第五十九話
目の前の魔物とあの閉ざされた空間に入ると、敵は距離を取りこちらの様子をみているようだった。さっきまで暴れていたが、妙におとなしい。様子見だろうか…。
「……」
…さーて、どうするかな? …とりあえず闇の魔法でも当ててみるか?
手のひらに六属性の魔法を発動し、闇の魔法へと変化させた。見るだけで前よりも禍々しいそのオーラは、当てなくても相当やばい威力なのがわかる。
「…くらえ!」
闇の魔法を込めた球体が相手に当たると、そこを中心に闇が一気に広がり辺りを闇の世界に変え、数秒後に爆音とともに元の景色に戻った。当然、マジックイーターを発動してガードしているが、ちょっとでも気を抜くと吹き飛ばされそうになるほどの恐ろしい威力だった。
「…っ!」
相手の反撃に備えて、僕は剣を構えて相手のHPを確認すると残りは八百万程度になっていた。
…って、喰らいすぎじゃないか!? なっ、なんて威力だ。…でも、おかしい。…なんで避けもしないで当たったんだ? …それに襲って来る気配がない。…まるで戦う気がないみたいだ。
「……」
…死んだのか? …いや、動いてる。…くそっ、魔法か!
「…ギィィイア!」
無数の竜巻が四方八方から襲いかかってきたので、僕はマジックイーターとマジックコンバートのコンボで空中に飛びながらそれを叩き斬った。
「…次から次へとっ!」
相手を見るとすでに次の魔法を発動していた。さっきまで見ていたものと違う。フィールド魔法をぶっ壊すんじゃないかってくらいの巨大な黒い竜巻だ。
「…なっ!?」
…あれはヤバそうだ。…厄介そうだがやるしかない。
僕は相手の黒い竜巻と逆回転の竜巻を発生させた。これで威力を相殺して叩き切る!
「…いけぇええ! はぁ…はぁ…。なんとか…。…って、うお!」
僕の気が緩んだ瞬間を狙って、奴は間合いを詰めて襲いかかってきた。鋭い爪のような攻撃をなんとか受け流しているが、一歩間違えば致命傷だ!
「…くっ!」
…なんて、スピードなんだっ! くそっ! 連続攻撃のせいで魔法が発動できない。…いない! どこに消えた? …後ろか!
奴は猛スピードで当たり一面を鳥のように飛び回りながら、直線的な攻撃を繰り返し、空間の中心にいる僕の動きを制限した。
「…っ!」
身動きが…取れない! このままじゃまずい!
僕はガードしながら必死に逃げ道を探したが、逃げる場所などない。
「…くっ!」
どこでもいい…。どこかに逃げないと…。
「……」
いや、僕がこの空間の中心に立ってるから、こんな直線的な攻撃をしてくるのか…。早く地面に…。いや、待てよ…。逆にいえば…絶対に近づいてくるってことか…。
「なら…」
…エンチャントだ!
僕は六属性を今度は剣に一つずつエンチャントしていった。これならガードしながらできる…!
「…ぐっ!」
くっそっ…ガンガン当たって来やがって…。でも、媒体があるぶんさっきより少しやりやすい…。
黒い大剣はエンチャントする度に、あいつの黒い竜巻に負けず劣らず、禍々し色を放ち、空間を歪ませていった。
「よし…」
エンチャントはできた…。でも、まだだ…まだ…。ぐっ…! 勝負は一回…。
「……」
「…ギィアァァァア!!」
……今だ!
「…ぶっ飛べええええ!」
黒い魔物は僕の大剣に跳ね返され、地面に叩きつけられると、濁った緑色のオーラを放ち急に暴れだした。
くそっ…。まだ、HPが…。浅かったか…。また厄介な魔法を発動しようとしてるな…。今度は一体なにを…。いや、違う…。…自分で自分を攻撃しているのか?
「…なっ、なんなんだ、こいつ?」
相手のステータスを確認すると凄まじいスピードでHPが減っていた。そして、HPが残り1になると獣のような声をあげて僕に飛びかかってきた。
「ギャァアアアア!」
驚いて思わず叩き斬ってしまったが、黒い魔物は消えていき、周りを見るとデスマッチが解除されていった。
…そのはずだった。
「なんとか…倒したな…。…ん?」
なんだ…これ…。
さっきまで明るかったのに月明かりが照らしている。それになんだか息苦しいし、視界もぼやけくる。それに体が重い…。まるで水の中にいるようだ。
「…ぐっ…一体、どうなって…。……なんで…あんなところに…」
眩しさを感じて光が指す方を見ると、空間がヒビ割れていた。よく見ると、デスマッチで発動した空間に誰か立っている様に見える。だか、そんなはずはないはずだ…。それにあの黒い物体は…。
「…さて……あっちも終わったようだし……。…そろそろこっちも始めましょうか…?」
「…ソンな…バカな……。…ミとメメ゙ナイ…。ソンなコトナド…」
「認めなくてもここで終わりなのよ」
「…なっ、なんで、あいつまだ生きてるんだ……!」
「再生を司る…大いなる精霊よ…。死を飲み込み…我が一部となりなさい…。…ふっ…貴方も案外あっけない終わりかたね……。…永遠を彷徨いなさい!」
…この声…やっぱりアーデルだ……。
「おい、なにやってるんだ! 逃げろ…アーデル!! アーデル!!!」
さっきの黒い魔物が勢いよくアーデルに飛び込んだ。魔物の攻撃にアーデルは避けもせず、彼女の腹を貫いて取り込んでいった。いや、取り込んでいるのは本当にやつなんだろうか。まるで…これは…。




