第百五十三話
皆は一足先に空間移動で地上に降りた。ゆっくりしてる時間はない。こっからは時間勝負だ。装備を整えた後にハッチがある部屋に急いで向かい、革手袋をもう一度しっかりとはめ直した。
「よし…そろそろ俺も行くか…。えっと…ハッチは……」
「…開けるわよ」
スピーカーから声が聞こえてきたかと思うと、ハッチがゆっくりと開いた。僕は高鳴る鼓動を抑えながら、一歩一歩前に進んだ。
「……アリスか…。…じゃ…行ってくるよ……。こっちは任せるからな…」
「……私、頑張る…。頑張るから…!」
「わっ、わかってるよ…」
「だから…絶対…無事に帰ってきてね…。約束だよ…?」
「ああ…皆と一緒に帰ってくる…。約束だ…!」
「……うん」
「じゃあ…行ってくるよ…。…フレースヴェルグ…発動!」
僕は風を纏いながら、船から勢いよく飛び出し、穴の上を目指して飛んでいった。辺りは空も海も大地も黒く染まり、この世の終わりという言葉が相応しいような状況だ。
「……MPが減らなくなったのは助かるな…」
ウィンディーネ様々だ。さっきから、ステータスを確認しているがMPが減っていない。
「…それにしても……」
プテラノドンのような恐竜型ゾンビモンスターが飛んでいた。僕はそいつらの攻撃を躱しながら前に進んでいたが、何匹も飛んでいてスピードが出しづらい。
「…っ!」
単調な攻撃だから大したことないけど…。なっ、なんだ…!?
急に下から暗くなり、妙な生臭さを感じた。僕は明かりのある上の方を見てゾッとした。超巨大なドラゴンが大口をあけて僕を飲み込んでいたのだ。
…こいつ、飛んでるのか!? まずい…出口が!
「…はぁ!」
「…えっ?」
誰かの声が聞こえたかと思うと、急に景色が変わり僕は外にでていた。横を見ると、シオンさんが下を向いて剣を振っていた。
「…シオンさん?」
「油断するな…! ここは戦場だぞ!」
「すいません…。たっ、助かりました…」
ドラゴンを地面に叩きつけたせいで、下は悲惨な事になっていそうだった。僕はシオンさんの顔をチラリと見たが、至って冷静だった。
「問題ない…。あそこにいたドワーフ達は空間移動させてる…。ここは私達に任せろ…。…そっちは任せたぞ!」
「…はい!」
僕は急いで目的地に向かうと、あの黒い尻尾はまるで山のように重なっていた。どこまで続くかわからない穴の表面には、黒い尻尾がいたるところにへばりつき、ゆっくりとだが上を目指している。
「もし、地獄があるとしたらこんなところなんだろうな…」
正直入りたくはないけど、仕方ない…。
「…よし、いくか!」
僕は灯り代わりに火の魔法を発動して穴の奥へと入っていった。奥へと進んでいるが、特に尻尾の凶暴性が増す感じはない。
……今のところは…あの時みたいに襲ってくる気はないみたいだな…。
「…ギャアァァァー!」
「悲鳴!?」
どこから聞こえたのかはわからないが、反響しながら穴の奥から声が聞こえた。どうやら先客がいるようだ。
「一応、ついたみたいだな…。…なんだ? 妙に明るい…。…っていうか、なんなんだこの空間?」
誰かが魔法でこのフロアを照らしているようだ。周囲を見渡すと、どこもかしこも穴だらけでまるで迷路のようになっている。あれがなければどこに進んでいいか分からないだろう。
「さて、尻尾の向きは…。こっちみたいだな…。…ん? …誰かくる?」
檻に閉じ込めた尻尾の向きを確認しようとしたが、叫び声が聞こえたため、急いで壁側に移動して魔法で岩の壁を作り隠れた。だがよくよく考えると、こんなところに人がいること自体がおかしい。
「……」
…助けたほうがいいか?
僕は小さな穴を空けて外を確認すると、狼のようなモンスターが、ゴブリンを食い散らかしていた。
「…なっ!」
…あっ、あれは、ゴブリン? まっ、まさか、今回の件、四天王の誰かが絡んでいるのか!? …だとしたらかなりまずい! …ってことは…魔王も悪魔の力を手に入れようとしてるのか!?
「しまった…」
僕の正体がバレてしまう…。薬は置いてきちゃったし…。でも…取りに帰ってる暇もないな…。仕方ない…。このまま戦うか…。
「…おい、犬っころ! ハウスに帰るのはまだ早いぜ…」
僕は岩の壁を蹴って破壊し、戻ろうとしているモンスターに声をかけた。僕に気づき、こちらに近づいてくるが、妙に動きが遅い。…というか……。
「グゥッルルル…!」
「あっ、あれ…。なんか…でかくね…」
どうやら目の錯覚で五メートル位の大きさかと思いきや、実際は二十メートルほどの大きさだった。黒いその巨体は腐敗臭を放っているが、先ほどの惨状をみる限り、牙は少なくとも頑丈そうだ。
「グゥゥウウ…」
「いや、あの…。……ハウス!」
「…グゥラアアア!」
「…ちょっ、ちょっと待ってて!」
左上から振りあげられた引き裂くような攻撃をさけて背後に回り、そこから高速で背中を叩き斬り、相手のHPを確認した。
「…グルルル……」
「…ちっ!」
ブレーキかけたからダメージ微妙だな…。このスキル、狭い場所だとスピードだせないし、イマイチだ…。
「グゥルウウ…グゥラアアア」
「…おらぁああああ!」
モンスターを見ると目を血走らせながら牙をむき飛びかかってきた。僕は空中に飛んだモンスターを旋回しながら、HPがゼロになるまで手当たり次第斬っていった。




