第三十八話
彼の後をついていくと、人通りの少ない路地裏にある質素な家にたどり着いた。トップクラスというからには豪華な家を期待していたが、中に入っても殺風景な部屋で家具も最低限の物しかおいてなかった。ただ、なんというか小物には子犬の絵が描いてあり、少し可愛らしい部屋だった。
「さぁ、入ってくれ…」
「お邪魔します…」
「…浴室はこっちだ。服は洗っておくからカゴに入れといてくれ。タオルは好きに使っていい」
「はっ、はい…」
浴室に僕は案内されシャワーを浴びて綺麗に流した後、タオルを手に取り身体を拭いた。
「今度は猫のタオルか…」
…所々可愛らしい。…というかこのタオルほしい。
僕はそんな事を思いながら替えの服に着替え、僕はリビングに向かった。
「…おっと、あがったのか?」
髪を拭いていたタオルをボトッと床に落とした。しゃがみ込んでタオルを手に取ったあと、そのまま目の前にいる人物をまじまじと見た。
「ごっ、ごめん…」
「気にするな…。何枚も持ってるからな…」
…彼…なのか?
黒服を脱いでゆったりとした服を着てリビングでくつろぐその姿はまるで…
「…女の子なのか?」
しかも、めちゃくちゃ美人だ。雰囲気だけじゃない。口調もさっきまではドスを聞かせていたが、よくよく思い出すとコーラをぶっかけられたあとからは…なんか…こう…違った気がする…。うまく言葉が浮かび上がらないけど……。
「それが聞きたいことなら答えるが…。…貸し借りはなしだぞ?」
「…やめときます」
「ふふっ…。…賢明だ。…で、なにが聞きたい?」
僕は立ち上がり、目の前の茶色い椅子に腰掛けた。すると、テーブルの反対側に彼?が座った。なんだか最初にあったときよりも緊張する。しかも、よく見ると、ギルドにあった同じ机だ。…って、そんなことを気にしている場合じゃない。ただ…なんて質問するのがいいのか…。…とりあえず…そのままストレートに聞いてみるか……。
「…世界に異変は起きてないですか? 不思議なこととか…」
「異変か…。噂程度の話でいいんなら答えるが…。…それでいいかな?」
「…はい」
「じゃあ、まず…魔族の四天王の二人が倒された。なんてねっ…。はははっ…。これは流石にないよな?」
「はははっ…。そうですよねー。流石にそんな事ないですよね」
情報…はやっ! …いやでもこの人ならなにか知ってるかも知れない。
僕は愛想笑いが不自然にならないようテーブルにあったコップに手を付けた。ただの水だったが、誤魔化すには丁度いいだろう。
「後は最近魔力の流れがおかしいとか…」
「…流れがおかしい?」
「ああ、場所によっては魔力がだしづらいんだ。前はこんな事なかったんだが…」
「ちなみに、どこなんですか?」
「ああ、この前行ってきたんだが、コビットの王都付近だ。王都でいえばエルフの王都も最近変な感じがするんだが…」
「エルフの王都も?」
「ああ…。後は…最近みたこともない魔人がうろついているそうだ」
「…みたこともない魔人?」
なんだか、怪しいやつだな…。どんなやつなんだろう…。
「…ああ、黒い鎧を着た恐ろしい姿の異形の魔人だ……」
「…へえー…それは怖いですね…」
…おっ、俺じゃねえか! 魔人になったの完全に忘れていた…。
「…まぁ、今のところ実害はないから放置されているけど、なにかあれば私に討伐依頼がくるかもしれんな…。まあ、今知ってることはそのくらいだ…」
なっ、なるほど…。三つの内、二つは僕に関係することか…。もう少し探って見るか…。
「ステータス…」
「…ん? なにかいったか?」
「いえ…水が…」
「もう飲んだのか…。入れてこよう」
彼?が立ち上がって、後ろを向いたのを確認すると、マリシアウルネクストを即座に発動した。
「へぇー…。でも、悪いことしてないんなら倒す必要ないんじゃないかな?」
「私もそのつもりだ。変に魔族に目を付けられたら厄介だからな…」
「ですよねー」
僕は視線を下にずらしてマリシアウルネクストが反応してないかを確認した。点滅してないところを見ると、とりあえずは大丈夫なのだろう。
「…ところでさっきから視線をずらしているが、なにかよからぬことをしているんじゃないよな?」
…まずい……。…まさか気づかれるなんて……。
顔は笑ってるが目は笑ってない。僕はゆっくりと視線を戻し、両手をテーブルの上に乗せた。少し警戒されてしまったみたいだ。なんとか誤魔化してみるか…。
「いや、あんまりにも綺麗なんで…。その…緊張してるというか…。そういえば、喉…渇きません? コーラ…いります?」
実のところ、まるっきり嘘ってわけではない。正直、アリスは子供っぽいところもあるのでなれたが、この人は大人っぽくてちょっと緊張する。
「……」
やばい…。無言になった…。まずかったか? …待てよ。この人、女だったら今のセリフ問題ないけど男だったら綺麗ですよね…は、まずいんじゃないか? …よし、変えよう。
「いやー綺麗っていうか。大人びて凄く格好いいなって感じがします」
「……」
やばい…。無言だ…。怖すぎて…まともに顔が見れない。よし、更に軌道修正しよう…。
「案内人のお姉さんがギルドに凄い人がいるっていってたんですけど、想像以上でした。本当に貴方に会えてよかったです」
「……」
終わった…。マジで凡ミスした…。さて…逃げるか…。
「じゃ、そろそろ僕は帰りますね。…あっ、コーラはここに置いときます」
僕は急いでバッグからボトルを取り出し炭酸入りのコーラにしてテーブルに置いた。出口は見えている。あとは走るだけ…!
「…待て……」
ですよねー。死亡フラグビンビンですよね…。
「はっ、はい!」
「その…他にも不思議な話を思いだしそうだからここにいろ…。ちょっと…お前の服を洗ってくるにゃっ! …ごっ、ごほっ……。…洗ってくる!」
…くるにゃ? なんだろう。聞き間違えか?
「はい…」
僕の方をちらりと見た後にどこかへ消えてしまった。そして、数秒後に消えた方角から何度も地響きが聞こえ、僕は頭を抱えた。




