第三十三話
僕がつい本音を漏らすと、受付のお姉さんはキョロキョロと辺りを見た後で小声で僕に怒った。僕は受付のお姉さんの話を聞く為、少し前かがみになった。
「ひっ、人聞きの悪いことをいわないで下さい! そっ、それはまぁ、そこそこ取っていますけど…ギルドを運営するのだって大変なんですよ!」
「でも、十パーセントって…」
「どっ、どうしても、最初はそれぐらいになるんです! そっ、それにですね! ギルドにお金を収めればギルド内のランクがあがって、その分いい事だってあるんですから!」
「……」
まぁ、いいか…。このお姉さんが決めてるわけじゃないんだろうし、これ以上聞いても可哀想か…。
「…ん? …薬品製造? …なんでこんなに報酬高いんですか? …間違ってないですか?」
一番下に置いてあった依頼書を見ると、見間違いでなければ百万ギルと書かれている。僕は目を疑ったが、どうやら僕の目で見る限りは間違ってないようだ。
「間違っていませんよ。…これは報酬を直接依頼主から貰うタイプなので、税金と紹介料以外はかかりません。八割還元といったところでしょうか…」
「なるほど…。ボッタクリではないと…」
「でっ、ですから、ボッタクリではないです! 全くっ…! でも、ここにあるクエストの中でも、特に難しいみたいなので、本当にオススメはしませんね…。…内容は薬草の採取です」
「…なんか…簡単そうだな……」
僕がゲームの感覚でそういうと、受付のお姉さんは驚いた顔をしていた。僕は討伐クエストでもないただの採取クエスト…。ゲームだと、初級クエストぐらいなものになぜ驚いているのかわからなかった。
「…とっ、とんでもない! …聞いてました!? こんなに高い報酬なのに誰も受けてないんですよ!? …想像してください。どこに生えてるかもわからない薬草を探さないといけないんです。しかも、全部集めなければ報酬ゼロですよ!?」
「たっ、確かに…」
いわれてみればそうかもしれない。記念に一個くらいクエストを受けてみようかと思ってたんだけど、宿に帰るか…。…帰りに闘技場でもよって帰るか……。
「…どうします?」
「…今日は帰ります」
「わかりました。でも、いずれチャレンジしてみてくださいね。このコーラの薬草集めに…」
「受けます!」
僕は考える前に言葉がでていた。
「…はい?」
「紹介してください。早くっ!」
「わっ、わかりました。わかりましたから、そんなに揺らさないでください!」
…遊びでやるわけではない。工場見学なんて興味ないけど、もしかしたら冒険のヒントになるかもしれない。…そうだ。それにこれは人助けだ。
僕は依頼書を握りしめ、全速力でその場所へ向かった。…決して、安く大量にコーラを買えるルートをみつける為にいくわけではない。
「…ほんとにここなのか?」
街の端っこにあるその施設は一見すると煙突や煙のでている製造所というよりかは、妙な装置がたくさん置かれた研究所のような場所だった。…というかよく見ると看板にも研究所と書かれている。
「…ん? この匂い…」
だが、近づいていくにつれてコーラの爽やかな匂いが広がっていき、間違いなくその場所がコーラの製造所だと確信させた。
「どうもー…」
ワクワクしながら室内に入るとヘンテコな装置が次々とコーラを作りだしていた。
「…すっ、すごい! 異世界コーラはこう作ってるのかー…。なるほど…。ほうほう、これがベルトコンベアーで運ばれてあそこにいって…」
…こんなにあるし、一つぐらい持って帰ってもバレないかな……。…いかん、いかん! そんな悪いことはダメだ。…でも、安く買えそうだな〜…。後で聞いてみよう…。
そんな事を考えながら工場見学をしていると、急に白衣を着た白髪のおじいさんに声をかけられた。恐らく依頼者だろう。
「なんじゃ、お前さん? …ああ、待てよ。いわなくてもわかる。セールスじゃな? 帰ってくれ」
「いっ、いや、これなんですけど…」
依頼書を手渡すと、目の前のおじいさんは僕の事をジロジロと見た後にため息をついた。
「はぁー…。久しぶりにきたと思ったら、こんなのがくるとは…。ランクはなんじゃ?」
「…ランク?」
「ラッ、ランクも知らんとは…」
「あっ、あの、今日…登録したばかりで…。すみません…」
「きょ、きょう!? ギルドの奴らは、なめとるのか…」
「すいません。無理をいって依頼を取ったのは俺なんです」
明らかに断られる雰囲気を出していたので、半分あきらめていたが、おじいさんは棚の上にある用紙と大きな袋を取って僕に手渡した。
「…まあ、やる気があるならいい。このリストにある薬草を全て集めてくれ。かなり珍しいものもある…。まぁ、お前では無理かもしれんな…」
「がっ、頑張ります…。あの…おじいさん…。聞きたいことがあるんですけど…」
「おじいさんではない。博士と呼べ!」
「はっ、博士…。この薬草とかって、コーラの原料なんですか?」
「しってどうする?」
「いや…コーラが大好きなんで、少し興味が…」
「なるほど…大好きか…。まあ、集めてきたら聞かせてやる…」
ガクンと肩を落として、博士は頭を掻きながら部屋の奥に消えていった。僕はそれを見送ると、茶色い用紙に書いてある薬草リストを確認した。
「ふむ…」
確かアイテム画面にサーチ機能があったよな…。どこまで使えるかはわかんないけど…。久しぶりに廃人ゲーマーの力をみせてやるか…。




