第百六十三話
「ただいまー。いやー、なかなか大変だった…」
「…たっ、宝箱?」
しばらくすると、エリックは額に汗をかきながら大きな宝箱をかついで戻ってきた。きれいに装飾された豪華な宝箱だ。
「ああ…。カジノから盗…。ゴホンっ…。今までの退職金をもらってきた。まあ、文句いうやつもいないし…いいだろ?」
「…なんなんだ…それ?」
机の上にドンと置いて一息ついたあと、宝箱に取り付けられた大きな錠の鍵穴に金属の細い棒を突っ込んでカチャカチャと操作していた。
「……こいつは俺が長年…手に入れることを夢見てきた伝説の国宝…初代ドワーフ王の剣だ…。全く…こいつのせいで、人生狂わされたよ…」
「この中にそんなものが…。…っていうか…やけに手慣れてるな……」
「へっ、変な目で見るなよ! これ作ったのは俺なんだから…。当然…解除方法だってわかるさ…」
「そっ、そうか…。…だと思ったんだよ」
「…ったく……。……よし、あいたぞ! これが正真正銘鑑定書付き初代ドワーフ王の…。…って、あっ、あれ?」
大きな錠をテーブルに置いて、エリックはゆっくりとその宝箱を開けると、そこにはノスクが持っていた剣と全く同じ傘状の青い剣が入っていた。
「同じ剣だな…」
「わっ、悪い…。期待させちまったな…。こいつは…偽物だ…。…ったく、まんまとやつに騙されたってわけか……。はははっ…情けねえ…」
エリックが椅子に座ってガクッと落ち込んでいると、ウィンディーネはその青い剣を宙に浮かばせてジロジロと見ていた。
「なにいってるのよ…。正真正銘…初代ドワーフ王の剣よ…。…私がいうのよ? 間違いないわ」
「慰めはよしてくれ…」
「…私が慰めるキャラにみえる? 本当に本物よ」
「そんなはずない! 温度管理も材質管理もイマイチだ…。こいつは偽物だよ…。こんなポンコツならゴロゴロ転がってるぞ…」
エリックは宙に浮かんだ剣を強引に握りとり、すかさずウィンディーネに反論していたが、ウィンディーネはクスッとただ笑っていた。
「……今の言葉を聞いたら、初代ドワーフ王は喜んでるでしょうね…。ふっ…。まあ、ポンコツまでいわれるとは、思ってなかったかもしれないけど…」
…初代ドワーフ王? なんで、ここで初代ドワーフ王が…。でも、今の聞かれたら普通怒るんじゃ…。
「…なぁ、ウィンディーネ? …今のどういう意味なんだ?」
「ああ、簡単なことよ…。今の時代の技術が初代ドワーフ王の技術を遥かに越してるのよ…。まあ、あいつも夢が叶ったし…いいんじゃない?」
「…夢?」
「ええ…。彼の夢…。かつて…ドワーフ王がこの剣をみながら、こんなこといってたわ…。いつの日か…これを出来損ないといってくれる時代がくれればいい…ってね……」
ウィンディーネがそう言うと、エリックは吹っ切れた顔をして、僕に剣を渡してきた。その表情を見る限り、初代ドワーフ王の剣には例え剣としての価値がないとしても、かけがえのないものがそこにあるようだった。
「なるほど、それで伝説の剣か…。ドワーフ王には敵わないな…。アル、これで頼む…」
「ああ…。ウィンディーネ、この国をもう一度封印してくれ」
「それじゃ、無理…。使い手いないもの…」
「えぇっ!? あっ、ああ、そうか…。ノスクを連れてこないとな…」
「あの子じゃ無理よ。修行サボり過ぎなのよ。全く…」
「当分、無理って事か…」
まぁ、そこまで急いで封印する必要もないか…。
「違うわよ。それじゃ、無理っていったのよ! …っていうか、外にいいのがあるじゃない?」
ウィンディーネはイジワルそうな笑みを浮かべて外を指差した。指差す方を見ると、空中に浮かんだあの巨大な剣が見えた。
「あの剣は…エリックが作った…」
「ええ…。ほら、ノーム、ヴォルト! 寝る前に手伝って! 嫌そうな顔しない!」
ウィンディーネは眠そうなヴォルトとノームを連れてどこかへ消えていったが、その顔は少し嬉しそうに見えた。
「さてと…精霊達が帰ってきたら、エルフの国に帰るか…。そういえば、先にエリックを降ろさないとな…」
「…えっ?」
「…って、エリックの家の前だったな……。じゃあ…もうちょっとのんびりしと…」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
慌てた様子でエリックは言葉を遮り、僕の体を揺らしながら訴えてきた。このパターン…なにか嫌な予感がする。デジャブをすごく感じる。
「……どうしたんだよ」
「なあ、アル…頼みがある…。俺も連れていってくれ…。俺は外を見たい…。なにか…掴めそうな気がするんだ…!」
「いや、ダメだって…」
「頼む…。俺は精霊の力が使える…。それに武器やこの船の整備だってできる…。きっと、役に立つから…」
精霊の力をつかえるし…。大丈夫か…。整備キャラもほしいし…。
「うーん…。危険と隣合わせだけど、それでいいなら…」
「元よりそのつもりだ。そうと決まれば、荷物を取ってくる! 荷物持ってきてる間に逃げるなんてことはするなよ!」
「わかってるって…」
「…なあ、アル?」
「はい…」
エリックが急いで船をでていくと、シオンさんが声をかけてきた。ゼロの事を伝えるべきか迷っていると、シオンさんの方からその事を聞かれた。
「私のそっくりさんの件はどうなったんだ? …放っておくのか?」
「いや、実はその…」
僕はゼロ…。シオンさんのコピーについて話をした。魔族の四天王であるキメラに作られたということを…。シオンさんは黙って聞いていたが、拳を握りしめたまま悲しそうな顔をしていた。
「なるほど…。えげつない事をする…」
「いつか…戦う事になるかもしれない…」
「その時は私がやるさ…。もう一人の私だからな…。少し疲れたから部屋にいって休むよ………。じゃあ…あとは……」
「…どうかしたんですか?」
「…あっ…にゃ!? いっ、いやっ…その…。なんでもない…」
シオンさんは話が終わったのに僕の方をずっと見つめてきたかと思うと、急にスタスタと歩いていき広間をでていった。少し早歩きにみえたのは気のせいだろうか。




