第十六話
僕は全力でジャンプし目の前の恐怖に震える敵にマジックイーターを発動し叩き込んだ。禍々しい紫色のオーラが剣にまとわりつき彼女を攻撃するたびに魔力を吸い取っていった。
「吸われる。わっ、わたしの魔力が…。くそっ…!」
目の前の魔人は目眩ましの火の魔法を何度も僕に放ってきたが、そんなものは効かなかった。
…ん? よくみると相手のステータスがわかるぞ。なるほど…。HP五万に…MP十万…。スキルはみれないか…。…でも流石、四天王というところだな。なかなかやるじゃないか。
「ダメージはあんまりくらってないのか…。なかなか硬いな」
「くそっ! こうなれば複合魔法だ。六属性全てを合わせた闇の魔法に沈め!」
彼女の周りに六つの色の球体が現れ、混ざり合うと漆黒の球体になった。彼女の右手には黒よりも黒い小さな夜が美しく広がっていた。
「……」
「…これは私が使える究極の魔法…。跡形もなく消え去るがいい…」
なるほど、詠唱しなくても魔法は発動できるみたいだな。…というか待てよ。あれ、俺にもできるんじゃないのか?
僕は見よう見まねで初級魔法のボールシリーズを無詠唱で全て発動して混ぜ合わせた。すると、彼女のものとは違い、美しさとはほど遠い、歪で醜い巨大な球体が出来上がった。まるで爆発しそうな風船を大きな手の平で何とか留めてる気分だ。
「…これでいいのか?」
「なっ、なぜ、貴方がそんな魔法を…」
「……さて…それじゃ勝負するか」
「…なめるなぁあ!」
「はははっ…消し炭になれ…! …ん? 誰だ…!? なに…。…子供の声が…ぐぐぅああ!」
頭の中で声が聞こえたような気がしたかと思うと雷が落ちたような痛みが流れた。僕はその痛みに耐えきれず、手に発動していた闇の魔法を投げ捨てた。
「ぐっ…! …なに…今の……。…でも…今ならっ!」
彼女は急接近して発動した魔法を僕に打ち込もうとしたところ、僕が投げ捨てた魔法が発動した。数秒後、一面一瞬全ての光が消えたかと思うと凄まじい閃光とともに爆音が鳴り響いた。
「…ぐっ!」
「…くっ!」
僕達は空中で体勢を崩して地面に打ちつけられたが、彼女は転びながら手に発動した魔法を狙いすまして打ち込んできた。僕は剣を床に打ち付けた反動でとっさに軌道をそらして避け、頬をスッとかすめたのを見送った。
…痛みが消えた。……なんだったんだ…さっきの…。
「…そんな……」
……まぁいい…考えるのは後だ。…先に決着をつけよう。
「…これで終わりだ……!」
僕は立ち上がり、マジックイーターを発動して、巨大な大剣にした。彼女はさっきの魔法でかなりのMPを使用していたようだった。
「私が負ける…。私が負けるなんて…」
「…おらぁあああ!」
「…ぐっ…がっああああ!」
背後で彼女の魔法が発動し、爆風に乗ったその勢いを使って彼女に重い会心の一撃を与えた。
「……」
…すごい砂埃だ。…奴はどこにいった?
僕が周囲を確認していると、背後になにかがおちた重たい音がした。HPが辛うじて表示されているその物体は、息も絶え絶えになっている焼け焦げた彼女だった。
「…ぐっ……。かはっ……」
「……」
…まだ、生きてるみたいだな。
「……もう…魔法も打てない。情けをかけるな…。殺せ…!」
「…そうだな……」
僕が剣を振り上げると、彼女はゆっくりと目を閉じ呼吸も緩やかになっていった。最後を悟ったようだ。
「……」
「……」
「……やっぱやーめた」
「………は?」
「……さて…どうやってここからでるかな…」
「…侮辱する気か……!」
彼女はボロボロの右腕を抑えながら、立ち上がった。フラフラでコツンと突けば今にも倒れそうだ。
「…別にそんな気はないけど……。さっき…声が聞こえたんだよ」
「…なに?」
「…お前のことを助けてくれって……。必死な声がさ…。何だったんだろうな…」
「…気でも狂ったか?」
「…かもな……。でも…まぁ、今回は俺の勝ちって事で!」
「…おいっ、なにする!?」
「いいからケガ人は黙ってろって…!」
僕は彼女を担ぎ上げて、どうやってこの空間から脱出しようか悩んでいると、暗闇で囲まれているはずなのにある一箇所から光が差し込んでいるのが見えた。僕は崩れそうな足場を一歩一歩と確かめながら、恐る恐る近づき下を見た。
「…あれは……」
「…さっきの魔法で壊れたのか……」
野球のボールが当たった窓硝子のように空間が壊れて、外から光が差し込んでいた。だが、あそこから脱出するにはあまり時間がなさそうだ。壊れた箇所が真っ赤に燃えているが、おかしな事にどんどん修復されている。
「無理ね…。あんな不安定な空間じゃ……。仮に出れてもとんでもない事に……」
「……よし…。…しっかり捕まってろよ」
「…へ?」
「じゃ…行くぞ! せっーの!」
「なっ、何考えてるの!? そんなことしたら!!」
僕は日の輪くぐりのライオンになった気分で壊れた空間を目掛けて飛び込んだ。すると、どんどん炎に包まれていき、外の景色がみるみる現れ、呆気にとられていると、何事もなかったように元の野原に戻っていた。