第四十八話
誰かがそういった瞬間、扉がパッと開いた。反対側の方からは、いつもと変わらず木刀を持った少年と何故か魔人化したアーデルが向こうの扉から現れる。最初は困惑したが、なんらかのコピーかなにかだろう。
「…偽物ってわけでもないようだが…本物でもない…。…あれはなんだ?」
「話せば長くなるのよ…」
「ふむ…。完全には倒さないほうがいいようだな…」
「ええっ…そんなことが可能ならね!」
木刀を持った少年は目にも止まらぬ速さで突進してきた。僕は咄嗟にかわそうとしたが、体が全く動かない。正確に言えば、僕の思った通りに動かないというべきか。僕の体は引っ張られるように進み、彼の木刀をめがけて、思いっきり剣を振り抜いた。
「…っ! …あの…木刀は厄介だな……。…ユグドラシル…のコピーか?」
「ええっ…よくわかったわね」
「大戦で散々見たからな…。まずはあれを折る…! その間、自分の相手でもしていてくれ…!」
「…任せておいて!」
僕は剣と剣が何度も重なり、悲鳴を上げるほどの高音があたり一面に広がっていた。辺りは爆音が響き、まさに戦場だ。
「…ははっ、やるじゃないか」
「…あまり舐めないことね。…強いわよ」
「…ふっ…だったら…少し本気をだすか…」
これは魔法なのだろうか? 炎のような闘気が僕を包み、体が段々と熱くなっできた。それと同時に、力が内から湧いてくる気がする。なんというかすごい状況なのだろうけど、夢心地のような気分だ。…というか、もう意識が飛ぶまで数秒ってところだ。
「…あまり無茶しないで…! その子が死ぬわよ!」
「そうはいっても…なっ! こいつの内にあるものが共鳴し始めてる…。…一石二鳥だろ?」
「ちっ! 早いわね…。私がバイパスするわ…!」
「ダメだ…間に合わない。三分以内ってとこだろう。…これで決める! いくぞ…!!」
…ヤバい。大事なところなのにもうダメだ。視界が暗くなっていく…。
「…ん?」
目が覚めると、何故か僕は闘技場の真ん中で寝ていた。起き上がると、辺りは夕暮れ時となっていた。さっきまでワアワアと言っていた客も一人もいない。
「……」
「……終わったのね」
「……勝ったんだよな。よく覚えてないんだけど……」
「ええ…勝ったわ…」
「……泣いてるのか?」
「…そうね。…そんなときもあるわよ」
「……そうだな」
アーデルは木でできたトロフィーを片手で持って佇んでいたが、それを空高く放り投げると切り刻んだ。勝利のトロフィーは粉々になり空へと流れていった。
「……」
「…よかったのか…壊して…? …大事なものだったんだろ?」
「…どうして…そう思うの?」
「…なんとなく……」
「…ふっ…なんとなくね…。形あるもの…それよりも大事なものがあるのよ。さぁ…闘技場から逃げなさい。…ここは…じきに崩れるわ」
「…アーデル…君はどうするんだ?」
「私はここに残る…。これで全て元通りになるはずよ…。…私の旅もここで終わり……。…後は…彼とともに……」
「……わかった…」
「出口はあっちよ…。色々と巻き込んで悪かったわね…」
「……じゃあな」
「…さよなら……。…って、なんで…腕を引っ張ってるの!?」
「俺がそうしたいから! …いこう…アーデル!!」
「…いこうって……」
「……」
「はぁ…。…貴方…本当に彼とそっくりなのね…。無謀なとことか……。……今回だけよ」
僕たちは崩れゆく闘技場を走り去った。闘技場の外に出ると、細く光る道のようなものが上へと繋がっていた。
「……これ…登るのか?」
「…わたしを連れてくるからよ。ベリーハードモードになったみたいね? 完全に日が落ちるまでに上にいかないと取り残されるわ…」
この距離…流石に走っても……。
「アーデル…なにかいい方法は…。…って、なんだそれ!? …っと!?」
黒光りするバイクに跨り、彼女はヘルメットを投げてきた。僕はあっけにとられていると、彼女はエンジンをかけて、思いっきり吹かしていた。
「いくわよ…」
「…ウソだろ。…どっからだしたんだよ……」
「…わたし…裏ワザ担当なのよ。…早く乗って……!」
「…あぁ! ちょっ…ちょっとまて…。アーデル…お前…運転は?」
「安心しなさい…。何度も運転してるわ」
「そっ、そうか…」
「しっかり捕まってなさいよ…。ゲームで鍛えた腕を見せてあげるわ!」
「なっ!? どっ、どういうことだ!?」
「緊急事態なんだから仕方ないでしょ? …それとも、運転変わる?」
「……」
あぁ…神様…どうか無事に……。
僕は彼女の後ろに座るとお腹のあたりに腕を回した。彼女はヘルメットをかぶると、陽気に笑っていた。
「じゃあ…いくわよ」
「……なぁ…やっぱり他の方法で…!」
「…もう遅い!!」
闘技場は崩れ始め、太陽も沈みかけていたが、光る道が下の方からとんでもない速さで消えていくのが見えた。僕は覚悟を決めることにした。
「…うわぁあああ!」
「…うるさい!」
「……」
猛スピードで進むバイクに振り落とされないように僕は彼女の体にしがみついた。彼女の運転を邪魔しないようになんとか無言を貫くよう努力はしたつもりだ。流石に急カーブは無理だったが…。
「…おっ、おい! そろそろヤバいぞ!」
「…もう少し! ギリギリね…!!」
「……っ!」




