第五十二話
僕はふと辺りを過ぎ去って行く人達を見た。エルフだけじゃない。…エルフ…コビット…ドラゴン…それに…大きな猫……。よくわからないけど、他にもいろんな種族が歩いている。
「…でもさ…エルフの国って閉鎖大国って…感じだったんだけど、予想外だな」
「そうね。元々はそういう国だったって聞いてるわ。でも、大昔に戦争が各地で起きて小さな国はどんどん滅ぼされていったの…」
「なるほど…」
「それでその時のエルフの王様はこの辺りの小国の全てと同盟を結んだの。一国でもおそわれたら全員で戦うぞって…。それが今も残っているから大国として残っているのよ」
「なかなかいい話だな」
「そこはね…」
「なるほど。猫とかコビットとかドラゴンとか色んな種族がいるわけがわかったよ。…ってことは猫の国やコビットの国もあるのか?」
「小さな国だけど、どこかにあると思うわ。それと…ドラゴンに限っていえば同盟を結んだのは最近ね」
「そうなのか?」
「ええ。ドラゴン強いし…そもそも戦力的には結ぶ必要ないでしょ。必要なのは物資よ。食べ物とかね。まあ、魔族よけにはなるしその点は助かるけど…」
「平和そうに見えるけど難しいんだな…」
「ええ、この前いったけどエルフの国は基本的に来るもの拒まず、去るもの追わずなの…。魔族のせいで各地で戦争が起きれば厄介な移民達が増えていずれこの国がパンクするわ」
「そうだよな…」
確かに僕の世界でもそんなニュースが流れていた。正直いうとニュースを見ても自分には関係のない話だと思ってなんにも思わなかったけど、まさか異世界で当事者になるとは思わなかったな。移民というか異民だけど…。
「…べっ、別に貴方のこと悪くいってるわけじゃないからね!? 貴方みたいにいい人は別にどんどん入ってきてもらった方がむしろ助かるわ」
「そういってもらえたら嬉しいよ」
「でも、平和を維持する事で皆が幸せならその方がいいじゃない。…私は少なくともそう思うわ」
「凄く感動した。…でも、家出中のお姫様のセリフじゃないよな」
僕が少し笑いながらいうとアリスもつられて笑っていた。でも…まあ…この年でそんな事を考えているなんて…アリスは僕が思っているよりずっと大人なのかもしれないな。
「最後のセリフは余計ね」
「そうだな…。…お姫様もたまには休日ほしいよな」
「その通り!」
そんな話をしながら街の門をでると、大きな木が見えた。、確かにこの辺で生えている木の二倍から三倍程度の大きな木だ。よく見ると、大きな木の下に人が立っている姿が見えた。シオンさんはすでに待っているようだ。
「…すいません。遅れました?」
「ちょうど私もきたところだ…。…さて、どうやって飛ぶんだ?」
「シッ、シオンさんもイルンデスネ!?」
こいつ、また緊張してるな…。
「ああ、王国に用事があるからついでに連れていってもらおうと思ってね」
「おーい、アリス…。悪いけど魔石に魔力をためてくれないか?」
「りょっ、りょうかいっ」
僕は小さな青色の魔石を渡した後、思いっきりジャンプをするとふわふわと浮かび上がった。シオンさんは本当に驚いていたようだった。
「まさか、本当に飛んでいるなんて…」
「アル、チャージできたよ」
魔石を持ったままアリスが僕の手を握るとふわふわ浮かびだし、僕は口を開けているシオンさんに声をかけて、そっと手を伸ばした。
「さぁ、シオンさんも俺の手を握って…」
「こっ、こうか?」
シオンさんも僕の手を握るとフワフワと浮かびあがった。最初はほんの少し、震えているようだったが、すぐに慣れたようだ。
「…どうですか?」
「信じられないよ。…ただ、少し怖いな。きっ、気をつけて飛んでくれ」
「わかりました。じゃあ、出発します」
そうして…僕達三人はエルフの王都アルフヘイムへ向かった。青い湖のように澄んだ空を飛んでいると、ふと妙な夢を見たことを思い出した。
天に浮かぶ青い湖から赤い星が地上の空へ落ちる夢だった。
僕は偶然にもその落ちた星を拾った。
すぐに捨てればよかったのかもしれない。
不思議とそう思った時、声が…女の子の声が聞こえてきた。
その子はこう言っていた。
はじまりはなにかの終わり…。
終わりもまた…なにかのはじまり…。
憧れを過去とするならば…
未来は穢れたまま…
貴方の中の世界も消えていく…。
私もまた貴方の中で眠りましょう。
また…あうときまで…。




