第百四十六話
ウィンディーネは慌てた様子で近くの窓に移動した。僕も隣にいって、恐る恐る外をみてみたが、変わった様子といっても辺りには誰もいないし、野良猫一匹すら歩いていない。流石にこんな町外れの場所にはまだ異変も起きていないのか。
「…どっ、どうしたんだ?」
「……でも、やっぱりおかしいわ。尻尾がどこにもいない…」
「…ちなみにどのくらい尻尾がいたんだ?」
「この空が黒くなるくらいね…」
勇者達…よく封印できたな…。
「…じゃあ、一体どういうことなんだ?」
「…わからない。でも、もしかしたらとんでもないことが起きるのかもしれない。あぁ! ノームがいれば…」
…なんで、ノームがでてくるんだ?
「一応、ノームなら呼べるぞ…。ちょっと待っててくれ」
「ええだから…。…よべるの!?」
「……うん…」
「……そんなに簡単に私達を呼べるものなのかしら…。ほんと…あなたって何者なのよ…」
「何者っていわれても…」
「なあ、二人とも…。さっきからなんの話なんだ? …尻尾って絵本の話なんだろ?」
エリックには協力してもらわないといけないし、ウィンディーネに説明しておいてもらおう。その間に僕は召喚するとしよう。
「ウィンディーネ…。悪いんだけどエリックに説明しておいてもらえないか?」
「なんで、私がそんな事…」
「頼むよ…」
「まあいいわ…。説明しておいてあげる。早く呼んできなさい」
家の外に出てもう一度辺りを見てみたが、妙に風が乾いているくらいで、やはり変わった様子はない。足に小石が当たり立ち止まったあと、ザラザラとする地面に触れた。
「…ノーム!」
僕が力を込めてそう唱えると、地面がモクモクと盛り上がってきた。だが、様子が少しおかしい。土煙に隠れてよく見えないが、シルエットはノームにしては少し大きく、体形もどこか違う。失敗したのだろうか?
「…あれ? ここ、どこ?」
「…シャ、シャル!?」
「あっ、あなた、だれ!? …っていうか、ドワーフ!? はっ、離して!」
「おっ、おい! 逃げるなって! 俺だ…。アルだよ」
「そんなわけないよ。アルは、もっとブ…。特徴的な顔なんだよ!」
「……」
…こいつ……。
「あれ…でも…服装も同じだし…。…本当にアルなの?」
「そうだよ!!!」
最初は手を振り回して暴れまわっていたが、ようやく理解してくれたようだ。大人しくなった事を確認すると、ゆっくりと掴んだ両手を離した。
「……うーん…」
「……どうした?」
なぜか近づいてきて、ジロジロと色んな角度から僕の顔を見つめてきた。まだ怪しまれているのか…そんなこと思っていると、突然失礼なことを次々といいだした。
「薬の調合失敗したかな…」
「…どういう意味だ」
「じょっ、冗談だよ。でも、アルってちっちゃい頃はカッコよかったんだね…」
「ああ…そうかもな……」
「うーん…。カッコいい…。なんで、あんな感じになっちゃたんだろ?」
こいつ…マジで失礼なやつだな…。
「…でも、なんでシャルがでてくるんだ?」
「私も知りたいよ。ペンダントが急に輝いたと思ったらここにいたんだよ」
「…ペンダント?」
「そうだよ。ノームにもらったペンダント…。きゃっ…!」
「…どうしたんだ?」
「お尻のなかでなにか…。うっ、動いてたんだよ。早く、とっ、とってよ!」
「とっ、取れっていっても…」
円錐型のペンダントを見ていると、急に大きな声をあげて抱きついてきた。僕は怖がっているシャルをなんとか引き離して確認すると、なにかがシャルの服の中をゴソゴソと動いていた。ただ際どいところを動いていて捕まえるにも捕まえづらい。
「はっ、早く…!!」
「わっ、わかったよ!」
痛みは感じてなさそうだが、シャルは軽いパニックになっている。このまま放っておくのはまずいだろう。覚悟を決めて、胸の間からヒョコッと顔を出した瞬間にそれを掴もうとしたが、見慣れた顔に手が止まった。それは手のひらに乗るくらい小さくなったノームだった。
「…ん? ノームじゃないか?」
「…ノーム?」
「…なんで、こんなにちっちゃいんだ?」
「…もう! …ノームのえっち! へんたい! …ひどいって……? ひどいのはノームの方だよ! …ん? ……えっ? ノームが喋ってる!?」
「どうしたんだ? シャル?」
「ノームが喋ってるんだよ!」
「ああ…。なにか伝えようとしているみたいだけど、全くわからいな…」
「…えっ? わからないの?」
「…どういう意味だ?」
「…もしかして、私にしかわからないのかな?」
ノームはなにかを伝えようとしているみたいだが、僕には全くわからない。しかし、シャルにはなぜかノームの言葉がわかるようだ。シャルが問いかけると、そうだと言わんばかりにノームは手を上にあげて丸にした。
「正解みたいだな…。…なんて、いってるんだ?」
「えーとね…。ふんふん、なるほど…。コビットの国から離れすぎて力がだせないから、近くにいた私も一緒に召喚したみたい。これで少しは力がだせるみたいだよ」
「なるほど…。シャル、とりあえず中に入ろう。人目はないけど、目立ちたくないんだ…」
「うっ、うん…。まっ、まって…。もしかして中にドワーフいる?」
家の中に入ろうとすると、ピタッと止まった。シャルは不安そうに僕の服の袖を掴んでいた。そういえばあまりコビットとドワーフは仲がよくないとかアリスがいってた気がするな…。
「いるけど…」
「…だよね」
「…苦手なのか?」
「…なにかあったら助けてくれる?」
「…当たり前だろ?」
「そっかー…。えへへ…。ならいこう!」
「なあ、シャル…」
「…なに?」
「歩くの疲れるからそろそろ離してくれないか?」
「ごっ、ごめん…。これでいい?」
シャルは手を離したかと思うと、僕の背中に周りこみひっついた。ガシッっと腰を掴まれてこれはこれで歩きづらい。
「あんまり、変わってない気もするけど…。まあ、ドワーフのやつが悪いやつじゃないってわかったら離してくれよ」
「うっ、うん…」




