ落ち着くと思いますって…。アリス、なかなか面白いジョークだな。シスターも目の前のやつが本人だって知ったら…。…って、痛っぁあああああ!」
アリスのやつが思いっきり僕の右足を踏みつけてきた。僕は右足を抱えながら、ピョンピョンと飛び跳ねた。
「…どうかした?」
「どうって…。…今、踏んだだろ!」
僕は右足をあげて足の状態を確認した。まあ、装備のおかげで、そこまで痛くなかったが…気持ち的に痛かった。
「…私、落ち着いた子なんでそんな事するわけないじゃないですか? …それとも落ち着いてないと思いますか?」
こいつ、しれっとした顔しやがって…。まあ、挑発した僕も悪いか…。今回は素直に謝っておこう。
「…悪かったよ。…落ち着いたいい子だと思います」
「わかればよろしいと思いますわよ。……あとわかってると思いますが、シスターにいったら…」
「…姫様、わかっております。トップシークレットですね」
そんな馬鹿なやりとりをしているとシスターが戻ってきたが、どうやら話を聞くと、一時間くらい子供達を連れて買い物にいくらしい。
「買物に…。そうですか…」
「お急ぎの用事ですか?」
「はい…」
「…そうですね。シオン様の知り合いですし…。じゃあ、こうしましょう…」
僕達が教会に用があることを伝えると、帰ってくるまでここにいることを条件に教会の鍵を貸してくれた。僕達は鍵を受け取り、シスターを見送ったあとに古びた扉を開けて教会の中に入った。
「……」
…誰もいないみたいだ。…一応、扉の鍵をかけておこう。
「…ところで、ここになにしにきたの?」
「いや、まあ…聞きたいことがあってさ…」
基本的には正攻法で進めるつもりだが、裏ワザも諦めているわけではない。神様に空間系の魔法が使えるよう素質を貰えばいいのだ。まぁ…これもある意味、正攻法のような気もするけど…。
「ふーん…」
「さあ、いこう。アリス、ついてきて…」
「うん…」
僕たちが進もうとすると、うっすらと窓から光が差し込んできて、まるで床が光の橋のようにみえた。ただの光なのに何故か神秘的なものを感じながら、僕は感傷に浸っていると、アリスにクイッと小突かれた。僕はここにきた目的を思い出し、壊さないように扉の鍵をゆっくり閉めた後、シルフィーのいる部屋に向かった。
「…確か…ここだったよな……」
部屋のドアを開けると、そこにはシルフィーがベッドで寝ていた。気のせいかもしれないが、少し穏やか表情をしている。
「もしかして、ベッドで寝てるのってシルフィーさん?」
「ああ、そうだよ」
…そういえば、シルフィーにも聞きたいことがあったんだった。シルフィーがこっちにきてくれれば宿屋にいかなくて助かるけど…。試しにプレイデッドをやるか…。
「なあ、アリス…」
「…なに?」
「…今から、ちょっとややこしい事するから、俺の上半身支えていてくれないか?」
「まあ、いいけど…」
アリスは後ろに座ると僕の上半身を支えた。僕はプレイデッドを発動する前に手を止めて振り向いて言った。
「信じてるからな…」
「ええ…」
「……アリス、本当に信じてるからな…」
「…なんで二回言うの?」
「…大事な事だからだ」
正直、プレイデッド中になにをされてもなにもできない。だからこそ、一応念押しに伝えておこう。まあ、アリスに限っては大丈夫だろうけど…。




