第五話
……ふぅー…。スッキリした……ってわけでもないけど……。仕方ない…。魔法は使えないけどある意味予定通りじゃないか……。
「……他にも裏スキルがあったな」
僕は再び裏スキルの項目を確認していくと、なんとも微妙なというか…ある意味ゲームらしいクソスキルが見つかった。
「…バリアブルブック? …なんだこれ?」
なになに…貴方の行動を全て記録します? まさかこれもクソスキル…ってわけ…じゃなさそうだな…。
「試しに発動してみるか…。タッチすればいいのかなっと…。よし、発動できたみたいだ…」
スキルを発動すると一冊の青い本が目の前にあらわれ、その本には今までの行動がシナリオのように記録してあった。RPGのあらすじ機能に近いのだろう。
「第一話…はじまり…ね…。なるほど、あったら便利だけどなくても問題ないスキルだな…。…まぁ…イベント思い出すときとか、次の目的地忘れたときには使えそうだな…。…他にはなにがあるんだ?」
……マリシアウルネクスト…なんだこれは?
綺麗な宝石のようだが、なんとも怪しく不気味に赤く光っている。説明を見なくてもわかる。これはきっとヤバいクソスキルだ。
……なになに…全ての悪意がゆっくりやってきます…か…。ひどいスキルだ…。でも…。
「…一見使えないようにみえるけど、まあRPGを進める上ではかなり楽なスキルかもしれないな…」
つまり、ダンジョンをクリアしなくてもボスが次々に現れるってことだ。…ってことは、ポジティブに考えると、ある意味勇者体質じゃないか…! …詰むかもしれないけど……。
「……他には…」
他には…プレイデッド…これは好きなときに仮死状態になれる。なるほど…。これはクソスキルだな…。
「対人戦で相手次第で使えるくらいか…。獣相手に使って起きたら…。いや、想像するのはやめよう…。しかし…ろくなスキルがない…。前世で悪い事でもしたのか…俺……。…最後のスキルもどうせろくでもないスキルに決まって……」
最後の裏スキルは…パーバスセット…。
「なになに…。なんでも一つだけスキルを反転させることができる…。はぁ…これもクソスキ…。いや…これはかなり使えるんじゃないのか?」
これをアンスキルフルにつければ…。おっ、表示が変わってスキルフルになった。これでゆっくり飛ぼうとすると、ゆっくり飛べるんじゃないのか?
「…どうだ? …よし、いいぞ! 成功だ!」
今度は思うように浮遊魔法が使える。…というか超楽しい。
「…なかなか最後のスキルは有能だな。少し光がみえてきたぞ」
「……きゃぁあああー!」
なっ、なんだ、今の叫び声は!? …というか嫌なフラグがたった気がする。マリシアウルネクストが赤く点滅してる…。…仕方ない、悪意から逃げれば問題ないが力試しだ。…実戦といこう。
「…こっちの方だったよな?」
僕は空を飛び悲鳴のあった場所に降り立つと、そこには薄汚れてボコボコにへこんだ甲冑をつけた六体のゴブリンと茶色いフードをかぶった人間が倒れていた。
さて、ここで問題だ…。RPGだとゴブリンを全滅させるのが正解…。だが、ここは違う…。一応、リアルの世界だ…。どうすればいい? …とりあえず、声をかけてみるか…。
「あのー…大丈夫ですか〜?」
「…誰だ!?」
「僕は怪しいものじゃありません。たまたまこの辺を歩いていて悲鳴が聞こえて……。それで……」
しばらくすると大きな一匹のゴブリンが僕に近づき倒れた人間を指さした。倒れた人物を見たが、まだ子供くらいの大きさで体格も小さい。流石にこの数で襲っているのには違和感を感じる。
「お前…こいつの仲間か?」
「いや、違うけど…」
「……」
どうやらゴブリン達が僕に気付き、警戒しながらこそこそと話しだした。殺気だったゴブリンは鋭い牙のついた口を開けた。
「命が惜しければ消えろ…。殺すぞ…!」
いきなり殺すか…。まぁ事情があるのかもしれないし聞いてみるか…。
「…その人…どうするの?」
「魔王様に…クソッ、なんでもない!」
ゴブリンはゲームとかと同じで、知能が低いみたいだな。…というか魔王がいるのかこの世界は?
「…事情はよくわからないけど…その人を離してあげなよ? 悪いやつなら仕方ないけど、まずは話をさ…」
そういうと別のゴブリンが前に出てきて剣を抜いた。剣には茶色い濁った血の跡がついていた。…なんの血かは考えないでおこう。
「…親分…やっちまいましょうよ」
「……」
…やる?
「…幸いにも俺達の姿はここまで見られてません。なら…この人間が犯人ってことにしとけばいいんじゃないですかい…?」
「…なっ!?」
「…こいつがここで死ぬ理由は?」
「逃げてる途中で獣にでも喰われたってことにしましょう。一緒に喰われたって事にね……。まぁ…流石にこっちは喰ったら殺されちまうが…。腹も減ったことですし、喰えるときに喰っとかないとね…」
「…おっ、お前ら!?」
「ふーむ……」
「なーに…。………頭だけ残して置けば大丈夫ですよ」
「…悪くない案だな……。……そうするか…」
「そっ、そうするって!?」
「人間よ…運が悪かったな…。遊び道具になって…無様に死んでもらおう!」
ゴブリン達は僕を逃さないように取り囲んだ。そして、僕は…剣を前方に捨てて、土下座をしながら必死に手を合わせて命乞いをした。
「いのっ…命だけは助けてくれー! しっ、死にたくないー!」
「死ねぇーーー!」
彼らは驚くほど従順に本能に従い、まるで血にうえた獣のようになんの躊躇いもなく襲ってくることに僕は恐怖していた…。だけど…一方で僕は冷静だった。僕はすでに準備していたのだ。奴らの頭上に強烈な雷が落ちることを…!
「…サンダーボルト!」
ゴブリン達の頭上に紫色の雷が空気が裂けた音と共に落ちた。僕はその音と共に立ち上がったあと、ゴブリン達の隙間を駆け抜けて投げ捨てた剣を拾い鞘から抜いた。
「……」
僕は倒れた人を庇うように次の攻撃に備えて構えていたが、ゴブリン達はバタバタと倒れ、それからもう動くことは無かった。