第百三十七話
「………とりあえずは無事だな。いててっ…。主人公みたいにカッコよく着地ってわけにはいかないか…」
僕は見つからない内にさっさと降りようとしたが、パラシュートが木の枝に引っかかって身動きが取れなかった。
「まいったな…。剣で斬るしかないか…。勝手にしまってくれればいいんだけど…」
僕が困っていると、急にパラシュートは宙に浮き元の状態に戻っていった。
「…なっ! しまった!? そっ、そうか…。声で操作するのか…」
じゃあ、なんであの時ひらいたんだ? …高度が低くなってきたから、勝手に開いたのか? うーん…。ひらけなんて…僕はいって…。いや、いったな……。まさか…ステータスひらけって言葉に反応したのか?
「はははっ……」
いわなかったらどうなってたんだろ……。
「……いや、考えるのはよそう。見つかる前に隠れないと…。……よっと!」
僕は大きな木の幹に抱きつき、ズルズルと降りていくと、周囲から動物のような鳴き声が聞こえた。襲われたらどうしよう…そんなことを思いながら滑り降りて振り返ると、なんと驚くべきことに目の前でドワーフの兵士二人組が木の上を見ていた。僕はドキドキしながら、動きを止めた。
「…っ!?」
…えっ!? …まずい! バッ、バれた…。どうする…!? 逃げるか…!? ………あっ、あれ?
「こっちから声がしたんだがな…」
「ですね…。声はしたんですけど、特に気配はないですね」
ドワーフ達はなぜか至近距離に僕がいるにも関わらず、僕とは目を合わさずに辺りを探していた。僕は固まったまま二人の様子を見ていた。
「…帰りますか?」
「そうだな…。まぁゴミかなんかが飛んできたんだろ…」
「そうですね…」
ドワーフ達は辺りを軽く探したあと帰っていった。僕は再び冷や汗をたらしながら、木に寄りかかった。
「ふー…。緊張した…」
…でも、なんでバレなかったんだ? 目の前にいたのに…。…まさか!? 気づいてないふりをして応援を…。…って感じでもなかったな…。
「とりあえず、見つかる前にシャルから貰った薬を飲むか…。…って、ええっ!?」
僕はポケットに手を入れようとすると、とんでもない事に気づいた。なんと体が透けて風景と同化していたのだ。
「こっ、この服、透明人間になれるのか!?」
どおりでバレないわけだ…。でも、なんで勝手に…。……まさか、隠れないとに反応したのか?
「まあいいか…。これで潜入しやすくなるし…。さっきのドワーフについていくか…」
藪の中を慎重に進みながらドワーフ達の後を追っていった。すると、話し声が聞こえてきた。
「…ん?」
声が聞こえるな…。さっきのドワーフ達みたいだ…。
僕は木の枝を踏み潰さないよう足元に注意しながら、静かに近づいて聞き耳を立てた。まずは潜入の基本…情報収集だ。
「でも、誰なんですかね…。さっき、侵入しようとしたやつ…。海の中に船みたいな影が見えたらしいんですけど…。…魔族ですかね?」
「まぁそうだろうな…。ほんと…迷惑な奴らだ…」
「……」
……すいません…。
「最近多いですよね。でも、魔族がここにきてどうやって戦う気なんですかね…。魔法も使えないのに…」
…魔法が使えない?
僕はその言葉に引っかかり、注意深く二人の会話を聞いた。ドワーフ達は暗い顔をして、その場で立ち止まった。
「…だな。まあ、腕力に自信があるやつがくるのかもしれねぇな…」
「あの事件を思いだしますね…。ほら、ちょっと前に東であったあの妙な事件…。元帥のお孫さんが魔族に連れ去られそうになったっていう…」
そんな物騒な事件があったのか…。
「ああ…あれか…。噂だろ…。それに噂だったら…もっと凄いのが…」
「…なんですか?」
「…いや、なんでもない。忘れてくれ…」
「…教えてくださいよ」
「……長生きしたいだろ?」
「……はい」
「……そういうことだ」
「……はい」
「……しかし…近頃は物騒な話が多いな…。魔法も使えたなんて噂もあるし…。魔族側にもしかすると、戦闘用の補助魔法器具が作れるやつがいるのかもな…」
…つまり、補助魔法器具がないと魔法は使えないってことか…。…厄介だな。
「いやーそれはないでしょ。そのクラスが作れるとなると、この国でもそんなにはいませんよ。うちの地区だってそんなやつ…。そういえば…一人いましたね…」
「…ああ、いたな」
「…あのバカではないですよね」
「……」
…あのバカ? ……聞こえづらいな…。
二人は顔を見合わせて歩き始めた。どうやら心当たりがあるようだ。僕は小声になったので更に近づいた。
「うーん…。まあ、あのバカが金欲しさにやったともいいきれないが…根はいいやつだからな…。そこまでバカじゃないだろ…」
「ですよね…」
「それにだ…。今頃はいつものようにカジノに捕まってるんだろうしな…」
「ははっ、確かにそうですよね…。でも、才能はあるのに勿体ないやつですよ…」
「ああ…。本当に勿体ないやつだ…。おっ、街が見えてきた…。無駄話も終わったし、帰るか…」
「……」
…ここで少し待っておこう。
僕は木の影から覗き込み、ドワーフ達が草むらを抜けて街に戻っていくのを僕は見届けた。どうやらなかなか面倒くさいことになりそうだ。




