第三十七話
「おっ、俺はないですよ! 例えばですよ! 例えばっ! 後は、あんまりステータスを公開する意味がないとか…」
そういうと納得してくれたみたいで、お姉さんは倒れた椅子を起こして席についた。少し不満そうな顔には見えたが、その理由はすぐにわかった。
「まあ…確かにあの人は実績が凄すぎて仕事がバンバン入ってるんですけど…。でも…ステータスを公開する事は大事なんですよ…。信頼がお金になるんですから…」
「まあ…そうでしょうけど…。……そんなに公開して…逆に襲われたりしないんですか?」
「……ない…とはいいきれませんけど…。基本的なものしか公開されないですし…多分大丈夫ですよ。魔力量とか…力の強さとか…あくまで一つの指標ですから…。それに…もし…そんな事すれば…あの人にボコボコにされるでしょうね」
「あの人って…ステータスを非公開にしてる人ですか?」
「はい…。実は用心棒もやってるんですよ!」
「へぇ…ちなみにその人はいまどこに?」
「あそこのテーブルに座っている黒い服を着た髪の長い黒髪の人です。かなり気難しい人なんで注意してください」
受付のお姉さんは後ろの角に座っている人を指差した。最初に来たときは人が多すぎて気がつかなかったが、どうやらここは簡単なレストランもやっているようだ。湯気の出ている焼いたばかりの肉や魚、そして、色とりどりの数々の酒…。それらを食い尽くす荒くれ者どもが勝利の美酒に酔いしれている。そんなガヤガヤとした場所の更に奥の方に彼は場違いな空気を出して座っていた。
「なっ、なるほど…。情報ありがとうございました…。少し話してきます…」
「はい。また、わからないことがあったら聞きにきて下さい。…あと、ご飯もいつかいきましょうね」
「はっ、はい…」
さてと…話してきますといったものの、コミュ障の僕にいきなり話せといわれても厳しいな…。うーん…。まあ、仕事と思って諦めるしかないか…。
「はぁ〜…」
僕は荒くれ者共に絡まれないよう慎重に通り過ぎた。…とはいっても…機嫌がいい奴らはそんなに恐くない。問題なのはこっちの方だ。角席のテーブルに一人で座っている彼の横に立った。
この人がトップクラスの実力者か… 。年は二十歳ぐらいか? 僕よりも年下みたいだな…。いや、今は姿が高校生くらいだから年上か…。ややこしいな…。まぁ、立ってるのも疲れるし声をかけるか…。
「あっ、あの〜…。ここ座ってもいいですか?」
目の前の人物がこちらの方をみると、綺麗な顔で中性的な人だった。黒い髪は艷やかに輝き、ギロリと向いた青い目は冷たさを放っていたが、その奥にある夜のような黒い瞳に僕は吸い寄せられ、ほんの一瞬目的を忘れた。
「そこにもあるだろ? あいてる席…」
「えっ? えっと…あっ、あの…実は君に頼みたいことがあるんだ!」
「…クエストか? クエストなら受付にいってくれ」
「いや、あのークエストというか…。聞きたいことがあって…」
「…喉が渇いたんだが、なにか飲み物持ってないか?」
「えーと、コーラくらいなら…」
「…ガキじゃないんだ。わかるだろ? ただのコーラに興味はない。帰りな…」
「いや、ただのコーラじゃないですよ。炭酸入りです」
「…タンサン? なんだそれ…。面白そうだな…。まあ、座れよ…」
僕はバッグからコーラを取りだし魔法で冷やした後に、ボトルが少し膨らむまで炭酸をいれて渡した。イメージはやや強めの強炭酸にしておいた。流石にただのコーラを飲ますわけにはいかないだろう…。
「えーと…。これです…」
「…先に飲みな。毒入りだったら困るからな…」
「わかりました」
僕は言われた通りバッグからコップを取りだし、キンキンに冷えたコーラを飲んだ。若干、炭酸も強い気もするし…これなら満足してくれるだろう。うーん…。おいしい…。
「…特に問題ないか……。このコーラがおいしかったらお前の話を聞いてやるよ」
「……はい…」
彼はコーラのボトルを持ち一気飲みした。…なんだろう……。どこかで見た光景だ。…嫌な予感がする。
「ぶっ、ほっ、ごほっ、ごほっ…。なんだこれ…お前…変なもんいれ…。いや、これなかなか美味しいじゃないか…」
僕はまた全身コーラまみれになった。顔のあたりがシュワシュワといっている。僕はボタボタとおちるコーラをテーブルに置いてあったタオルを手に取り、軽く拭き取った。
「……あの…。…なにかいうことは?」
「…おいしかった?」
「……」
「悪い、悪い…。冗談だよ。お詫びにタダでお願い聞くからさ…。…それと後で今のコーラをくれないか? …実はあまり酒は飲めなくてね」
「わかりました…」
「よし、ここじゃあれだ。私の家に行こう。…替えの着替えは持ってるか?」
「はい…」




