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第二話

 起き上がり正座すると、ピンク色の髪の毛の子は目の前に座り話し出した。どんな深刻な話をするのかと思っていたら、意外な言葉から始まった。

「今、あなたのいる世界でファンタジーゲームってありますよね?」

「ああ、あるけど…」

「簡単にいえばそんな世界です。レベルやHP、MP…。そして、魔法やスキル…。まぁ…そんな感じですね」

 彼女は一冊の古臭い茶色の本をどこからともなく取り出した。その本は表紙がボロボロで文字もかすれていた。そして、パラパラとめくりながら彼女は説明を続けた。

「…それは?」

「貴方には三つの選択肢があります。まず一番、なにもせずに元の世界に戻る。これは死にます」

「…きゃっ、却下!」

 流石に死ぬのは嫌だな。残業地獄の最高記録保持者といえど…。

「ニ番、適性検査を受けてしばらく旅にでてもらい適性がなければ元の世界に戻る。これは生き返らせます」

「……保留!」

「最後に三番です。ニ番に近いですが適性があり無事原因を排除し元の世界に戻る。これも生き返らせます」

「……ちょっと待って…。どっちみち生き返るんならニ番の方が楽じゃない?」

「続きがあります。もし、原因を排除…。つまり、世界を救ってくれた場合は、なんでも好きな願い事を一つ聞きます」

 僕は冗談みたいな事をポンポンと言ってみた。彼女は僕の冗談みたいな質問に淡々と答えていたが、笑みひとつなく全く冗談を言っているようには見えなかった。

「つまり大金持ちになりたいとか…」

「はい」

「かわいい子と結婚したいとか…」

「はい」

「世界征服したいとか…」  

「それはダメです」

「…まあ、そうだろうね」

「ですが、世界を滅ぼさない世界征服なら歓迎です。まあそれが無理なんですけど…」

 つまり、影響範囲が比較的小さい個人レベルのお願いなら何でも聞いてくれるのか……。

「……例えば後で、その願いやーめたってのはできるの? ランプの魔神みたいに不幸な未来になりたくないしさ」

「…まあ、それぐらいはいいです。ただ、そんなことするぐらいなら最高の人生にしたいとか、そんな願いにすればいいですよね」

「…確かに……」

 …しかし、願い事か……。どうしようかな? お金と女の子に不自由しない生活…。豪邸で 毎日、かわいい女の子とゲーム三昧……。………いっ、いや、ここはやっぱり世界平和だろ! でも…影響範囲狭いしな……。なっ、なら、仕方ないよなぁ…。 

 僕の頭の中では様々な欲望と妄想が繰り広げられたが、結局結論は出なかった。

「…悩むのは世界を救ってからにしてください」

「そっ、そうだな…」

「では…願い事の話はこのくらいにして、まずは適性検査を行います。立ってください」

 膝に手をつき立ち上がると、しばらくして彼女を中心に光の粒子が浮き上がっていき、僕の体をキラキラと輝く光が包み込んでいった。

「…なんだが変な気分だな」

「終わりました…。うーん…。…今から結果をいいます」

「……悪かったの?」

 彼女の顔は明らかに曇っていたが、僕はそこまで悲観していなかったので、軽い気持ちで聞いてみた。

「レベルは1…HP100…MP100…。スキルはメランコリーライフです」

「凄いな! 本当にゲームみたいだ。どんなスキルなんだ?」

「…レベルがあがりづらいです」

「……は?」

なに…その罰ゲームみたいなクソスキル……。

 僕は予想の斜め下を行くとはおもわず、しばらく開いた口がふさがらなかった。彼女はすごく申し訳なさそうな顔をして話を続けた。

「…私もいいづらいんですけど、あの〜レベルがとてつもないくらいあがりづらいです。…しかも、外せないです」

「……まっ、まぁ…いいか…。…それで何をくれるの?」

「……何とは?」

「…ふっふっふっ。わかってる、わかってるって…。お約束なんだろうけど、もったいぶるなよ」

こういうときは決まったテンプレ通りの展開がある。少し驚いてしまったが、俺ぐらいになれば…というか、大抵のやつならこの後の展開なんて簡単に予想できるだろう。

「…なにがですか?」

「こういうときは、それを帳消しにするくらいの凄い武器やスキルを一つだけ選べるんだろ!」

「…そんなものありません。ファンタジーの見過ぎです」

「…ない?」

「あげませんよ。そんなもの…」

 僕は立ち上がって小学生みたいな神様に人差し指をさして激高した。こんなのあんまりだ。 チートも最強武器も一つもないなんて…。

「お前はもっとファンタジーを勉強しろー! どうやって世界救えって言うんだ。 世界救ってほしくないのか!! このポンコツ神がー!!!」

「あっ、あなたはファンタジーの見過ぎです!」

「なっ、なんだと!」

「そもそもその世界で最強のスキルを仮にあげたら、あなたこそ世界の脅威ですよ!」

「なに?」

「あなたの世界で例えるなら、核ミサイルのスイッチをポンポンあげるようなものです! あなたが自暴自棄になって自分の世界とは関係ないゲームみたいな世界だからって押さないっていえますか!?」

