第六十二話
最後のピースを埋め込んだ後、僕は仰向けになって倒れ込んだ。正直、かなり疲れた。
「ふぅ…。…ツギハギの医者になった気分だ」
「うっ…。ここは…」
「…おとうさまぁああああ!」
泣きながらアリスは王様に抱きついていた。僕はそれを見て少し心が温かくなった。
「…アリス? …私は生きているのか?」
「…うん。…いっ、生きてるよぉぉお!」
よし、大丈夫そうだな…。他にもいるかもしれないし、そろそろ行くか…。
もうこの場には僕は不要だろう。一安心して起き上がり、先程の兵士の肩を叩いた。
「…兵士さん。他に怪我人がいないか広場に戻ろう」
「あっ、ああ…。いこう…」
僕達は先程の広場にまた戻り、残りの怪我人を治していった。何人かひどい怪我をしていた者もいたが、フルスキルフルのおかげで簡単に治すことができた。恐らく百人くらいは治しただろう。アリスにもらった魔石のおかげで変身せずに治すことができて本当にラッキーだった。
「…これで全部だ。間違いないな?」
「ああ、人員点呼して全員無事を確認した」
「…そっか。じゃ、俺は戻って寝てるから…。なにかあったら牢屋まできてくれ」
「ああ…。…牢屋? まぁ、わかったよ。本当にありがとう。君はこの国の恩人だよ…」
「じゃ…」
僕は空を飛んで牢屋の中に戻り、座って外の景色を見つめていた。
「うーん…。絶景…。でも、やっぱり壁に穴が空いてると寒いな…」
壁、直せないかな。それに非常事態とはいえ、このままじゃ怒られそうだし…。直す、直すか…。
「…ん? …もしかしてリカバリーで直るかもしれないな。まさか…なぁ…。…まっ、ダメもとでやってみるか…。…リカバリー!」
まぁ、どうせ直せな……。いや、これ直せるぞ…。…リカバリーって便利だな。
魔法を発動し、辺りの壁とついでに城も元の状態に戻しておいた。これで怒られることはないだろう。
「…よし、終わった。疲れたし、寝よ…」
寝心地はあんまりよくないけど、ヒンヤリとして気持ちがいいな…。
硬い床に寝転がりそんな事を思っていると、強烈な睡魔に襲われ眠りについた。さすがの僕も疲れたようだ。
「…ル。ねえ…お願いアル起きて…」
…ん? …誰だ?
自分でいうのもなんだが、僕は寝起きがとても悪い。僕は寝ぼけながら体を揺らすその人物に問いかけた。どこかで聞いたことのあるような声のような気もするけど…。
「…怪我…した…やつ…がいるのか?」
「ううん…。あなたのおかげで皆無事よ」
「…よかった…。じゃ、もうちょっとだけ寝させて…」
「お願いだから、こんなとこで寝ないで…」
「もう寝てるから…気にしない…で…。…ぐぅー……」
「お願い! 起きてってば!」
キンキンと声をあげて、しつこく誰かが僕の体を揺さぶってくる。流石の僕もこれでは眠れそうにはない。しぶしぶ、目を開くと目の前にはアリスが座っていた。
「……もう、うるさいな…。気持ち良く寝てるのに…。一体なんだよ…!」
「やっと起きた…」
目を覚ますと、牢屋の周りにとんでもない数のエルフ達が集まっていた。奥の方まで続き入りきってない。動物園のパンダになった気分だ。
「…って、アリスか? …どうしたんだ? …牢屋の中に入って? …まっ、まさか…また、悪いことでもしたのか!?」
「ちっ、違うわよ! またってなによ! あなたを起こしにきたのよ! なんでここにいるのよ。散々探したのよ」
「なんでって…。勝手にでちゃまずいかなと思って…」
そう言うと、僕を捕まえた張本人が目の前に座り、覚悟を決めたような顔をして目をつむった。恐らくは謝罪だろうが、寝起きの僕になにか考える余裕はない。…というか、睡魔が襲ってくるから、早く寝たい。
「すまない…。若いの…。…いや、アル殿、このような目にあわせた私をどのような目にあわせてくれても構わん」
「あんたの指示は正しいよ。俺でもそうする…。だから、立ちあがってくれ」
「じゃが…」
「いいから、俺がいいっていってるの…。あんたは悪くないよ」
目の前の老人を起こそうとすると、今度は奥の方から別の男性が現れ僕の前にひざまずいた。それは王様だった。もう勘弁してほしい。
「大臣は悪くない。命じた儂を罰してくれ」
「お父様!?」
「王様、それはなりません! 王がひざまずくなど…」
「黙れ! 私は命の恩人を牢に入れているのだぞ。なにをされても文句は言えない。…アル殿、本当にすまなかった。…さぁ、私の顔を殴れ」
「いっ、いやっ、だから…! べっ、別にそういうのはいいんですけど…」
「……」
…まいったな。…このままじゃまずいぞ。なにか落としどころを探さないと…。なにか…なにか…。…そうだ!
「…じゃあ、一つお願いを聞いてもらえないですか?」
「…なんでも聞こう」
王様はひざまずいたまま答えた。僕は無理かもしれないけど、ダメ元で少し無茶を言ってみた。まあ、ダメなら素直に諦めて寝よう。
「アリスを…少しだけ自由にさしてやってくれないですか? 俺が…守るからさ…」
「アル…」
僕がアリスの方をちらりと見たあとに王様の方を見た。すると、王様は何を勘違いしたのかわからないが、涙を浮かべながら、とんでもない事を言いだした。
「うっ…。わっ、わかった…。お主はこの国の恩人だ。…二人の結婚を許そう」
「そうそう…。…って、結婚!?」




