第百六十話
「グゥゥ…! …こんなもので私の力が解けるとでも思っていたのか!? …貴様はミンチにして喰ってやるぅう!」
「……」
魔法はダメか…。でも…MP切れはしてない…。単純に魔力を込めるだけならできそうだ…。なら…。
「…声も出ないのかぁあ!」
「…フレースヴェルグ発動!!」
「…なにっ!? …ん? その姿…。くくくっ…。全くなにがでてくるのかと思えば…。笑わせてくれるな…。さっきの姿と変わらんではないか? その姿でこの鳥籠の中をまた逃げるつもりか?」
「…捕縛魔法発動!」
「…あ?」
「残念だったな……。これが発動できたら…もう俺の勝ちだ…」
「…この狭い空間でそんなものを発動して、この私を捕まえるとでもいうのか? …バカなのか?」
「…捕まえるのは…お前じゃない。…俺だ」
「…なにっ?」
僕は超高速で飛び回り、刃こぼれなんて気にせずに辺りの岩に剣を叩きつけ、金属音を鳴らしながらチャージした。岩肌にぶつかりそうになるが、捕縛魔法でルートを確保すれば問題ない。
「…グゥアア!! …耳がぁあ!!!」
「……ッシ!」
こいつは何百体ものモンスターを取り込んでいる。その中にはさっきの狼のようなモンスターも取り込んでいたはずだ。異常に良くなってしまった聴覚や嗅覚…。そして、この巨体…。……膨れ上がった強さが仇になる…!
「…コノオオオオ!!」
「…これでもくらえっ!」
「…グゥゥ!! こんな目くらましなど…!」
自身の体についた小石をつかみ、無茶苦茶なエンチャントをして、閃光弾をばらまいた。古典的な手だが、効果はある。やつはこっちの位置も分からず、デタラメな攻撃を繰り出している。
「……」
…チャンスは一回……。
「…なっ、なんだ…なんだ…貴様……。…その力は!?」
「……」
…もっと…もっとだ……。
「……貴様…黒騎士ではないな…! …誰だ!? …誰なんだ…貴様は!?」
「……」
…やつを倒せる…力を……!。…僕の全力の一撃を叩き込む!!!
「…そんな…そんなもので!! この…ガンダールが敗れるとでも思っているのか!?」
「…これでトドメだ! …チャージショット!!!」
「グッォオ……!! …バカな…。…そっ、そんなバカな!! …ッ…ウガァアァァ!!!」
体は見事に真っ二つに切り裂かれ、僕は剣を鞘に入れた。勝った…そう思った時には遅かった。奴の巨体はブルドーザーのように震え出して、こちらに突進してくると、ヘドロ状の手で僕の身体を岩壁に叩きつけた。この状態になっても驚くべきことに奴は生きていたのだ。
「…まだ生きてっ!? …ぐはっ!」
「…このまま死ねるかぁ!! 私は…まだ…やり残したことがあるのだァァァ!!」
激しい攻撃にもう流石にダメかと思ったが、なぜか攻撃がピシャリと止んだ。急いで顔を上げると、黒い姿をした何者かが奴の首をはねていた瞬間だった。
「…なっ!?」
「ぐへっ…!」
「…だっ、誰だ? 助けてくれたのは…。…って、あれ? …シッ、シオンさん? …いや、違う……。おっ、お前は…ゼロ!?」
「…ゼロ? 誰だ、それは?」
「おっ、お前、名乗っただろ! ほらっ、アルだよ!」
「ああ…お前か…。まさか、お前が四天王の一人だったとはな…。仲間割れしてくれて助かったよ。次はお前の番だ…」
血塗れの黒い剣をこちらに向けたあと、奴の体からスタッと降りた。一歩一歩、こちらに近付いてきたが、今の僕にこいつと戦う余力は残っていない。
「ちっ、違うって、俺は四天王じゃない!」
「…なら…さっきの姿はなんだ?」
「いや…あれは……」
「だんまりか…。…まぁ…お前の体に聞けばわかることだ」
「ちょっと待てって! …って、あっ、危ない!」
ムクリと起き上がった首の無い魔物は、硬そうな壁をまるで溶けたバターのようにえぐりながら攻撃をしかけてきた。なんとか攻撃を弾き飛ばし軌道をかえたが、僕の手はバカ力でしびれていた。
「ちっ…。今は信じてやる…。先にあいつを片付けるぞ」
「ああ…。…でも、どうやって?」
「あれはキメラだ…。頭を潰せば倒せるはずだ…。お前はそいつの相手をしておけ…。…あいつはどこにいった?」
「……ふっふっふっ…。今日は最高の日だ…。こんな体になった私にもここまで感情があった事をわからせてくれる…。まさかあの時の塵がまだ生きてるとはな…。…なあ、失敗作よ?」
「……」
…失敗作? どういう意味だ。
僕は攻撃を防ぎながら辺りを見渡すと、地面に転がった首が話し始めた。ゼロと名乗った剣士は冷酷な目をして、転がった頭の方へスタスタと歩いて剣を向けた。




