第三十四話
「はかせ〜〜」
大きな声で部屋の奥にいる博士を呼ぶと、扉を開けて残念そうな顔をしてでてきた。
「なんじゃ…。もう諦めたのか…。もう少し骨のあるやつかと思っていたが、見当違いだったか…」
「…いや、終わりましたよ」
僕は袋に詰め込んだ大量の薬草を見せた。
「…は? バカも休み休みいえ! どうせ雑草とか入れとるんじゃ…。…ほっ、本物じゃ!? しかもこの量…どっ、どうやって手に入れた!?」
「いや、だから取ってきたんですよ」
「しっ、信じられん。しかし、これは…」
「信じなくていいんで早く教えて下さい。なにに使うんですか?」
「…うーむ……。それを持って、ついてこい…」
博士は少し笑みを浮かべた後、部屋の奥へと歩いていった。僕は袋を持って後についていくと、そこにはさっきみたヘンテコなコーラの製造装置がもう一つおいてあった。若干、年季が入っているようだった。
「…なんですか、これ?」
「これは試作品製造機じゃ」
「試作品?」
「…ワシには夢がある」
「…夢?」
「誰もが驚くような完璧なコーラを作ることじゃ」
「かっ、完璧なコーラ…ですか?」
そんなものがあるならぜひ飲んでみたい。
「さて、薬草を種類ごとにあのボックスの中に入れてくれ。ワシは装置を起動する」
僕は階段をあがり十種類以上ある薬草をそれぞれのボックスに入れていった。
「…よし、これで終わりだ。…ん?」
最後のボックスに入れ終わると同時に装置が揺れだし博士が声をかけてきた。
「よし、降りてこい。抽出を開始する」
「りょ、了解しました」
僕が降りると博士はレバーを下げ、しばらくするとタンクに黒い液体が注がれていき、見たことのある金属製のボトルが自販機のように六つ出てきた。博士はそれを取ると三本を僕に手渡した。
「…これが今考えられる最高のコーラ達じゃ。お前も飲んでみろ…」
「いっ、いいんですか!?」
「早く飲め。温くなるとまずい」
…よし、いただこう。
炭酸を入れたあと、僕はその最高傑作達を味わいながら飲んだ。
…すっ、すごい。爽やかさのあとに、ほのかな甘みがある。だけど決してしつこい甘みじゃない。こっちはレモンの味がする……。こっちはバニラか……。なんていうかこれは……。
「最高ですよ、博士!」
「…まずい! クソっ、理論的には完璧なのに! また、失敗か…」
博士は思いっきりボトルを地面に投げつけ、僕は驚いてボトルを地面に落としてしまった。
「ちょっ、博士!?」
びっ、びっくりした。でも、おいしいと思うんだけどな…。
「こんなんじゃだめじゃ…。これじゃあ、あいつに…。…ん? なんでこれ泡立ってるんじゃ?」
「…えっ? ああ、炭酸入れたんですよ。これじゃないとコーラがまずいんです。博士の分も作りましょうか?」
「タンサン? なっ、なんだそれは!? そのボトルをよこせぇー!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって! 今、作りますから!」
「それでいい! さっさとよこせ!」
ものすごい剣幕で博士は僕が開けたボトルを奪い取りコーラを飲み干した。
「あっ! あぁ~…」
きっ、汚い…。間接キスじゃないか……。
「これじゃ…。これじゃ…ワシが追い求めていたのは…! どっ、どうやってやった? 頼む、教えてくれ! 金なら好きなだけやる! これか? それともこれか? これくらいならいいのか!?」
指を一本ずつ博士が立てていき、五本立てた所で指が止まった。
「おっ、教えろっていわれても…。魔法で炭酸を入れただけなんですけど…」
「…タンサン? 風魔法をただ発動しただけじゃダメなのか?」
「そっ、そうですね…。多分、溶け込まないと思います」
「そうか…」
「うーん。なにかいい方法は…。…ん? …なんだこれ?」
僕はヘンテコな装置に触れてアイテム画面を開いた。すると、設計図のような画面が現れ、それに手が触れるとわけのわからない文字だらけの画面が開かれた。
うーん…。上にスクロールしても下にスクロールしてもわけがわからないな…。それにこの左側の画面もわけがわからない…。まるで…。
「まさか…。プログラミング言語か!?」
内容はわからないが一定の法則性を感じる。なによりこの美しいコードの並び…。
「……」
でも、イジれるかわからないな…。素人だったらこのコードを適当にイジってやろうとかいうんだろうけど…。本当にブラックボックス化しているやつは触らないほうがいい…。まじで…。…でも、この最後の空白の部分に付け加えるのはどうだろうか?
「……直接やるしかないよな……」
僕はヘンテコな装置に触れて、一つ一つプログラムを書き込むイメージをして魔法を発動した。そうすると装置は緑色に輝きだし、同時にコードらしきものが次々と追加されていった。
…よしよし、いいぞ……。
「なっ、なにをしてるんだ!?」
「できるかわかりませんけど、改造してます。………よし、これでどうだ!」
「かっ、改造!?」
僕がレバーを下げるとタンクには泡立ちのある液体が注がれていき、ボトルが六つでてきた。僕はその内の一つを取り蓋を開けて飲んだ。
「…うまい! 成功したみたいだな」
博士は何も言わず、ボトルを一本手に取り、ゴクゴクと息継ぎもできないほど一気に飲み込んだ。…っていうか、そんなに一気に飲んで大丈夫だろうか……。僕はすぐに避難できるよう、スッと一歩後ろに下がった。
「こっ、これは…。まさかお前、エンチャンターなのか!?」
「…えっ? えっと……。エン…チャンター?」
「補助魔法器具が作れるのかと聞いてるんだ!」
「…そうなんですかね?」
「なっ、なんで、疑問系なんじゃ!」
「そっ、そういわれても…」
この世界の補助魔法器具の作り方なんてわからない。でも、現にできているというこの状況を考えると方向性としてはあっているのかもしれない。……よくよく考えたら、この力を使って武器にエンチャントすれば、かなり戦略は広がりそうだな。
「…いくらだ? いくら払えばいい?」
「…お金はいらないんですけど、外の倉庫に置いてあるコーラを山ほど持って帰っていいですか? とりあえず、千本くらいほしいんですけど…」
「せっ、千本!? 売りにでもするのか!?」
「いえ、全部飲む用ですよ」
「のっ、飲むのか…!? すっ、すごいやつじゃ…。まぁ、別に構わんが…本当にそんなものでいいのか?」
「十分です…。……あと、この試作品のコーラも持って帰っても?」
「好きにしろ…。全く恐ろしいやつじゃ…」
僕は外にでて、そびえたつ宝の山を見ながら考えた。問題はどうやって持って帰るかだ。流石にこのバッグには入らないだろうし…。
「…あっ、あれ? 底が見えない!?」
このバッグ、お財布みたいに空間が…。そうか…。なるほど、なるほど…。神様、わかってるじゃないか…。…よしよし、これなら相当な量が入るぞ。
それから僕は、無我夢中でバッグの中にどんどんコーラを詰め込んでいった。まるで羊の数え歌だ。
「コーラが一本……! コーラが……」
「…なんてことじゃ。ワシは夢でも見ておるのか? …そっ、そうじゃ、すっかり忘れておった!」
博士はなにかを思い出し、走って部屋に戻っていった。なにかあったようだけど、あの様子だと、大したことじゃないだろう。…というか、僕はそれどころじゃない。至福の作業タイムで大忙しだ。