「…うーん……」

 そう言われると確かにRPGゲームをする人間は普段絶対にしないモンスターの殺戮を楽しんでいる。でも、それは本当に命を奪っているわけじゃない…。あくまでゲームだ。だから楽しんでできる。

「どうなんですか?」

「…うーん……。難しい問題だからもうちょっと待ってくれ」

 …いや、そもそもこれはゲーマーとかそういう問題じゃないのかもしれない。むしろゲーマーだからわかる。プレイスタイル…その人間の本質だ…。ある日、世界で一番強い人間になったとしてその力を悪用しないと言い切れるのだろうか? 更にいえば現実世界とは関係ないゲームのような異世界で…絶対にしない!なんてそんなの口ではなんとでも言える。

「どうなんですか!?」

「…確かに神様のいう通り現実感のないゲームみたいな世界だったら、絶対に悪用しないとはいいきれないかもしれない。…もっ、もちろん、する気はないぞ!」

 彼女は厳しい表情をしていたが、少し優しい顔になり、一息ついた。彼女の姿は確かに子供だが、時折見せる表情はなんというか大人びている。

「まあ、本当にあなたがそんな人だったらここには呼んでないです。でも、人間は憎しみや悲しみ…。そして、怒りで…前が見えなくなってしまうこともあるんです…」

「…ごめん。俺が悪かった。あまりにスキルがしょぼくて……」

「きっ、気持ちはわかりますが…」

「…でも、さっきの話を聞く限りでは影響を与えない程度のスキルは貰えるってことなのかな?」

「…全く立ち直るのが早いですね」

「どうなの?」

「まぁ…そのつもりですが、魔法を扱えるようにする基本的な初期スキルしか渡せません」

 彼女の手から光り輝く球体が現れ、宙を回っていた。なんというか、とても幻想的だ。

「…それでは渡します」

 僕の周りから、金色に輝く光の粒子が浮かび上がると、体が少し浮かび上がった。それと同時に彼女の手から解き放たれた輝く球体が僕の体の周りをぐるぐる周りスッと中に入っていった。

「…これでできるのか?」

 夢にまで見た魔法がまさか夢みたいな世界で叶うとは…。

「はい。人差し指を前に出し大きな火の玉をイメージしてください。大きさ、色、温度、音…イメージ力が強ければ弱い魔法もとてつもない魔法になります。そして、イメージが固まったらファイアーボールと唱えてください」

 僕は言われたとおり、人差し指を前に出し自分の想像できる最大の大きさ…。数百メートルの高熱に燃え続ける火の玉をイメージした。そして、色はあえて赤色だ!

「神様…いくぞ!」

「すっ、すごい。なんてイメージ力…。一体どんな魔法が…」

 …人生初の魔法、最高の魔法を発動だ!

「いけぇ!! ファイアーボール!!!」

 ……シュボッ。

 それは大きな火の玉というよりはタバコをつけるにはちょうどいいサイズの炎だった。なんだろう…凄く…虚しい。

「…え? うそっ…。ぷっ…ダメっ…イメージ凄かったのに…。これくっ…だめ笑っちゃダメ…傷ついちゃう…。我慢っ…」

 神様は自分の足をつねって笑うのを我慢していた。僕はその姿を見るとゆっくりと火を消した。

「…話が進まない。我慢しなくていい。笑いきるまで笑ってくれ」

「でっ、では、遠慮なく…。ぷっ…くはっはっはっ…」

 …笑いすぎだ。

 あの後、全ての魔法を試したが結局どれもこれも同じ結果だった。自分でもここまでひどいとは思わなかったが、水魔法は水鉄砲…、風魔法は扇風機…、雷魔法は静電気並みの威力だった。残りの二属性に期待したが、結局同じでアイスニードルと叫ぶと鼻水が凍ってツララになり、ダイヤウォールと叫ぶとシャーペンの芯がどっさりとでてきた。





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