第三十九話
ああ、これ…やばいやつ…。どうしよう…。処刑の準備でもしてるのか…。もっ、戻ってきた……。椅子に座ったけど無言だ。やばい…。なっ、なにか話さないと…。
「あっ、あの…」
「…世界の異変なんて知ってどうするつもりだ?」
ここは…正直にいうか…。周りには誰もいないみたいだし…。
「…実は俺、この世界を救いに来た勇者なんですよ」
「…からかっているのか?」
…嘘だと思われてる? …疑われてなかったのか? …それっぽい話にすり替えるか。
「…っていう本を書いてまして……。まあ、作家の卵なんですけど…」
僕はヘラヘラ笑いながら頭を掻いた。変な汗が今にも吹き出しそうだ。
「なるほど、作家なのか…」
…よかったぁー。若干笑顔になってきた。
「はい。それでなにかいい題材がないか捜しているんです」
「そういうことか…。…じゃあ、こういうのはどうだ? ……六つの悪魔の話…」
「…六つの悪魔?」
「これは、不思議な話というより私が知っているおとぎ話なんだが…。…知ってるかな?」
…聞いておこう。おとぎ話っていってもなにかヒントがつかめるかもしれない。
「…知りません。ぜひ、聞かせてくれませんか?」
「では…。昔、この世界では神様と悪魔がいて争っていたんだ…。長く長く…その戦いは続いた…」
「はい…」
僕が返事をすると、両手の人差し指を片方ずつ立てた。
「ある時…長い均衡状態だったが、とうとう神様は悪魔に勝つことができた…」
次に指をクロスさせ左指を寝かせた。
「なるほど…」
「その時、神様は二度と悪魔が復活できないように悪魔の体を六つに裂いたんだ…。こうやってな…」
少し怖い顔で右指で左指めがけてデコピンし両腕を下ろした。
「怖い神様ですね…」
「そして、その悪魔は今もどこかの地で封印されているらしい…」
「へえー…」
「…ただ、これがもし実話だったらどうする? その悪魔の肉体を手に入れたら…。一体、どんな力を得るんだろうな…」
「…どこかに本当にあるんですかね?」
おとぎ話にしてもあの小学生みたいな神様がいるんだから、もしかしたら本当にどこかにあるのかもしれない。…というか、今のおとぎ話の神様って…あの神様じゃないよな?
「はははっ…。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。ただ仮にあったとしても人間の行ける場所じゃないさ。…こんな話、信じるのかい?」
「…はい」
「…君はなんというか不思議な男だな。君と話していると全部話したくなってしまうよ……。さて、ちょっと水につけてる君の服を見てくるか…。待っててくれ…」
「わかりました…」
後で教会にいってみるか…。神様に聞けば、今の話…なにかわかるかもしれない…。
しばらくした後、彼又は彼女がとてつもないスピードで僕の服を持ってきた。なにかとんでもないことでもあったのだろうか。
「なんなんだ!? この服は! どこに売ってるんだ! 乾かそうと思って風魔法使ったら跳ね返されたぞ。他にもエンチャントされているのか!?」
…顔が近い……。
「いや、その服…非売品でオーダーメードなんです」
「どこにいけば作ってもらえるんだ!」
「……その…遠いところです」
「…すまない。辛いことを聞いたな…。大事にするんだぞ…」
…辛いこと? ああ、勘違いしているのか…。まあ、いいか…。
「…はい」
「そういえば、名前を聞いてなかったな…」
「アルっていいます。名前、聞いてもいいですか?」
「ふっ…。アル…か…。面白い名前だな…。私は…シオンだ…。もし、困ったことがあったら私にいうといい…。力になるぞ」
…面白い名前? まさか変な名前なのか!? アリスのやつ…!
「あっ、あの…」
「…どうした?」
「僕って変な名前ですかね?」
「…ん? 割と一般的な名前だと思うけど…」
どういうことだ…?
「でも、面白い名前って…」
「ああ…。そういう意味じゃないよ。私的には面白いってことさ…。他に聞きたいことあるかい?」
なんだ…。知り合いと同じ名前とかかな…。よかった…。他に聞きたいことか…。
僕はあの恐ろしい魔人化するスキル…スネークロードスネークスを思い出した。
「あの…。もしボディーガードで雇うとしたら、一日どのくらいですか?」
もし、モンスターのスキルを確認できる人がいれば裏スキルを持った敵だけ、この人に倒してもらえたら非常に助かるな…。それなら強化だけできるし…。
「そうだな…。内容にもよるが難しい内容だと一日一千万ギルってとこかな」
「一千万…。一千万ギルですか!?」
たっ、高すぎる…。正直、金がないぞ…。やっぱり博士の話を受けるべきだったか?
「はははっ…。まあ、それはとてつもない大軍の中から守ってくれとかそんな時だけどな…。まあ、君なら…タダでいいよ…。…ただし、条件はあるけどね」
「……条件?」
シオンさんは右の人差し指を立てて笑った。無邪気に笑う姿を見ると、本当にただの女の子だ。でも…裏をかいて男なのかもしれないな……。…一体…なにをさせられるんだ……。
「君…変な事考えてない? 」
「…いっ、いやっ、別に……。それで…俺はなにをすればいい? ……何でもするよ」
「そう…。まあ…気のせいということにしとくよ…。えっと…そうだな…。じゃあ…君は炭酸入りのコーラとか以外にも、おいしそうな物知ってそうだしね…。なにかおいしい物を食べさせてくれればそれでいいよ」
「…えっ? わかりました…。なにか考えときますけど…。…安すぎじゃないですか? …いいんですか?」
シオンさんは人差し指を閉じて握りこぶしにした後、さっきとは違った真面目な表情で、僕の方をジッと見てきた。
「まあ、確かにそうかもね…。ただ、気になっている事があって、実は君から不思議な魔力の匂いがするんだ…」
「不思議な魔力の匂い?」
「ああ、説明が難しいんだけどね。他の人とは違う気がするよ…。だがら、君が勇者っていったとき、実は少し信じてたんだけどな…。はははっ、残念…。そんな事ないのにね…。でも、君ならなにか手がかりを掴めるかもしれない…」
「手がかり?」
「…それは、秘密だ」
「わかりました。秘密ですね…。あっ、コーラ…温くなったんで冷やします」
「私もコップを持ってこよう。よっと…」
立ち上がると小さな棚から可愛い白うさぎが書かれたマグカップを持ってきた。僕はそのコップにコーラを入れシオンさんがコーラを飲んでいる姿を眺めた。
「…シオンさんって、所々可愛らしいですよね。そのマグカップとか…」
「……にゃっ!」
その驚き方とか…。
「じょっ、冗談ですよ! …でも、変わった驚き方しますね?」
「わっ、私も好きでこんにゃ話し方をしてるわけじゃにゃい!」
「……」
「……」
ここで笑ったらダメだ…。本人にとっては深刻な悩みなのかもしれない…。でも…。




