第五十五話
「さて…。アリス、今回は上から入ろうと思う。この前みたいに門番に止められるかもしれないからな」
「そうね」
「…それで、今はまだ明るいから外で待って、もう少し暗くなってから入ろう思う」
「侵入ってわけね。ドキドキしてきた。でも、どこも護衛だらけだよ」
「アリス、ここじゃちょっと人目につく。…あっちで話そう」
近くの林を指差すとアリスは首を縦に振った。僕達は周りに人がいないことを確認し、林の中に移動した。少し進むと綺麗な水色の花が咲いている場所があったので、その近くの木の下に座った。
「…アリス、まず…王都の広さってどのくらいなんだ?」
僕は落ちていた木の枝を取り地面に円を書いて、アリスに渡した。アリスは直線を地面にひいて、ダイオンと文字を書いた。
「うーん。大体だけどダイオンからここまできた距離の三倍はあると思う」
「かっ、かなり広いな…」
まぁ、そりゃそうだよな…。ゲームじゃないんだし…。
「でも、それは端から端までいったらって話で、お城までは空を飛んでいけばここまできた時間くらいかな。ちなみに、お城はこの辺ね…」
アリスは僕が持っていた木の枝を使い、円の真ん中に小さな星印を書いた。端っことかじゃなくてよかったが、そこそこ距離はあるようだ。数時間ってとこだろう…。
「そうか…。じゃあ、日が沈みかけた夕方くらいにでれば、月がでる頃にはつけるのか」
「多分、そのくらいだと思う」
「そんなに遅いと店もやってないかもしれないな…。じゃあ、そうだな…。宿屋で一晩過ごそう。それから次の日の朝に起きて、ご飯を食べてケーキ屋にいこう。おいしいケーキを食べたら解散だ」
「りょーかいしました! …そうだ! 聞くの忘れてた。ボディーガードのお礼なにがいい?」
「ああ、別にいいよ。アリスには、かなり情報教えてもらったし…」
アリスはふざけた感じで敬礼していたが、僕の言葉に驚いた顔をして勢いよく近づいてきた。アリスのおかげで、この世界の歩き方は大体わかってきた。報酬はそれだけで十分だ。本当に感謝している。
「だっ、だめよ! なにか欲しい物とかないの?」
「いや、特には…」
「そんなこといわないで…。命を助けてもらったんだから…!」
少し涙ぐんだアリスは僕の服をギュッと力強く握った。僕はそっと手を離そうとしたが、めちゃくちゃ力を入れて全然緩める気配がない。うーん…。、なにか欲しいものをいわないと…。
「…それじゃあ、結構MPが貯めれる魔石が欲しい…かな」
「…わかったわ。それじゃあ、こうしましょう。明日の朝にご飯を食べて、それから魔石屋さんにいく…」
「うん」
「魔石を買って、あなたにお礼としてプレゼントした後に、お昼ご飯を食べにいく。それから、ケーキ屋さんにいって解散パーティーしましょう」
「まあ、アリスがいいならいいけど…。…魔石って高いんだろ?」
自分で欲しいものをいったものの、アリスのお財布事情を気にした。アリスはお姫様といっても、そんなにはお金を持ってないだろう。僕は少し心配になりながら、アリスの反応をうかがった。
「命を救われたんだから安すぎるくらいよ。でも、この辺じゃそこそこのものしか買えないけどいいかな?」
「そこそこで十分だ。ほんと助かるよ」
「じゃあ、決まりね!」
そんな作戦会議が終わった後は二人で仲良くダイオンで買ったパンを食べたり、約束していたコーラを飲んだり、チャンバラごっこをしながら、時間を潰して日が暮れるのを待った。
…さてそろそろいいだろう。辺りも日が落ちて、星もうっすらでてきた。
「…よし、アリスいくぞ!」
「りょうかい!」
アリスの手を握った後に再び飛び立ち、王都への侵入を開始した。誰にも見つからないようにかなり上空に行き、そこから下の風景を見ると、王都中の灯りが無数に広がり星空のように綺麗だった。
「なかなかの絶景だな…」
「私も初めて見るわ…。お城より高いところから…。こんな風に見えるのね…。…綺麗だわ」
僕達は二つの星空に囲まれながらお城の近くにある宿屋を目指したが、あまりにも綺麗で時間を忘れてしまい、あっという間についてしまった。




