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第三話

「さっ、流石に笑えなくなってきました…」

「あれだけ笑えばな…」

「ごっ、ごめんなさい」

 神様は笑いすぎて涙を流していた。少し笑いすぎだと思うが神も笑いすぎて涙を流すのかと少し驚いていた。でも…神を笑い転がす男…そんな称号は嫌だな。

「…これはどういうことなんだ?」

「…もしかしたら、裏スキルのせいかもしれません」

「裏スキル?」

「はい。ステータスには現れないスキルがあります。むしろ貴方の世界でいうと…」

「いわなくてもわかる…。センスなしだろ…。ぐずっ…」

 僕は小学校の時の体育を思い出していた。跳び箱に突っ込んで、病院に連れて行かれたのは今でも覚えている。大した事はなかったが、頭にネットのような物をしばらく被せられ、ついたあだ名はスーパー玉ねぎだ。……せめて剣士をつけろよ…。

「どうしますか? 二番にしますか? 特別に旅にでなくても生き返らせますよ」

 そんなことをいわれなくても、もちろん決まっている。

「三だ」

「わかりました。ニ番…えっ、三番ですか!?」

「俺はゲームの難易度は最高難易度でしかやらん! さあ、つれてけ!」

「本当にいいんですか?」

「…一応確認しとくが、あっちの世界で死んでも元の世界には生き返れるんだろ?」

「はっ、はい。…生き返らせますけど、ほっ、本当にいくんですか?」

「ああ…。…で、なんなんだ? その世界の破壊されそうって?」

「予知です。…ただ、遠い未来になればなるほど見るのが難しくて正確な事は私にもわかりません」

 彼女が手を挙げて降ろすと、白い煙と共に雲の中から鏡のような巨大な扉がでてきた。金枠でできた豪華な扉だ。

「…でかいな。…これを通ればいいのか?」

「はい。一度通ると帰るとき以外はもう戻れません。準備はいいですか?」

「ああ…」

「では…。あっ、待ってください。武器や防具を渡すのを忘れてました」

「おっ、おい…」

 大丈夫なのか…。この神様…。

 あまりに流暢に話していたので、てっきり装備は現地調達してくれと言うことなのかと思ってしまったが、どうやらそうではないらしい。

「すいません。異世界に送るのはあなたが初めてで…」

 彼女が呪文を唱えると茶色の革のジャケットに手袋とブーツ、鉄の胸当て、腰につける小さなバッグと剣が現れた。僕は早速着替えることにした。

「うーん…」

 少しブーツが痛いな…。普段、履かないから違和感もある…。

「どうしました?」

「なあ、革靴って走り辛くて嫌いなんだけど…。…スポーツシューズみたいなのないか?」

「うーん…。そうですね…。材質の柔らかな物にしましょう」

 彼女が再び呪文を唱えると新しい靴が何処からともなく現れた。今度は青色の柔らかそうな靴で、履着替えた後に軽く動いてみたが、さっきより違和感がない。…というか、履き心地が良すぎてまるで靴を履いてないみたいだ。

「…うん、これでオッケーだ」

「では、最後にお金とポーションを少し渡しておきます」

「なんだか急に冒険っぽくなってきたな。…そういえば疲れにくくなる薬みたいなのはないの?」

 僕は神様からお財布とポーション入りの瓶を受け取ったあと、腰につけたバッグにポンポン入れていった。

「その靴自体が疲れにくいです。貴方の装備品には魔法がかかってます。まあ、普通の人だとレベル99…つまり完全にレベルの上限一杯までにはなってると思います」

「へぇ…。…えっ、そんなことしていいの?」

 なんか…チートっぽいけど…。

「あくまで普通の人です。人間の枠からはでていないのでオッケーです。それにレベルが高ければ強いとは限りません。気に入らなければ魔法を消しますよ?」

 …確かにゲームでもレベルなんて関係ない時があるよな。

 圧倒的な経験やテクニックで高レベルのキャラクターを使うアマチュアをボコボコに倒すゲームの実況動画をふと思い出していた。

「なるほど…。裏スキルもあるけど、裏レベルもあるってことね…。…じゃあ、このままでいい」

「わかりました…。…他に聞きたいことはありますか?」

「ん~。いや…特にないよ」

「わかりました。…それでは、健闘を祈ります」

「じゃあ、いってくる…!」

「お気をつけて…」

 僕は不謹慎だとは思いながらも、ほんの少しだけ今から始まるゲームのような冒険にワクワクしていた。一歩一歩前に進み、目の前にある巨大な扉の前に立ち、両手で重い扉を思いっきり開け、新たなる旅路の扉をも開こうとした。だが、その時にとんでもない異変に気付いて、僕はそのまま氷のように固まった。

「……なっ、なっ、なんじゃこりゃぁああああ!」

 目の前の僕は普段知っている僕ではなく何年も前の高校生の時の僕だった。僕は口をパクパクとさせながら、この意味不明な状況を上手く伝えようとしてみたが、やっぱりこんな時はシンプルな言葉しかでてこない。

「…どうしました?」

「どうしましたじゃない! なっ、なんで、若返っているんだ!」

「あっ、すいません。説明するの忘れてました。あなたの体力が一番ある時に戻したんです」

「…なっ、なんで、そんな事を!?」

「なんでって…。あなたの体力がないからですよ。嫌なら戻しますけど…。…どうします?」

 ……まあ、確かにデスクワークばっかりで運動もしてないから体力なんてないか……。…五十メートル全力疾走したら息切れする自信がある。

「……神様…これでいいよ。ただ、こういう事は驚くから先にいってくれ。…ほんと心臓に悪い。寿命が縮む……」

「だったら良かったです。今は縮む寿命がありません。ノーカンです。ノーカン! ノーカウント〜…」

「……」

「じょっ、冗談ですよ! 怖い顔しないでください。以後、気をつけますから〜…」

 …以後なんてあるんだろうか……。

「…じゃあ、今度こそ行ってくるよ」

「はい。お気をつけて〜…」

 完全に出鼻を挫かれたけど、過ぎたことは気にしないようにしよう。そんな事を思いながら、しばらくまっすぐ歩いていると辺りのピンク色の雲は消え、代わりに白い霧が段々と濃くなっていき、数分後には前も見えないほどの白い霧に僕は包まれてしまった。

「……このまま行ってもいいのか?」

 引き返すにしてもさっきの扉はもう見えない。…というか、どこからきたのかももうわからない。…このまま進むしかないみたいだ。……でも、どっちに? 

「…まいったな……。…どうすればいいんだ……。……ん? …何だあれ?」

 僕が立ち止まっていると、急に真っ白く光る小さな四角い光が少し離れた場所に現れた。僕はそれに近づいていくと、段々と大きくなり、立ち止まっていても、真っ白く光る扉がまるで襲いかかって来るように僕の体を飲み込んだ。僕はあまりの眩しさに両目を閉じて、左手で顔を覆った。

「…っ!」



 

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