第百二十話
「……今ので、かなり回復したな…」
「僕は逆に疲れたよ…」
「…っていうか、これだけ騒いでも起きないなんて、みんなよく寝てるな」
僕は足元で寝ている猫達とアリスをみた。ぐっすり寝ていて、全く起きる様子がない。
「まぁ疲れてるんだよ…。僕らもついさっき帰ってきたところなんだ。お姫様も大変だったみたいだよ…。ふぁ〜あ…。眠い…」
「ごっ、ごめん。そうだったのか…」
「まっ、まぁいいよ。一番大変だったのはアルだったんだから…。もし、あの尻尾が外にでてたらと思うとゾッとするよ…」
「確かにそうだな…」
「ねえ、アル…。話があるんだ…。…ちょっと、ベランダにでない?」
「…いいけど?」
僕達はみんなを起こさないようゆっくりと立ち上がり、そろりそろりとベランダに向かった。水平線が見え、白い帆をあげた船が何隻か見える。てっきりまた山の中かと思ったが、猫の国は海のほうが近かったようだ。
「いい景色だな…。…それで、なんなんだ?」
「アルは…勇者の道標を手に入れる為にここにくる途中だったの?」
「…まぁ、そうだな」
「それって…自分の命よりも大切なものなの? …もうちょっとで死んじゃうところだったんだよ?」
僕はベランダの手すりによりかかり、ボッーと景色をみた。潮風がとても心地よかった。
「…まぁその道標は、あるエルフを助けるためにどうしても必要なんだ」
「…大事な人なの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。どちらかというと俺の仲間の大切な人…」
「…アル、変な事聞いてもいい?」
ノスクは手すりから、手を離してこちらを向いた。とても真剣な顔をしている。僕は手すりから手を離して、ノスクの方を向いた。
「…なんだよ? …変な事って?」
「……もし、道標を僕達が持ってなくても助けてくれた?」
「…多分、助けたよ」
「…助ける理由もないのに?」
僕はそのセリフを聞くとある事を思いだした。今でも僕の心に残った最高のセリフの一つである。
「昔やったゲ…。ごっほん…。昔あった人でさ…。こんな事をいってた人がいたんだ。…誰かを助けるのに理由なんているのかい?ってね…。俺もその言葉を聞いて心の底から確かになって思ったんだ。助けるのには理由はいらないんだ…。助けたいと思ったから助ける…。それでよくないか? …ノスク?」
「そっ、そっ、そっ、その人、めっちゃかっこいいにゃあ!!!」
「…だろ!? 俺も男だけど惚れそうになったよ…。でも、まぁ…今回の冒険で逆もあるんだって思い知ったよ…。誰かを助けるのには理由がいらないけど、誰かを助けないのは理由がいるんだ……。少し…自分が嫌いになったよ…」
もし、僕がチート持ちではなくタダのザコだったら、きっと猫の国どころか誰も助けれない…。今頃、そんな理由をつけて僕は目の前のどうしようもない現実から逃げていたと思う。まぁ、本当にどうしようもないことなんだけど…。
「ごっ、ごめんにゃ! 僕がへんにゃこと聞いて…。おっ、落ち込まないでにゃ! 本当に本当にアルには助けてもらったんだにゃ! 本当に感謝してるんだにゃ! …そっ、そうだ! 嬉しいご報告があるにゃ」
「…嬉しいご報告?」
…一体なんの話だ?
「僕もその人みたいな立派なパラディンになる為に、アルについていくにゃ!」
「いや…その人はどっちかというと、盗賊…。…えっ!? 今、ついてくるっていった!?」
「そうだにゃ!」
「あっ、危ないよ! ダメだ、ダメ!」
「…でも、この剣が勇者の道標なんだよ?」
ノスクは傘のような青い剣を手に持ち僕に見せた。太陽の光が当り、キラキラと輝いている。
「…やっ、やっぱりか……」
「まぁ、僕もこの前ご先祖様の本で知ったんだけどね!」
薄々感じていたがやはりそうだった。恐らくあのダンジョンの入口のもう一人は勇者なのだろう。ならば、ノスクが持っている可能性が一番高いとは思っていたけど…。
「そっか…。…ん? …この前? じゃあ、王様は知らなかったのか!?」
「たぶん、知らないと思うよ。あの王様、ほんと適当だから…。まずいっ…。お城の中だった…。今のは秘密だよ…」
「…ったく…あの野郎……。まぁいいか…。じゃあ、よろしく頼むよ…。…ノスク!」
「…よろしくだにゃ、アル!」
僕等は手を取り合い握手をした。その時だった。立っていられないほどの揺れが起きた。地震にしては妙な揺れ方な気がするが、しばらくすると揺れがピタッと止まり、僕らは立ち上がった。




