第十三話
「……」
…あれは……。
僕は草むらに隠れてしばらく待っていると、辺り一帯が黒い雲に覆われて小さな赤い魔法陣が上空に刻まれた。
「……」
…何だ……? …攻撃か? …違う。なにか…現れた。
さっきの黒騎士と負けず劣らず、大きな黒いオーラは近づかなくてもわかる禍々しさだ。恐らく四天王の一人だろう。
「……」
…こいつもかなりヤバそうだ。不意打ちくらいならいけるか…。
「…お前がやったのか?」
「…え?」
急に声をかけられ振り向くと、キラリと光る短剣を太ももに巻きつけた二本の小さい角が生えている褐色の女魔人がどこからともなく現れた。さっきの黒騎士と同様に強烈無慈悲な黒いオーラを纏っている。…ってことは、やっぱり四天王だ。
「…聞こえてるのか?」
「…だっ、誰だ!?」
僕は体勢を崩すふりをしながら、チラリとさっきの魔法陣があった箇所を見ると何事もなかったように何もなく青い空が広がっていた。
…ってことはさっきまで空中にいたやつが僕の背後に一瞬で回ったってことか……。まずい…。逃げの選択は消えたぞ…。もしかして…やっぱり四天王じゃない可能性も……。
「…私? 私はアーデル……。…魔族の国の四天王って言えばわかる?」
終わった…。
彼女は一歩一歩近づいてきている。だが、あまりにもいきなり過ぎて、僕は身動きを取れずに固まっていた。
「……それでそんなやつが、なんのようだ?」
彼女は目の前に座り込み、僕の首筋を撫でた。死神の鎌で撫でられているような気分だ。
「この辺で黒騎士の気配が消えたらしいのよね。面倒なんだけど…その原因を探りに来たってわけ…」
「…黒騎士? 何なんだそいつは…。…っ!?」
首筋が急に冷たくなった。呼吸も苦しい。
「私の質問に余計なこと以外言わずに正直に答える事…。…それが長生きの秘訣よ?」
「…わかった」
「…あんたがやったの?」
「…ちっ、ちがう。俺じゃない」
「ふーん…。レベルは2…。ゴミね…。…あんたはここで何をしてるの?」
「……えっ?」
こいつ、ステータスが見えるのか!? …でも、嘘はバレてないみたいだ。だったら…。
僕は四天王達が続々とやってくるループを断ち切る為に演じる事にした。彼女は汚いものを見るような目で僕の方をみた。選択を間違えると首と胴がバイバイするだろう。
「…聞こえてる?」
「俺は商人だ…」
「商人? ……何も持ってないみたいだけど?」
「薬草を探しに来たんだ……。そしたら…上空から変なドラゴンがやってきて…雷を黒い鎧を着た騎士に叩き込んだんだ。信じてくれ! …おっ、俺は腰が抜けて動けないんだ!」
「そう…。…どんなドラゴンだった?」
…どっ、どんなドラゴン!?
「…上空にいたからよく見えなかったけど、なんか赤くて…羽が四つか六つ生えているように見えた。倒した後はすぐにどこかにいったみたいなんだけど…」
……もうダメか…。
僕は半分あきらめて適当に誤魔化すと、予想と反して彼女の態度は一変した。
「羽が複数…? 金色の羽のようなものは見えた!?」
「えっ!? ああ、そうだ!」
なんのことかわからないが僕は即答した。
「なるほど、やつならやりかねない…。だとしたら…こんなところにまで……」
「……」
…よくわからないけど、納得してくれたみたいだ。…でも、村の中を見る限りではゲームにでてくるバハムートみたいな羽の生えたドラゴンなんていなかったんだけどな。どっちかというとトカゲ人間というか…。
「まあいいか…。目障りなやつをやってくれて助かったわ。次の四天王には私の部下を推薦しようかしら…。…ん?」
妙なことに彼女は僕の匂いを嗅ぎ始めた。一歩間違えば死ぬって時に本当はおかしいんだろうけど、妙にドキドキとしていた。
「……本当は消そうかと思ったけど…。面白い匂いがしたから消さないであげるわ」
「……」
「じゃあね…。また会いましょう…」
女は立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて上空へ消えてしまった。僕はしばらく腰が抜けたふりをした後、宿屋に帰ることにした。




