第百四十一話
「…ウッ、ウソだろ!?」
僕は子供のように興奮していた。僕はハラハラしながら、真ん中の柄が揃うのを見守った。
「…こい! こい! こいーーー! きっ、きた…! ……えっ!?」
僕は真ん中の柄が揃ったかと思うと、下に一段ずれて違う柄が揃った。僕はガクッとなってもう一度確認した。すると、画面の端から神様のようなキャラクターがでてきて舌をペロッとだして笑っていた。僕は久々にイラッとした。
「うっ…! はっ、はずれたのか…。くっ、くそ〜…。もっ、もう一回…。…ん?」
…と思ったその時、画面の中の神様が急に慌てだした。そして、グルグルと真ん中のリールが回りだし、気づけばすべての柄が揃っていた。
「……よっしゃぁあああああ!」
パレードのような音楽とともにコインが大量にジャラジャラとでてきた。最高の気分だ。
「やばい…ハマりそうだ。…次は…どのゲームで遊ぶかな…」
僕は一旦移動しようと立ち上がると一人の黒服が複数人近づいてきた。さっきのような怖い感じはしないが、あまりいい感じじゃない。…一体、僕になんの用だろうか?
「…おっ、お客様すいません。停電のせいで機械が故障してしまったようなので、今の当たりはなしということに…」
「はぁあああああ!?」
「こちらの不手際ですので本当に心苦しいのですが…。今…支配人がきていますので、もう少し待っていてもらえないでしょうか?」
「そんなこといわれても困る!」
「そうはいわれましても…。ああ、支配人…。この方です…」
黒服が声をかけたほうを見ると眼鏡をかけた裕福そうなドワーフが立っていた。キリッとした感じだが、なんともポーカーフェイスのよく似合う悪そうなやつだ。
「この度は本当にすいません。私達も本当に心苦しいのですが…」
「心苦しいなら今の当たり認めてくれよ!」
「私達でできる事ならいくらでもしますが…。…どうでしょう? 美味しいディナーでもご馳走させていただけませんか?」
こいつら、今の当たり完全になしにする気だな…。
「断る!」
いや、待てよ…。
「そうですか…。それではこういうのは…」
僕はそのドワーフの声を遮り、ダメ元である提案をしてみることにした。
「待った…。地下に友人が閉じ込められているんだ…。そいつの借金をチャラにしてほしい」
「…どなたでしょうか?」
「エリックだ…」
「ほう…。彼に友人が……。いいでしょう。エリックを部屋からだしてあげなさい。私は帰ります…。…それでは当カジノを引き続きお楽しみ下さい」
「……おっ、おう…」
いっ、いってみるもんだな…。こんなにあっさり通るとは…。
「支配人…よっ、よろしいんですか?」
僕を含めて予想外の答えだったのだろう。黒服達はその発言に戸惑っていた。すると、裕福そうなドワーフは振り返り不気味な笑みを浮かべた。
「ええ…。彼はいいお客様ですからね…」
「……そうですね。すぐに連れてきます…」
なるほどな…。ギャンブルをやめなければまたすぐに戻ってくるってことか…。
しばらくすると、黒服が灰色の髪の少年を連れてきた。青紫色の瞳がじっとこちらを見つめていた。
「…あんたがルアか?」
さっきは暗がりでよく分からなかったが、シュッとした感じのスポーツ少年のような姿だ。腕が少し太く、ところどころにある火傷の跡をみる限りは熟練した職人のような雰囲気を感じる。
「やあ、エリック…。…ここじゃあれだし…外にでようか? まずは…君の家にいこう…。…もう、牢屋はこりごりだろう?」
「あっ、ああ…。そうだな…」
僕はガシッとエリックの肩を掴んで、エリックの目をギロッと見つめた。エリックも警戒していたようだが、流石にこの場所では騒げないだろう。
「じゃあ、いこうか…」
「ああ…」
ガチガチになったエリックの肩を掴みながら、カジノから抜け出た。僕は辺りを見渡した後、エリックを人気のない路地裏に連れて行った。
ここならいいだろう…。
「おっ、おい! …こっ、こんなところにきて、なっ、なにする気なんだ!」
エリックは恐ろしいことをされると思っていたのだろう。急に暴れ出し、一瞬緩んだ僕の手をすり抜けた。
「ごめん、ごめん…。特になにもしないよ。ここに用事があってね。先に自宅に帰ってくれるかな…。でも、絶対に寄道はしないでね…。約束を守ってもらうまで後ろにピッタリついてるから…」
「わっ、わかった…」
エリックが見えなくなる手前で、僕は周囲に誰もいない事を確認すると、ゴミ箱の影に隠れて透明化した。
「…さて…追跡開始だ」




