第百五十一話
ウィンディーネが呼ぶと、ヴォルトはエリックの前にスッーと飛んだ。ヴォルトはなにもせずフワフワと飛び、彼をジッと見ている。彼に力を貸すかを見定めているようだ。
「俺はダメなやつだ…。それでも…超えちゃいけないラインは超えてないつもりだった…」
「……」
「…それでも…頭を空っぽにして言われるがままに作った俺の責任だ……。……ヴォルト様…俺に力を貸してくれ…」
「……」
「少しでも償いをしたいんだ…。頼む……」
「……」
ヴォルトがエリックの周りをくるくると回りだすと、エリックの胸に棒状のペンダントが浮かび上がった。エリックは姿こそ変わらなかったものの、紫色の光が薄っすらと覆った。
「なっ、なんだ!? 力が溢れてくる!?」
「よかったわね…。ヴォルトが優しくて…。でも、裏切ればわかってるわね。ヴォルトがやらなくても私がやるわ…」
「そんなつもりはない…。アル、俺はなにをすればいい?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。…ウィンディーネ! ウィンディーネも誰かに加護を与える事はできるのか?」
「…私にも力を貸せと? …あなた達、人間に?」
「頼む…」
ウィンディーネは僕が頼み込むと、腕を組んで嫌そうな顔をしながら目をつむった。ただ、そこまで嫌そうな感じではない。なんとなくだが、もう一押しか二押しで行けそうだ。
「そうね…。うーん…」
「お願いだ…。ウィンディーネ…」
「でもなー……」
「…俺にできることなら、なんでもするから……」
「……今の言葉忘れないでね……」
「あっ、ああ…」
「そこまで頼まれたら、仕方ない……。じゃあ、そこの剣を真っ二つにしたやつ…。前にでてきなさい!」
「…わっ、私か!?」
「私の剣を真っ二つにした愚かな人間よ。力を貸しましょう…」
「うっ…!」
「…本当に愚かな人間よ……」
二回いうとダメージはニ倍みたいだ。シオンさんは段々と前屈みになっていき、本当に申し訳なさそうな顔をして謝っていた。
「…ほっ、本当にすみませんでした……」
「わかればいいわ…。…でも、あなたは氷の方が相性いいかもしれないわね…。まあ、いいわ…。…ん?」
ウィンディーネはシオンさんの周りをくるくると周りだした。なにかあったのだろうか?
「ちっ、力が溢れている…のか?」
シオンさんが不思議な顔をしながら、手を開いたり閉じたりしていた。よく見ると、力を貸したはずのウィンディーネも何故か不思議な顔をしていた。ウィンディーネはシオンさんの耳元に近づき、よく聞こえなかったが、なにかをいったみたいだった。
「あなたって…もしかして…ゴニョゴニョ……。…ゴニョ?」
「…ちっ、違うにゃ!」
「動揺しすぎよ…。あんた、なんかノスクみたいね…。まあ、嫌いじゃないわよ…。あなたみたいな正直な子…。あなたには少し別の力を貸しましょう」
ウィンディーネがシオンさんに触れてつぶやくと、体が青い光に包まれて、徐々に姿が変わっていった。光が少し収まると、まるでウィンディーネを思わせるような姿になっていた。
「…こっ、これは……」
「…なんて力だ……」
「少し別の方法で力を貸しただけよ…。まったく、恐ろしい力ね…。抑えるのが大変よ…。…さて、それでどうするの?」
「…なにを?」
「はぁ…。なにを?って…」
「…どうした?」
ウィンディーネは疲れきった顔をして、僕の肩に乗ってきた。そして、僕の耳をガシッと掴むと鼓膜が裂けるくらいの大声でガッーと叫んできた。
「どうしたじゃないわよ!!! 作戦よ!! あなたがリーダーなんでしょ!?」
「うっさ…! …いや、リーダーってわけじゃ…。まっ、まあ、考えるけどさ…」
さてと、どうするか…。今の状況からすると…。いつものゲーマー理論で考えるか…。
「まずは…」
まずは、あの剣を破壊する…。制御されてるならできなくしてやればいい…。
「うーん…」
いや、だめだ…。こういうのは、下手に破壊すると暴走するかもしれない…。
「あとは…」
あとは操ってるやつを倒す。…っていうか、そもそも誰なんだ? シオンさんに似たやつなのか? エリックなら、なにか知っているかもしれない…。
「…エリック、あの剣を作らせたのは誰なんだ?」
「アルもあったはずだ…。カジノのオーナーだ」
「あいつか…。…ってことは、あいつが操ってるのか?」
「それは…わからない」
「だよな…」
なら、再封印する…。これができれば簡単なんだが…。
「ウィンディーネ、あいつらをまとめて封印できないのか?」
「無理よ…。そもそも封印は完全には破られてないのよ…。何重にもかけてる一部が解けたの…。この状態で…なんで動いてるのか…私もわけわかんないわよ。…悔しいけど、封印するにしても原因を排除してからね」
やっぱりあれしかないか…。ゲームだと一番シンプルで一番ヤバそうな展開だ…。待てよ…。そうだ…。大事な事を聞いてなかった…。一応、聞いておこう…。
「なあ、ウィンディーネ…。昔、悪魔が暴走した時…尻尾以外でなにか異変は起きなかったのか?」
「うーん…。かなり昔のことだからね…。なにかとんでもない事があった気もするけど…」
「…とんでもない事?」
「うーん…。ちょっと待って…。もう少しで思いだせそうな気がする…。うーん…。なんだったかしら…」
ウィンディーネが頭を抱え込んで考え込んだタイミングで、なぜかズシンと船体が揺れた。最初は地盤沈下でも起きたのかと思っていたが、よくよく考えると少し妙だ。地震のように揺れてるが、音が大きくなってくる。
「…なぁ…みんな……。さっきから…変な音が聞こえて……」
「みっ、みんな、みて!」
「…ん?」
「…とんでもない巨大なモンスターが!」
「なっ、なんだあれ!?」
モニター越しでも簡単にわかる巨大なモンスターが何体も土の中から起き上がっていた。目覚めたばかりで動きは悪そうだが、今にも襲ってきそうだ。そんな中、ウィンディーネはモニターを指差して、スッキリした顔をしていた。
「…思いだしたー! 巨大ゾンビモンスターが動きだしたのよ!」




