第七十話
「じゃあ、まずはこの部屋から…。…すいません。…椅子ありますか?」
「ああ。ちょっと待ってくれ…」
僕は部屋に戻り、シルフィの幽霊を探すことをシオンさんに伝えた。シオンさんは背もたれのない椅子をどこからか持ってきた。
「あの…できれば背もたれのある椅子ってないですか? …意識がなくなるので……」
「…意識が?」
「…さっき説明した通り、幽霊になるには仮死状態にならないといけないんです」
「…この教会にはないかもしれないな。…買ってこようか?」
「…いや、ないなら仕方ないです。…床に寝るんでいいですよ」
「…流石に床に寝てもらうのは申し訳ない。私が支えておこう」
「じゃあ、お願いします…。……ステータス…!」
僕はシオンさんに支えられたまま、ステータス画面を開いて、プレイデッドを発動した。幽霊化には成功したが、教会という事もあって、いたるところに見えてはいけないものが見えてしまうのではと思い、恐る恐るあたりを見渡した。たが、シルフィーを含めて、特になにもみえない。やはり、シルフィーはここにはいないようだ。僕はプレイデッドを解除して、次の目的地に向かうことにした。
さて…次はどこを探そうか…。まあ、ゲーマー予想でいえばあそこだな…。
「…本当に死んでるんだな。…驚いたよ」
「ここにはいないみたいです」
「そうか…」
「シオンさん、黒猫亭へ行ってみましょう」
「…黒猫亭?」
僕達は王都を探し回り黒猫亭についた。本当に王都は広く、宿屋の数も沢山あったので探すのに苦労したが、なんとか聞き込みの末に見つけることができた。
「あのー…」
宿屋の中に入り上を見上げると、そこには高い柱のうえで心地良さそうに寝ている黒猫がいた。ヒョッコリと顔が覗き、黄色い瞳がギラリと光っている。
「…ん? …お客様かい? …すまない。今は満室だよ」
「聞きたいことがあるんですけど…。部屋に幽霊がでたとかそんなことはないですか?」
目を丸く見開いたかと思うと、上空からカウンターに、ぱっと降りてきて黒猫は僕を睨みつけた後、全身の毛を逆立て威嚇してきた。…どうやら、当たりみたいだ。
「……客人…なぜそう思った?」
僕は他の猫達からもらった鈴を見せた後に事情を説明した。鈴を見せると、一瞬で顔が穏やかになり警戒を解いてくれたみたいだった。
「…って事なんです」
「…なるほど。確かに208号室にいるよ。…一室ダメにされるし、近隣の宿屋に呪いかなんかで営業妨害されてるのかと思ったよ。…っほい、これやるよ」
黒猫は尻尾でなにかを掴み投げてきた。それをキャッチすると小さな黒色の鈴と部屋のカギが手のひらにのっていた。
「…あの、まだなにもしてないですけど?」
僕は小さな鈴を手からぶら下げて、おじさんっぽい黒猫に見せた。黒猫はニタリ笑い、上空にジャンプした。
「どうせ解決してくれるんなら先にやっとくよ。鈴の数は信頼と実績の証だからな」
「…アル、早く行こう!」
「じゃあ、鈴もらっときます」
僕は手のひらの鈴を大事にポケットにしまい、二階にあがった。部屋につくと波打つようなふかふかのベッドに横になり天井を見つめた。
さて、プレイデッドを発動するか…。全く…全クリまで相当かかるなこれは…。
「…アル。…シルフィー様を頼む」
「…うん。任せてよ!」
シオンさんは僕の手を力強く握った。僕は笑顔で言葉を返した後、ステータス画面を開き、プレイデッドを発動した。
「…ん? …あれは?」
窓際の方を見ると、白いボンボンのついている冬服を着たアリスと変わらないくらいの女の子が思い詰めた顔でじっと外を見つめていた。
「…シルフィーなにしてんだ? こんな所で…」
「…えっ!? …まっ、また、あなたなの? …じっ、実は俺、やっぱり死神なんだ…って、落ちじゃないわよね?」
「どっちかっていうと生神だよ。君を生き返らせにきたんだ」
…このセリフどっかで聞いたことがあるな。…まぁそんな事よりも、こんなことを急にいってもシルフィーは信じてくれないだろうな。
シルフィーの方を見ると予想通り信じてなさそうな顔をして、溜め息をつき曇った窓の方を見た。
「気持ちはありがたいけど、そんなの無理よ…。私、ここにきて思いだしたの…。……なぜ死んだのかもね…」
「でも、身体は生きてるよ。だからっ…」
「…教会にあるんでしょ?」
「知ってるのか? てっきり知らないのかと…」
「…思いだしたのよ。…私は死ぬ瞬間にリカバリーを使ったの。…それに失敗したのよ。身体は戻ったけど、魂が離れるまでに終わらなかった…。ああ、ちなみにリカバリーってのは回復魔法ね…」
つまり、リカバリースリーに失敗してこんな状態になっているのか…。
「でっ、でも魂があるなら身体の近くに行けば戻れるかもしれない!」
「それならもう試してダメだった! もう帰って!」
シルフィーが怒ると近くの花瓶がガタガタと揺れだした。もう少しで棚から落ちそうだったが、シオンさんが上手くキャッチしていた。




