第五十七話
しばらくすると、厚い金属製の鎧をつけた男が鉄格子をガンガン鳴らした。僕は寝たふりでもしようと思ったが、妙にいい匂いがして目が冷めてしまった。
「起き…起きているのか? まあいい…。飯を持ってきた。姫様のご厚意だ。ありがたくいただけ!」
男はプレートに乗ったご飯を置くと、どこかに行ってしまった。僕は、手を伸ばし鉄格子の細い隙間から料理を取った。その料理は、この牢屋に相応しくないほど豪華なものだった。
「…毒じゃないよな」
ステータス画面を開いて毒の確認をしたが、特にそんなものは入っていなかった。一応、食べても問題なさそうだ。
「…これが普通なのか? …まあ、腹も減ったし、いただこう」
まずは見たこともない色とりどりのサラダを口にした。なんともシャキシャキとして、みずみずしい。
「うわ、超おいしい! この野菜なんだろ?」
次にオレンジ色の暖かいスープだ。小さな葉っぱが浮かんでいてコロコロしたお肉が入っている。少し薬草のようなツンッとした匂いもするが、いいアクセントになっている。なんだか体がポカポカとしてきて、少し頭が冴えてきた。
「なんだろう。初めて食べる味だ。…うますぎる」
それで、次はジューシーな鶏肉に…。なんだこれ? …飲み物は黒い液体?
「なるほど、コーラか! アリスのやつだな…。でも、炭酸入りにするのは密閉できないと使えないんだよな…」
僕はコップを手に取り炭酸の抜けたコーラをグビグビ飲んだ。甘ったるいただのジュースだが、自分の甘さで牢屋に閉じ込められた今の僕にはピッタリだろう。
…まあ、たまには悪くないよな。
「…デザートは、果物か! これも超おいしい! …こんな美味しいものが食べられるんなら、しばらく牢獄暮らしも悪くないな」
「全く君は…。…なにを満喫しているんだ」
「…ん? シオンさん?」
食べるのに夢中で気付かなかったが、目の前にはシオンさんが立っていた。僕はフォークを持ったまま、驚いて立ち上がった。
「…どうしてそんなところに!?」
「それはこっちのセリフだ。君…牢屋に入ってるんだよ」
「まあ…確かに…」
「まずは…フォークを降ろしなよ。…もう食べ物はないよ」
「はい…すいません…」
もう一度、周りを見渡すとシオンさんの言う通り紛れもなく牢屋だった。僕は少し落ち着いて、フォークを皿に置いた。
「私は、君の無罪を証明しにきたんだ。…だから、いっただろ。城にはいくなって…。まぁ、君がいい奴だから…薄々こんなことになるんじゃないかと思っていだけどさ」
「そういえば、アリスは? 無事なのか?」
「…色々検査を受けて君が洗脳してないってこともわかってきた。それに君が倒した魔物の痕跡があったのが大きい。辻褄はあっている」
「そんなところまで調べたのか?」
「ああ…。なにしろ、あれからまる二日もたってるんだ」
「よく寝てたな…。まあ、無事でよかったよ」
「…無事というわけではない」
「なっ、なにかあったのか!?」
僕は牢屋の鉄格子を掴み、シオンさんに勢いよく近寄ると、足元においた食器が鉄格子にあたり、一面に冷たい金属音が響いた。
「だっ、大丈夫だ。そこまで問題じゃない。ただ、君が起きないから、絶食しているらしい。メイドの噂によるとな」
「そんなことしなくてもいいのに…」
「私もアリスに会ってきたが、少し顔色が悪かった。恐らく…噂というのは、本当だろう…」
「シオンさん、アリスに伝えてくれないか? ご飯はおいしいし、しばらく牢獄暮らしでも悪くはないって…。だから、気にするなって…」
「ふっ…。そういってくれてよかったよ…」
僕が必死にそういうと、シオンさんは軽く笑みをこぼした。なんというか、上手くはいえないが、少し違和感のある笑い方だ。
「…よかった?」
「実は君を拘束した人に頼まれてね…」
「ああ、あの人か…」
「そう…。君の様子をアリスに伝えてほしいと…。じゃあ、私は君の様子を伝えてくるよ。これで食べてくれるだろう」
「そうか…。じゃあ、早く伝えにいってください」
「ああ、じゃあ…。…おっと、もう一つの頼まれ事を忘れていた」
シオンさんはポケットから小さなペンダントを取り出した。それは、黒色の宝石で、よく見ると宝石の中から無数の小さな光が見える変わったペンダントだった。
「…なにこれ?」
「お姫様からだ。一緒に買いにいけなくてごめんっていってたよ。…多分、相当いいものだろう」
「…綺麗だな。星空を閉じ込めてるみたいだ」
「…あとこれは、伝えるかどうか迷ったんだが一応伝えておこう。さっき、しばらく牢獄暮らしも悪くないっていってたが本当にそうなるかもしれない」
「…どういう事?」
僕が尋ねるとシオンさんは三本指を立てた。険しい表情から察するに、まずいことは他にもあったということだろう。
「…理由は三つだ。まず一つ目にお姫様に反省させる為だ。君が、いくら満喫してるっていっても流石に牢獄だ。つらい思いをさせているのはわかるだろう」
「なるほどな…。アリスの家出をやめさせたいってことか…」
「そうだ。二つ目に君が倒した魔族の報復を恐れている。ただ、君が手元にいれば色々やりようはある」
「…引き渡すとか?」
「ああ…。ただ、それに関して言えば恐らくないだろう。まあ、君が四天王を倒してるとかそんな話になれば別だかな。はははっ…」
「はははっ…。そんなわけないじゃないですかー」
シオンさんは笑っていたが、僕は内心かなり焦っていた。顔には恐らくでていないだろう。たぶん…。
「私もそう思う。三つ目は…すごくいいづらいんだが…」
「…なんですか? そんなにヤバイことなんですか?」
「やばいといえばやばいかな…。…その…なんだ…。……アクションはあったのかい?」
…アクション? どういう意味だ? …攻撃?
「…あっ!」
「まっ、まさか、心当たりがあるのか!?」
「いや、実はさっき…じゃなかった。シオンさんと別れたあと…林の中で…」
「にゃっ、にゃやしのなかぁああ!?」




