第三十話
「ここだな…」
しばらく探すと街の中央に赤い猫の絵が描いてある先ほどまで泊まっていた宿屋そっくりの建物があったので僕達は中に入った。
「いらっしゃい」
声のする方を見るとカウンターに置いてある小さな箱の一つから可愛い顔が飛びだした。もふもふしたい…そんな気持ちを抑え小さな鈴をポケットから取りだした。
「あのー…これみせれば安くしてくれるって聞いたんですけど…」
「なんだい…それ? …ああ、姉さんに会ったんだね…。なるほど…。貸してあげたいんだけど、あいにく貸せる部屋が一部屋もないんだよ」
「そうですか…」
「…でも、まあ…あの気難しい奴からそれを貰うなんて大したもんだ…。どうやって、もらったんだい?」
「実は幽霊を退治して…」
「なに! 君は幽霊を退治できるのかい!?」
「いや、退治というか…。納得して、でてってもらったというか…」
「まぁ、どっちでもいいよ。実は一部屋だけ空いているんだけど、数日前から変なラップ音がしだして客を泊めれないんだ。どうにかして貰えるんなら、しばらくタダで泊まっていいよ」
…数日前? …なにか引っかかるな。
「…アリス、どうする?」
「いやっ…ていいたいところだけど…ここにくるまで、ものすごい人だかりだったでしょ? ここ以外も空いてるか怪しいわ…。…なにかイベントがあるのかしら……」
「…それならポスターが貼ってあるよ。ほら…そこに…」
「……これか…」
「…ほんとにこんなのやってるのね。驚いた…。アル…参加してみたら? 応援してあげるわよ」
「……今回はやめとくよ」
そのポスターには第三九回闘技大会開催と書かれていた。よく見ると、豪華賞品有りと書かれている。確かにやたら体格のいい人とすれ違ったのはそういう理由かもしれない。
「……なんとかならないかな?」
「猫さんも困ってるようだし、アルがなんとかしてくれるなら助かるけど…」
「…わかった。しばらくアリスはここで待っててくれ…」
「わかったわ」
「…赤猫さん、鍵くれないか?」
「はい。…先生、よろしくお願いします」
僕はかわいい猫のキーホルダーがついた鍵を受け取り二階にあがった。部屋に入ると前回の宿屋とは違い、誤魔化しのない普通に綺麗な部屋だった。数日前まで貸し出されたというのもよく分かる。
「よし、やるか…」
部屋に入り鍵をかけてカーテンを閉め、ベットに寝そべった。なかなか心地良い…。僕はステータス画面を表示させて、プレイデッドの画面を開き、前回と同じように設定した。
…まあ、自分の為じゃないから裏スキルを使っても問題ないだろう。
「魔人化はしなくていいか…。恐らく幽霊の正体は…」
僕は目の前の椅子を見ながら、ある予想をしてプレイデッドを発動した。
「やっぱり…」
起きあがると目の前の椅子には予想通り黒髪のエルフ…シルフィーが座っていた。今度はワンピースじゃなくて白くてモコモコした秋服を着ている。
…こいつ、成仏したんじゃなかったのか?
「…シルフィーどうしたんだ?」
「だっ、だれ!?」
「ああ、えーと…アルだよ」
「…アル? 全然この前と違うじゃない! 驚いて損した…」
「シルフィーも前とは違う格好じゃないか?」
「…えっ? ああ、気付いたらここにいてこうなってたの…」
不思議そうな顔をしてシルフィーは、右手を上げ服を見つめていた。
「うーん…。まだなにか未練があるのかもな…」
「未練ね…。…なにか忘れてるかしら……」
「…思いだせないのか?」
「…まったく……」
「なにかしてほしいこととかないのか?」
「…うーん。…しいていうなら……」
目の前の黒髪のエルフは立ち上がり、恥ずかしそうに口をとがらせた。なんとなく検討はつくが、あえて触れないようにするべきなのだろうか?
「……」
「…早く…しなさいよ……!」
「………キスしろって事?」
そもそも、触れられないだろ…。
「気分だけよ、気分…。あなたの事はあんまりタイプじゃないけど…。仕方ないわよね……」
「……」
…こいつ、さらっと酷いこというな……。
「…生きてる時、忙しすぎて恋もできなかったのよ。…あれ? そういえば、なんで忙しかったのかしら? …まぁ、そんな事はいいわ……。…で、ダメなの? こっちだって妥協してるのよ?」
好き放題いいやがって…。まぁ、正直可愛いいので悪い気はしないけど…。
「…わっ、わかったよ。…するから成仏するんだぞ。早く目を閉じて…」
「…うん」
シルフィーの目が閉じたのを確認すると、僕も近寄って目を閉じ唇の辺りをめがけてキスをした。まあ、触れられないので感覚は全くないのだが…
「……」
「……」
…そろそろ、いいかな……。
「…シルフィー、これでいいのか? …って、あれ?」
数秒して僕がゆっくりと目を開けると、シルフィーの姿はどこにもなかった。
「……」
…成仏したのかな……。




