第十七話
「……怖かった。…なかなかスリル満点だったな。…大丈夫か?」
「はぁはぁ…」
「…ん? …すごい。…塞がったぞ! …今の見た?」
僕がヒビ割れた空間が消えた事に驚いていると、なんとも白けた様子で彼女は呟いた。
「…バカなの…貴方?」
「……いや…まぁ…よく言われるよ。…そうだ…確かどこかにポーションが……」
「…そろそろ降ろしてくれる? 痛いんだけど…」
「…降ろすけど、攻撃はしないでくれよ」
「そんな気力もないわよ…。もう…好きにして……」
「…あれ? …ない?」
…神様からもらったポーション入りのバッグがない! まさか…鎧の中に…。でも…どうやって脱げば…。
「なぁ…ちょっと手伝ってくれないか? 鎧が脱げなくて…回復薬が取れないんだ」
「……」
「…なぁ聞いてる? …あれ?」
「…ぅん……」
「……気絶したみたいだな。参ったな…」
このまま放っておけば、彼女は死ぬだろう。ここに彼女を置いていく訳にも行かないけど…。かと言って、この姿じゃ村に戻ることもできない…。…っていうか、早く逃げないと僕もやばい。僕は焦りながら、なにか解決策がないか、ステータス画面を開いた。
「…なにか…なにかいい方法ないのか? …って、なっ、なんだこれは!?」
恐ろしいほどHPとMPがあがり、スキルは更に増えて六属性吸収、七属性攻撃超強化、弱点特攻、オールヒール、状態異常無効化、軽減バリア常時発動、高速移動、ステータス可視化、裏スキルは物理有効、雷属性吸収無効化となっていた。
「まっ、また、人外に近づいたな……」
さてどうするか。このまま戦えば魔王すらも倒せるかもしれない。だが…。
「これじゃ、俺が脅威だな…」
「……ん? ドクターペイン…」
…これ使えるかもしれないぞ!?
「なるほど…」
僕はドクターペインのスキルを発動した。これは、どんな状態異常でも作れる。つまり、スキルを無効化する状態異常を作ればいいんだ。当然、僕が無効化するスキルはスネークロードスネークス…。
「これでできた…。よしっ、発動っと…」
僕は急いでスネークロードスネークスを無効化するスキルを作成して発動した。すると漆黒の鎧は消えていき元の体に戻っていった。
「やっ、やったああ! 元に戻ったー!」
ステータス画面を確認していくと全て元通りになっていた。いや、一つだけ違っているみたいだ。ドクターペインが変化し、状態異常スネークイーターズになっている。
「…これでポーションを取り出せるな。でも、気絶してるし…。とりあえず…かけとくか……」
僕は無造作にバッグから青色のポーションを取り出し、思いっきりかけておいた。白い煙が上がってよく見えないが、まぁ…なにか反応してるし、回復しているような気がする。
「よし、こんだけかければいいだろ……。でも、よかった…元に戻れて……。このまま…戻れなかったら……」
……まてよ。……本当に戻っているのか?
僕の脳裏に妙なイメージが浮かんだが、すぐに振り払った。でも、安心した…と言うにはまだ早い…。ドクターペインもなんらかのデメリットがあるかもしれない。もしかして、顔以外が戻っているとか……。
「……」
…なっ、なんてな。……ないとは言いきれないが…。
自分の顔を触ってみたが、肌の感触は少しハリがいいぐらいで問題なさそうだ。髪もちゃんと生えてるし…目も二つ…耳も二つ…鼻と口は一つ…。元には戻れている気がする。
「…一応、確認してみるか……」
すぐ近くの河原に行き、ゆらゆらと揺れる水面をゆっくりと覗き込むと間違いなく元の姿に戻っていた。
「よかった…。完全に戻ってる…。よし…これで彼女を…」
…いや…待てよ。そもそも四天王を村に入れ込んだらバレるだろ…。…っていうか、四天王とこんなとこに一緒にいるのが見つかったらまずい…。
「…おっ、おい! 起きてくれ…。とりあえず、少し離れた場所に移動するか…ら?」
僕は彼女の様子を伺うために覗き込むと、声を失った。褐色の肌は変わらなかったが、羽も角もない。ただの美女が、横たわっていたのだ。
「…んっ……」
「…どういうこと??」
「……」
「……これ…俺が犯罪者じゃん…」
まぁ…これで村には連れていけるようになったけど…。
僕は彼女を担ぎながら、急いで夕焼けに染まりそうな空を飛んで村に戻った。今回の戦いで魔力が尽きるとどうなるかはわからなかったが、このスネークロードスネークス…。このスキルの恐ろしさだけはわかった。
「…おーい。アリスー」
村の入口でアリスはキョロキョロと辺りを見渡していて、僕が空から声をかけると少し怒ったような口調で話しかけてきた。
「一体、どこいってたのよ! 魔物に襲われたんじゃないかと思って心配してたのよ!」
「ごっ、ごめん…。もう終わったよ…」
「…無事でよかったわ。私もびっくりしたんだけど、昨日…村の中に黒い鎧を着けた魔物がでたんだから…」
「そっ、そうなのかー。…昨日? …今日じゃなくて?」
僕は聞き間違いかと思い、スッと着地するとアリスは近寄ってきた。
「…昨日よ。まぁ、すぐに逃げたんだし、弱い魔物なんだろうけどね…。それよりも私…あの宿に一人で……!」
「悪かったよ…。…ん? …どうした?」
「ねぇ…背中の人だれ…?」
「あぁ…彼女…怪我してるんだ…」
怪我と言っても空を飛んでいる最中に少しずつ消えていってる。もうかすり傷程度だ。
「怪我…? …ほんとだ。…まさか魔物に!?」
「まっ、まぁ…そんなとこだよ…。それよりも早く宿に泊ろう。彼女の事も心配だけど、もしかすると、まだ、凶暴な魔物がうろついているかもしれない」
「そっ、そうね。でも、あの部屋はいやよ」
「あっ、当たり前だ。別の宿屋にいこう」
僕達は他の宿を一生懸命に探したが、皆も僕達と同じ考えのようで、どこも宿屋は満室で空いていなかった。しぶしぶ、あの宿に戻ると空いてる部屋は例のあの一部屋しかなかった。