第十二話
「…さて、起きるか!」
「おはよう」
…びっくりした。
アリスはとっくに起きていたようだった。だが、様子が少しおかしい。昨日とは違った顔色の悪さをしていた。
「おっ、おはよう…」
「あの…その…」
「…どうしたんだ?」
「…レに一緒にいって欲しい」
「…えっ、どこに?」
「トイレに…」
「そっ、それは流石に…」
「もう…だめ…」
「わっ、わかった! 早くいくぞ」
僕達はトイレのドアの前に急いで行った。アリスはバツの悪そうな顔をしながらカギを占める前にドアの隙間から覗いていた。
「お願いだから少し離れてて…」
「わかったよ…。終わったらドアを叩いてくれ…」
彼女がドアを閉めると僕は律儀にベッドの方へ戻って寝っ転がり天井を見上げた。…なんともいい目覚めだな……。ほんとに……。
「……」
これからどうするかな…。
まず、できれば近くにギルドがあれば行ってみたい。あとはバリアブルブック…。こいつもなにか面倒くさいクソスキルなのかどうか確かめる必要もある。
「…うーん……。今から、発動してみるか…」
今回は本を見るだけだし、そこまで大したことはないだろうと思いながら、バリアブルブックを発動した。しかし、最初からページをめくっていっても特に変わったところはない。…そう思っていた。
「ははっ…こんなことまで書いてるのか…。ふむふむ…。それで…幽霊がでて…びっくりした後にドキドキしながら眠って…。ドキドキは余計だな…。それで…朝起きた…と。…これで終わりみたいだな……」
…あとは、白いページばっかり…。やっぱり…別におかしなところなんて…。
「……ん? …なんか書いてあるな…」
なんだこのページ…おかしい…。僕はこんなことしてないぞ…。
青く輝くページをめくっていくと本来存在しない…存在するはずのないページがいくつもあった。
「どういうことだ…これ…」
確かに僕の行動した記録のようだ。でも…僕には記憶がない。
でも…開いたそのページには…こう書かれてあった。
「ルートⅠ…。ゴブリンを倒した地で四天王の一人と戦うことになった……。…なんだって!?」
それは未来のページだった。
続きを読んでいくと僕と四天王との激闘が書かれてあり、何度もページをめくっても終わりの見えないストーリーが永遠に繰り広げられていた。
「…なるほど……」
細かい点は違うみたいだけど、どうやら直近の分岐点は大きく分けて三通りあるみたいだ。
〈ルートⅠ〉 このままエルフの国に行く。そして、僕のせいで四天王の一人に目を付けられたこの村がなくなった事を知る。
〈ルートⅡ〉 近くのギルドに行った後に四天王の攻撃により、この村がなくなった事を知る。
〈ルートⅢ〉 この村に滞在していた僕と四天王が戦う。そして…為す術もなく僕が死ぬ……。
「…ったく……。ろくでもないな…」
僕は立てかけてあった剣を手に取り、強く握りしめながら少しだけ抜いた。鞘からキラリと光る剣に写っていた情けない顔と見合わせながら、しばらく考えた後、僕はゴブリンを倒した地に向かうことを決意したのであった。
「……」
あれか…。ヤバそうな雰囲気だな…。
草陰に隠れ、息を殺しながら辺りの様子を観察していると、そこには見るだけで気分が悪くなる様な重い空気を解き放っている黒騎士が突如として歪んだ空間から現れた。ステータス画面のマリシアウルネクストも高速で点滅している。こいつが四天王の一人だろう。
「……」
仲間は他にいないようだな…。
黒騎士は特に何をするわけでもなく、ゴブリン達を葬った場所で立ち尽くしている。もしかすると、魔法で犯人の行先でも調べてるのだとしたら、かなりまずいことになるな…。……だとしたら……。
「……」
やるなら今か…。
僕はゴブリンを倒した地で四天王の一人と戦うことになった。僕は数々の魔法を駆使し、目にも止まらぬはやわざで数々の剣技を……。……なんてすると思うか?
あいつの本体は実はあの剣らしい。バリアブルブックに書いてあった弱点の雷魔法の不意打ちでたたく。情報とは使われるのではなく使うんだよ!
「…くらえ!」
僕は水の魔法も同時に使い導体として利用し、紫色に光る雷魔法を魔力がなくなるまで叩き込んだ。しばらくすると土煙が薄らいでいき、同時にステータス画面にメロディーが流れた。どうやらレベルが上がったみたいだ。
「…倒したみたいだな。でも…」
妙だな…。あまりにも弱すぎる…。…本当に倒したのか? ……確認してみるか…。
僕は恐る恐る立ち尽くしている黒騎士に剣を抜いて近づいていくと、ガタッと鎧が動いた。僕はヒビッて反射的に後ろにジャンプしたが、それ以上は黒騎士は動かない。風か何かに揺られて動いたんだろう。
「……びっくりさせやがって…」
「……れよ」
「…え?」
「喋った…!? ……ん?」
黒騎士が急に喋ったかと思うと鎧は砂のように崩れ落ち、僕の胸の辺りに吸い込まれた。夜のように黒い不気味な黒騎士の本体である大剣も、耳鳴りのような高い音が聴こえると同時に吸い込まれた。しかし、不思議なことに紫色の結晶は僕の胸ではなく、僕が持っている銀色に輝く剣に吸い込まれた。それにあいつが言った最後の言葉…。どういう意味だったんだろう。
「まぁ…いいか…。倒したことだし…。それよりも…」
僕は剣を鞘にしまった後、ステータス画面を開いてバリアブルブックを発動した。そう…未来を確認する為だ。だが、おかしな事が起きていた。
「……ない…。このページもだ…」
村が消される未来も…。僕が死ぬ未来もそこにはなかった。未来の事が書いてあった箇所には、子供が落書きしたようなグニャグニャとした線がいくつもひかれ文字のようなものは見えなかった。もしかすると、本来書かれてあったこととは違う事をしてしまったからかもしれない。
「……まっ…チュートリアルってことか…」
黒騎士を倒す直前まではどういう形であれルート通りだった。でも、ここからは自分で考えなきゃいけない…。当たり前のことだ。
でも、忘れているわけじゃない。結局…あと三体の四天王と魔王を倒さない限りこの村の脅威はきえない。…だからこそ、今ここで待つ必要がある。