第七話
僕は彼女の手と足の縄をちぎった。彼女は手や足の状態を確認すると、起き上がり軽く会釈をした。
「まずは助けてくれて感謝するわ」
「お礼はいいよ。腕痛かっただろうし…」
「…腕?」
「…痛かったんじゃないの? 軽く縛ったつもりだったんだけど……」
「あっ、あんたが縛ったの!? バカじゃないの!?」
「だっ、だって…ゴブリン達が複数で襲うほどの実力を持ってるんだよね…?」
「いや…それは…違うというか…」
「…違う?」
ものすごい剣幕で怒ってきたが、僕の言葉に彼女は何故か言葉を詰まらせていた。謙遜しているだけなのか…それとも、なにか言えない事情でもあるのだろうか?
「ごほんっ、ごほんっ…。まっ、まぁ…縛ったことは大目に見るわ…。感謝してよね…?」
「…えっ? …あっ、ありがとう……」
「…でも…あなた人間にしては強いのね? …そうだ! …ボディーガードとして私に雇われない?」
「…ボディーガード?」
「…まだ…この辺りに奴らの仲間がいるかもしれないでしょ?」
「それは…そうかもしれないけど…」
どうしようかな…。特にいくあてもないし、世界の現状を知るためには少しぐらい旅をするのもいいかもしれない…。
「…どうなの?」
「ちょっとまって…」
「そうだ…。…裏スキルの……。…あった!」
マリシアウルネクスト…さっきの点滅は消えてる…。つまり、現状の脅威が消えたという事か…。…ということは魔王が悪意という事なんだろうか?
「…さっきからなにやってるの?」
「…えっ? 君には見えないの? このステータス画面?」
「…ステータスは装置とか使わないと見えないでしょ?」
僕には見えるんだけど、普通じゃないのか…。まあ、神様がくれたスキルだから珍しいのかな…。
「…わかった。どこまでボディーガードすればいいの?」
「ここからニ、三日、北に進んだところにエルフの王都があるわ。まぁ詳しい事は宿屋で話すから、まずは近くの村までいきましょう」
「あの…」
「…どうしたの?」
「……ゴブリンはいないよね?」
「あっ、当たり前でしょ!」
エルフの女の子と共に迷いながら森を抜けると村が見えた。気持ちいい風が吹く中、僕達は村の中に入ると、そこには驚く事に人間だけではなく小人やエルフやドラゴンが歩いていた。
「小人やドラゴンまでいるなんて…。本当にすごいな…」
…本当に異世界だ。
「あなた、他の種族見るの初めてなの? でも、コビット族の事を小人って言うのはやめた方がいいわよ。コビット族はそういうとドワーフと一緒にされているみたいで怒るの…」
「そうなのか? 気をつけるよ…。…でも、家とかは普通なんだな」
僕はワクワクしながら辺りの景色を見ると木やレンガで作ってある家がたくさんあり、道もある程度レンガで舗装されていた。村の規模の割りにはお店の数も多く外国の田舎のスポットって感じで、しばらく歩くと街の中心に小さな噴水があり、とてもきれいでのどかな感じがした。
「…ここが始まりの村か……」
「…ん? なにかいった?」
「いや、なんでもない…。…っていうか、なんでまだフード被ってるの?」
彼女は村の中に入っても汚らしいボロボロの茶色のフードを被っていた。僕はフードの穴から見える彼女の金髪を見ながら問いかけると、僕の耳元に手を当てて小さな声で話し出した。
「これは…。…まっ、まだ、他に敵がいるかもしれないでしょ!」
まあ、襲われた後だし…用心深くなるのも当然か…。
「まぁ…確かにそうだね…。……でも…そろそろ…そのフード買い替えた方がいいんじゃない?」
彼女は僕を雇うお金を持っていて、フードの下には立派な装備品がみえている。少なくともお金には困っているようには見えない。僕はフードの隙間からチラチラ見える赤色のズボンに刺さった高そうな短剣を見ていた。
「バカね…。高そうなフードを着てたら襲われるでしょ」
「いや…まぁ…そうだけど…」
「それにね…。…こんなボロボロのフードを着ているのには理由があるの」
「…理由?」
「…冒険中に襲われないためよ」
「……」
…襲われてたよな……。
「襲われてたよなって顔してるわね…。あっ、あれはたまたまよ! それにね……!」
「……」
彼女は僕の反応が面白くなかったようで、宝石のような緑色の瞳をギラギラとさせながら熱弁し初めた。どうやら、彼女なりの美学があるようだった。僕は彼女の声が段々と大きくなるにつれて、辺りの様子を伺いながら歩いた。
「…わかった!?」
「まぁ…なんとなく言いたいことはわかるんだけどさ…。その…言い辛いんだけど……」
「…なによ? 言いたいことがあるならはっきりいいなさいよ!」
「…フードを深く被ってるから前しか見えてないのかなと思うんだけど…。前だけじゃなくて周りも見たほうがいいというか…」
「…はぁ? どういう…」
「さっきから目立ってるんだよね……。そのボロボロのフード……」
「…えっ?」
彼女はフードを被っているから前しか見えてないのだろう。気づいてないのかもしれないが、さっきから僕達の事を周りの人達が見ていてコソコソと噂話しているようだった。
「ほら…ちょうどそこに…」
「……」
彼女は顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら近くのお店にあったセール品の中から似たようなフードを鷲掴みにして購入していた。
「…これください……!」
「…おっ、お買い上げありがとうございました」
彼女はせっかく店員さんが入れてくれた紙袋をあるきながらバリバリと破り、真新しい茶色いフードに着替えた。ここでも徹底して姿を見られないように新しいフードをわざわざ重ねて被ったあとにボロボロのフードを脱いだ。