第四十六話
僕達はカウンターに行き、会計してもらった。やはり、あの皿の量だ。十万ギル…ちょっとした宴会だ。まぁまぁ高い金額である。さて…いくら払えばいいんだろう…。
「…ってシオンさん! 俺達の分は払うよ!」
「いいよ、気にしなくて…。ほとんど私が食べたんだし…。それに私はこうみえても金持ちなんだ」
シオンさんはポンッとお金を払うと、お店を出て行ってしまった。僕は急いで自分とアリスの分の金額分をシオンさんに渡そうとしたが、全く受け取ってくれなかった。
「本当にいいの…?」
「いいって…。私も久しぶりに大勢と食事ができて楽しかった。そのお礼さ…」
「まあ、いいならいいけど…」
「ああ、だがまずいな…。君と話してたら楽しかったんでついついお酒を飲み過ぎてしまったようだ。少しここで酔いをさまして帰るよ」
「…よかったら送っていきましょうか? 肩かしますよ。おんぶしてもいいし…。払ってもらった分くらいは働きますよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
シオンさんはヨロヨロと力なく僕の肩に倒れかかった。予想外にもたれ掛かって来たので、僕は焦って抱きかかえた。
「…ちょっと、大丈夫ですか?」
「最後に喉を詰まらせた時に一気飲みしたのがきいてきたな」
透明なので今まで水と思っていたが実はお酒だったらしい。申し訳ない事をしてしまった。
「…ごめんなさい」
「ふふっ。いいよ。こんなに楽しいのは久しぶりだ」
「…それはよかったです。…ねえシオンさん、ここまっすぐでしたよね?」
「……」
寝てる…。まずい…。昼ならまだしも夜の街はよくわからない。確か…ここをまっすぐだと思うんだけど…。
「…ん? ここは…!?」
目の前には円形状の大きな建物が建っていた。ゲームにでてくる古代ローマ時代のような歴史を感じる建物だからだろうか…。こんなところにこんなどデカい建物が建っているからだろうか…。原因はわからないが、僕はひと目見て、違和感を感じた。ここがあいつの言っていた闘技場だろう…。
「…っ!」
そんなことを考えていると、突然、辺り一面に閃光が走った。あまりの眩しさに目を閉じたが、ゆっくりと目を見開くと、目を疑うような光景が広がっていた。
「…なんなんだここ……」
本当に明るい…。…というより、真昼のような明るさというか…。本当に真昼だ…。
空を見ると、この闘技場の周辺だけ綺麗な青空が広がっている。一言でいうなら、ここだけ違う世界のようだ。…というよりも、さっきからおかしい。あれほどガヤガヤとした音がしていたのに今はなにも聞こえない。
「シオンさん…ここは一体…?」
「……」
「…シオンさん!?」
シオンさんは、石像のように固まっていた。いや、シオンさんだけじゃない。周りの人間が、すべて止まっている。
「……無駄よ」
「…アーデルか!?」
「…意図的に来たわけではなさそうね。偶然、ここを通るなんて…。ついてるのか…ついてないのかわからないわね…。…でも…助かったわ」
「…なんなんだここ……。…さっきから、シオンさんが固まって…」
「問題ないわ…。さっさとこっちに来なさい…」
「そんなこといったって…。…シオンさん!?」
シオンさんはまるで泥の中に落ちていくようにゆっくりと地面に吸い込まれていった。それは、僕も例外ではない。
「早くこっちに来なさい!」
「……っ!」
アーデルに強く腕を引っ張られて、シオンさんの手を離してしまったが、僕はなんとか助かることができた。今の状況を整理しようとしていると、急に目の前の景色が変わり、辺りが騒がしくなった。もう…混乱するどころではない。
「…ここがどこだかわかる?」
「わかるわけ無いだろ! 早く…シオンさんを助けないと!」
「だから…大丈夫よ」
「…お前がやったのか!?」
僕は敵意を剥き出しにして、剣を掴んだが、彼女からはなにも感じない。もし、このまま叩き斬ったら、簡単に絶命させてしまえると思うほどだ。
「……」
「…なにか知ってるんだろ?」
「そうね…。簡単にいうと…ここは…………の世界なの……」
「……えっ?」
「だから………の世界!」
「……」
よく聞こえない…。壊れたテレビの音がする。視界がゆれる…。気持ちが悪い…。
「…ってことね。つまりは…」
「…ストップ……」
「混乱するのもわかるけど最後まで聞きなさい。これから…」
「ストップ…! …少し待ってくれ……」
僕はスッと口元を抑えた。この気持ち悪さは妙に懐かしい。まるで…初めて3Dゲームをプレイしてゲーム酔いしたような気分だ。
「…なに…大丈夫?」
「悪い…。さっきから気持ち悪くて…。話が頭に入ってこない…」
「…さっき? …さっきっていうのは何分くらい前のこと?」
「…さっきからだよ」
「体感でいいから答えなさい。…あと、最後に私はなにを話してた?」
「…一分前とか……。ここは…何処かの世界だってこと」
「序盤じゃない…。そう…。すでに離れつつあるのね…。……いい傾向だわ」
彼女は口元を手で隠し、一人で納得しているようだった。そんな姿を見ていると、ますますモヤモヤとする。
「……俺はお前の事を完全に信用してるわけじゃないんだぞ。…きちんと説明しろ!」
「…私は三十分くらい話してるわ。それも、丁寧にね…。…ネタバレはするなってことかしら……」
「なにいってる…? なにを知ってるんだ!」
「まぁ…そうね…。…ここは……ゲームの世界なのよ。…知ってるでしょ? テレビやスマホ、あとはVR…。いろんな種類があるんでしょ? そういった…類のもの…。簡単にいえば貴方はこの世界のプレイヤーになったの。強制的にね…。…甘く見ていたわ」
「…この世界がゲームだっていうのか?」
…だとしたら、俺があった神様もゲームのキャラ……? でも…なんでこいつはそんなことを知ってるんだ?
「…ちなみにあなたがさっきまでいた世界は現実よ。ゲームじゃなくてね…」
「……」
…つまり…どういうことなんだ?
「さて…そろそろ戦いにいくわよ。決勝…燃えてきたわー!」
「おっ、おい…!」




